第三章 幸福在処 ボクヲケサナイデ・・・―小説
たどり着いた場所・・・そこは小さな公園でした。
小さな公園には、
少ないけれど遊具があって、
ベンチがあって、水飲み場があって・・・・。
その中に、流さんのお母さんは入って行き、ベンチにそっと座りました。
お母さんは何も語りません。
語らない・・・
そして同時に、流さんを見ることもなくただ宙を眺めそこに居ます。
それでも良かった。
流さんにとってはそれでも良かったんです。
お母さんに、公園に連れてきてもらったと言うだけで十分だったんです。
それは、流さんが夢にまで見た普通の光景だったから。
当り前で、果てしなく遠く、願い続けた、
ごくごくありふれた・・・
流さんにとっての最も『 』な光景だったから。
本当にそれでも良かった。
流さんは、お母さんの目の前で、遊具で遊び、語りかけ、笑いかけ、
一生懸命に、一生懸命に、一生懸命に、一生懸命に・・・・
普通の、
普通の子供であるかのように。
ひたすらにまっすぐ・・・ただただまっすぐ。
無邪気に、無暗に、腕白に、お母さんの目の前で、遊んで見せました。
けれど、・・・・けれど、どうしても、お母さんに触れることは出来なくて。
本当は、抱きつきたかったけど、
甘えたかったけど・・・
流さんは、あの毎日の拒絶を、また目の前に晒されることに怯えて・・・
それだけはできなかった。
だからでしょう・・・・・。
止めることはできなかったんです。
すっと、お母さんが立ち上がりました。
「母様?」
流さんのお母さんは、公園の出口に向かってふらふらと歩きだしました。
流さんは、もちろんそれを追いかけたけど、追いかけたけど・・・・・。
「母様!待って!遊ぼうよ!俺!もっと、公園で遊びたいよ!母様!」
必死になって、声をかけたけど、叫んだけど・・・・。
「母様ッ!お願い!待って!」
ついにはその手首をつかもうとしたけど・・・触ろうとしたけど!
「母様あああ!」
流さんの、お母さんが公園の外に出た瞬間、流さんの手が見えない何かに阻まれました。
「母様!待ってよぉッ!」
流さんは、その見えない壁の向こうのお母さんに向かって大きな声で叫びます。
流さんは、その壁を壊そうと、
わけもわからずがむしゃらに
叩いて、
叩いて、
叩いて、
叩いて、
叫んで、
叫んで、
叫んで、
のどがかれるほどに叫んで、
それでもついにはお母さんの後ろ背中が見えなくなると・・・泣きました。
大声で泣いて悲しみました。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
こんなのもう嫌だ!
一人は嫌だ!
僕を見て!
僕を無視しないで!
僕を勝手に消さないで!
いいから見て!
返事してよ!
声をかけてよ!
嘘だ嘘だ!こんなの嘘だ!
こんなの・・・・現実のはずない!
意味が分からない・・・俺が何をしたと言うのだ・・・
嫌だ、嫌だ・・・嫌だ!
僕は捨てられたんじゃない!
捨てられてない!
俺は・・俺は!
母様!父様!
僕はここにいるんだ!
俺はここにおるのだ!
こんなの、、もう、、、、、うわああああああ!!!!!!」
第三章 幸福在処 暗い日々に瞬いた光 ―小説
流さんが『いない』様に扱われ始めました・・・・、
お母さんだけでなく、
お父さんや、
家で働く給仕の人からも・・・・
そうやって、家にいながら誰ともふれあえない毎日が続きました。
そんなある日のことだったそうです。
流さんが、食べ物を得るため台所に向かうと、
冷蔵庫の中に手紙が置かれていたそうです。
それは流さんに宛てたもの、そして差出人は、流さんのお母さんでした。
手紙には、
―玄関 ―ついてきなさい
とだけ書かれていたそうです。
流さんは、その手紙を不思議に思いながらも、今まで無視してきたお母さんが、自分に何らかの反応を示したことにうれしくなって、玄関まで駆けだしました。
転んで、
立ちあがって、
手が先へ先へと伸びて行きます。
あわてた足が、空を踏む。
流さんは、扉を勢い良く・・・・・・開けました。
逆光の中でくすんで映る後姿。
そこには、流さんのお母さんが待っていました。
待っていてくれた。
それだけでもその時の流さんは嬉しかった。
流さんが、お母さんに駆け寄ろうとすると、流さんのお母さんは、振りかえることなく歩きだしました。
「母様!待って!話したいことがあるんだ!待って!」
待って、待って、待って、お願いだから、待って
その叫びに耳を貸すことなく、流さんのお母さんは歩いて行きます。
―ついてきなさい
流さんの頭に、あの一言がよぎりました。
ついって行って良い?
・・良いんだ!
流さんは、必死にお母さんについて行きました。
お母さんは、全く迷いなく休むことなく止まることなくある場所に向かって歩いて行ったのです。
追いかけた先・・・・望んだもの・・・そこにあるはず。
あって、自分を待ってくれているはず・・・。
流さんには、希望がありました。
暗いくらい毎日の中でやっとの思いで見つけた小さな明かり。
それを流さんは手放さないように必死になって追いかけたのです。

