蒸れないブログ -170ページ目

第一章 自己消失 1-8 死の淵の彼女 ―小説

生まれた場所は、神イズル国と呼ばれていた。
ここ日本には八百万の神がいて、当然のように僕の実家もその一つを祭っていた。
イザナミナミコトとよばれるその神様は、この島国を作ったとされる二人の夫婦のうちの奥方の方。
だけど、彼女は愛する子供を産んだと同時にその子供に焼き殺されて暗い淵へと落ちてしまった。
堕ちた彼女は常世の女王として生きる。
自らの生を生み出す儀式が、自らを死の淵へと束縛する儀式に変わったとき、彼女は自らの子を恨んだろうか?―いや、それはない。
そこは草木いっぽん生えぬ死の沼。
穢れの坩堝・・・・それを只管に制御し続けた彼女。
―その行動からわかる。
彼女の賢明さは、自らが生きた世界を守るためだったに違いない。
生まれ出でた子を思えばこそ・・・あの死の坩堝の中、彼女は女王となり制御を続けた。そうに違いない。
母は言った。
「だからこそ、祭るに値するのだ。私たちは、彼女を恐れるから祭るのではない。死の淵の女王は優しい優しい女性だから・・・彼女の苦労をせめて・・・すこしでも労う為に祭るのだと」
そして―母は続ける。
「祭るということは只事ではない。彼女は今も私たちの生を安定させるため死の穢れの苦しみにその身を焦がしている。その苦しみをねぎらうことが人の身でかなうには、即ち命をかける必要がある。だからね―」
母は悲しそうに言った。悲しそうに続けた。
「私たちは彼女の受ける数十分の一でもかまわない、その身に穢れを背負う必要がある。ただの穢れではない。死の穢れ・・・。あなたもこの神魂の子ならばそれを受け入れなければならない。」
そう言って、僕を抱き寄せた・・・懐かし母の温もり―そうして、母は言った。
「あなたは愛された、母や父だけではない・・・神に―故に、彼女は力を与えた。―それが、新たな穢れを呼ぶとしても・・・・それは、あなたの宿命」
太陽が明るく照りつける丘の上、ここなら、海岸線まできれいに見れる。
その丘の上で、母はぼくに言って聞かせた。

もうすぐ、みぃちゃんが来る時間だ。

ぼくが、母の言葉の重みを知ることになるのは・・・・ずいぶん先のことになる。


第一章 自己消失 1-7 溶け出すということ ―小説

「ルール説明?」

そう、弓端さんのお父さんの身に起きていること、これから起こること。その正体。

「はぁ・・・。」

僕の言葉足らずな説明にカザトが割って入った。、

「弓端さん。あなたはお父さんが『自我を亡くしている』と言った。

でも、それは冷静に考えてみておかしな感想だと思いませんか?

ご用件を聞く限り、あなたのお父さんの映像を見ても

あれを説明する的確な表現はどう考えても

『溶けている』が、正しい。

にも、かかわらず、初めに出てきた言葉は『自我を無くしている』だった。

それはね。とても正しいことなんです。」

カザトは、紙を取り出し、そこへ筆ペンで『溶解』と書いた。

それを机の上を滑らすようにしてこちらに突き出し説明を加える。

「溶ける―溶解するということは、一般的には『気体・液体・固体が他の液体あるいは固体と混合して均一な状態となる現象』を指します。

ですが、この言葉の核となるものはそこではありません。

それは、この言葉の由来をさす現象であって、この言葉の説明ではない。

この言葉の持つ概念というのは、『一方が、他方と混合し、均一な状態となる有様』です。

つまりね、『溶けるということは、境界を無くす』ということです。

気体か液体かなんてものは重要じゃない。


そして、人間が外界と区分している境界は、自我・・・・―自己統一性感覚―に他ならないんです。

アイデンティティも近い言葉ですが、それよりも深い。

人間は赤ん坊の時に、自己をより固定化するために、物を口に入れたり、触ったり、なめたりすることで、事故ではないものを知覚し、自分とは違う外界を形成していきます。

もう一つ重要なファクターは、他者の視線ですね。

外界の形成は、内界の形成でもあります。さらに、いろいろな経験を持って自己は細分化され、他者の中にある自分がより自分という存在を強固なものとして、自我を形成していく。


そうやって、自分は他人とは違うー自分は自分だー自分はこういう存在だーという世界との境界を作り上げることで、自分の形を作り上げていきます。


そんな、自我を完全に忘却してしまったら、一瞬にして境界は無くなり、世界に体は解けだしてしまう。


わかりますか?だからあなたのお父さんは、溶けたんです。」


「自我がなくても、人は・・・・・・あ・・・・・・・」

弓端さんは、どうやら気がついたらしい。


「お気づきになられましたか?ええ、先ほどの魔法という法則に照らし合わせて考えてください。

あくまで観測者が感じた通りに世界が変革する法則―それが魔法だとするならば、自我に境界がなくなれば、それを象徴する肉体という存在が溶解するのは必然なんです。先輩が魔法使いが関わっていると思考した理由はそこです」


