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第三章 幸福在処 3-16 見覚えのない故里 ―小説

「到着しました~!」
「したぞー!」


駅から降りた時には、二人で元気になっていました。
なんだか、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のようです。

流さんはつらかったことをたくさん話して、
私はそれを一生懸命聞いて、
流さんは楽しかったことをたくさん話して、
私は流さんと一緒に笑いあった。



ただそれだけのことだったけど



すごくすごく大事なこと。




なんだか、わんわんと泣いた後のようなすっきりした感じ―。
二人で分かち合ったことで、互いに互いを思われているという実感は、私たちの体を羽のように軽くしました。




「と、言うわけでして・・・、ええと、地図地図。」


出発前にちゃんと確認しました。持っているはずです。
ぬふふ、抜かりはありません。


「小羽はうちの近所の地図を持っているのか?」

「大丈夫、抜かりはありません。今日は地理の授業がありましたから忘れていません・・・んむむ!ありました!」


じゃじゃ~ん!ぷにぷに!


「後半の効果音が納得できぬ」

「見てください!地理の時間に使う地図帳です!!!この小羽!もはや抜けてるおバカとは言わせません!」


その時、私のスカートを流さんがくいくいと引っ張りました。


「ちょっと、その地図帳を貸してたもう」

「はい」

「うむ、では少しかがんでたもう」

「了解です。」


コンッ!



「痛いです!」
突然、地図帳の角で小突かれました!


「いや、だって久野殿が、こうしたら小羽の馬鹿が治ると」
「久野さんの言うこと聞くの禁止です!」


あうううう、久野さんみたいに容赦なくどつかれたわけじゃないですけど、

精神的にショックです。


「すまぬ、しかし、小羽。一般的な学校の地図帳は街の様子まで詳しく乗っておらんぞ、ましてや、それ世界地図だし」

「ええええ!そうなんですか!?」


なんとまぁ、ブービートラップです。

「いささかブービーなんとかであるかどうかはわからぬが、仕方あるまい。

方角だけならばわかる、少し歩いてみよう。小羽」




◆ ◆ ◆




流さんのお家があるこの町は、兵庫県の奥、日本海側にある山に囲まれた土地です。
緑は、濃い空気を作って、標高が高いせいか、

少し肌寒いけど、今のところ、まだ雪は降っていません。

針葉樹林が山肌を覆って、ザ・日本の風景と言った印象の町です。



「流さん?見覚えのある風景はないんですか?」
「ない・・俺は、家を離れたことがないからな。」



流さんは、魔法の修業のために、山に行く位しか外に出ることはなかったそうで、

それも古い風習で、月に1,2回、


ほとんどは、家の中で古文書を読んだり、写したり、暗唱したりと言った私たちの勉強と大差ないことをしていたそうです。


そのせいで、生まれた土地と言ってもほとんど土地感がない。

ふにゅ・・・でも、6歳って普通土地感もどうもないですから、

そう言う流さんは、やっぱり歳不相応に突出しています。



「そもそも、これほど田舎だったのだな。町と言うより村だ。」

「でも、方角だけはわかるんですよね」

「うむ。」


そう言って、一つのお山を指さします。


「あれが、俺の修業に行ったひでり山だ・・

あの山のふもと辺りにあるのだけは間違いない。」

第三章 幸福在処  それでも記憶は曇らない ―小説



―五か月・・・それが彼の過ごした時間。




一人で孤独に夜を過ごし、

空に向かって日々を数え、

水の流れでのどを潤し、

不思議とお腹は空かなかった。




そこが、結界の中であると知ったのは一日目だったけど・・・・

その意味を理解するのに一カ月かかりました。


流さんは、もう泣きませんでした。


泣くことさえできませんでした。


流さんは、思い出の中で過ごしました。心の中で過ごしました。そこが唯一寂しくない場所だったから。


楽しかった時間、その中で過ごすことは難しくありませんでした。

だって、ずっとずっと、その思い出を忘れないように握りしめていたから。
ただ、公園の桜が咲けば、もう少し寂しくなくなるだろうな・・・と。
そう思って、桜を見上げ―見上げるたびに色々なことを思い出しては、また記憶の底を漂い。

ずっと、そんな日々を4カ月ほど過ごして・・・・・。





◆ ◆ ◆





「うむ、であるから。きっと小羽が俺を連れ出してくれなかったら、今頃、そうやっておったのだろうな。」


まぁ・・・それでも良かったのかもしれぬが。
そう、流さんは言います。

私たちは、ようやく来た電車の座席に腰掛けて電車に揺られていました。
ガタンゴトン、一定のリズムで走る列車のリズム。
この車両には私と流さんしか載っていませんでした。
流さんは、その後も自分のことを話してくれました。
少し恥ずかしそうに、少しうれしそうに。



「楽しかったんですね。」



「ああ、楽しかった。ふふ、宝物は、沢山のビー玉だった。きらきら光っていた。母がはじめて俺にくれたものだ。」



いつの間にか、流さんは楽しかった時の記憶を話してくれます。


お父さんも厳しいばかりの人ではないこと、

従兄の兄が人形でよく遊んでくれたこと。


たくさんたくさんの思い出・・・・それは、流さんが握りしめていた記憶。
本来だったら、新しい楽しい出来事に霞んで消えて忘れてしまっているような昔の記憶。


「ねぇ、流さん。」


「ん?」


「ビー玉の話もっと聞きたいです。」
電車は、目的の駅へと向かって、ガタンゴトン走って行きます。

アリスシリーズ一応完成


完成

完成
はい、ひとまずこれで完成


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