弓端さんには自分の目の前の恐怖がなんであるか知る必要があった。

今起きている現象がなんであるか・・・・

でなければ


僕が、護衛しようにも、護衛されている本人が、正しく物事を判断できなければ、弓端さん自ら、どつぼにはまってしまう可能性がある。

だから、魔法使いとは何なのか、魔法とは何なのかを知ってもらわなければ話にならない―これも護衛の一貫。


なにより、今回の殺人事件は、慣れ親しんだ科学的ミステリーではない。犯人を知りたくば、異なる世界法則(ルール)を確認しとかなくちゃな・・・。


だからこそのルール説明。


何度聞いても意味がわからないし、突飛な話だ。

そもそも、魔法使いだのなんだの。こんな話をみぃちゃんが簡単に信じてしまったことに驚いている。

―単に育ちがよすぎるためか

―それは追いつめられた彼女故に、すがるように受け入れたことなのか

いずれにしろ、弓端御世は、詐欺師に確実にだまされるようなタイプではあるみたい―同時に守ってあげたくなるタイプでもある。




それから、小一時間ほど話を終え―みぃちゃんの理解も上々に得られたようだった。

用事はすんだ・・・ここに長居もできまい。

カザトの家を早々と退散し、みぃちゃんの家に行くことにした。



というわけで、再び、みぃちゃんの車の中。

「ふと、思ったのですが、このまま、カザトさんにまかせれば、すべて解決するんじゃ・・・」
いや、あいつのやってくれることは異界の消滅だけ、今回の件に関してどうこうってのはノータッチだし、なにより、魔法使いをどうにかしないことには元の木阿弥だ。
「じゃぁ、魔法使いをどうこうする人もいるってことですね。」
僕は、だまって頷く。
確かに、・・いる。が、できれば出張ってきてほしくない連中だ。カザトが、異界の消滅にしか手を出せない存在に対して、そいつらは、魔法使いを狩ることにしか『興味の持てない』連中だ。この差は大きい、前者は明らかな傍観者で済むが、後者は時により魔法使いより厄介な結果を残して去っていく。今回の件で、奴らが来たら、弓端さんの世界は平穏無事とはいかなくなるだろう。
もっとも・・・魔法使いなんてものにかかわる時点で、平穏無事という言葉はほど遠いのだが。

「あの、あんまりしゃべらないんですね。」
「?」
「いえ、・・・なんというかうまく言えませんが、・・・カザトさんとは自然に話していたような気がして・・・私とは、無口なんですね。いえ、無口というよりどこか、抑制している・・・ごめんなさい、ぐだぐだですね・・・どうもうまく言えない」
大丈夫、みぃちゃんの文章構成能力の愕然とするくらいの低さは、初対面の挨拶の時点で十分すぎるほど分かっているつもりだ。
まぁ、しかし・・・
「無口・・・か・・・・」
確かに、彼女と出会った時は、事情を聴くまで完全無視だったし、あとは、最低限の質問に答える以外は、こちらから話した一言など・・呼び方はみぃちゃんで構いませんね?・・・くらいだろう。無口と思われても仕方がないと言えば、仕方がない。
きっと、みぃちゃんがサトラレだったら、あまりに僕が多弁すぎてびっくりするだろうな。
今からふと見渡してみても、僕の愚痴はそのほとんどが地の文だ。こういうのを、もしかしてむっつりというのだろうか?

だが、そもそもは是も安全保障の一環なのだ。「ぼくなんかが」、べらべらと冗談ばかりついているうちに「失言」をしてしまったら「冗談では済まなくなってしまう」。

ぼくには、自由に発言できる権利なんて・・・・ないんだ・・・・。

と、再び思考の世界に閉じこもると・・・。

「ほら、やっぱり、私ってそんなに話しにくいでしょうか?」

いや、みぃちゃんに落ち度はない。これは完全にぼくが悪いのだ。そう、話さないのではなく話せない。僕の無駄口はそのまま愚痴になりやすいし、前述通り・・・時として『それどころではなくなってしまう』。
といっても、理解してもらえないよな。ということで・・・苦し紛れな言い訳実行!
例えば・・・
「え?」
例えば、人にはそれぞれ才能ってある。
「はい。」
同時にそれは才能がない人がいるということです。
「はぁ・・・」
僕には、女の子とおしゃべりする才能がないようです。
「そうみたいですね」
納得してもらえた・・・

なんか悲しい。

幼少時出雲に住んでいた頃には、Alice以前にぼくを『ひぃ君』と呼んでくれる女の子がいて―普通にあどけなくごく自然に会話していたのに・・・自覚はないけど、やっぱり意識してるんだろうか?
まぁ、数年間、海外で濃い糞ったれな野郎共にもまれたのだから―こういうのはおれの落ち度じゃないよな・・・・。


昼過ぎ、大きな屋敷が見えてきた―おそらくそれが弓端さんのお屋敷。


弓端家は、さすがというべきか、京都に似つかわしいのか、それとも徐々に近代化する京都には似つかわしくないのか、とにかく立派な武家屋敷だった。
ものすごく高い塀に、周りには『おいおい』と言いたくなるような幅の広い堀で囲まれている。
さらにその周りをぐるっと一周するようにまた塀が囲んでいるのだからもはや、籠城のために建築したと言ってくれたほうがどれだけ分かりやすいか。何かの研究所だってここまでのセキュリティはしないだろう。
どうしてこんな構造の家が必要なんだ?

僕の中の何かが軋んだ―ほんの少しの奇妙な感覚。違和感。

―気にするほどのものではなかったが。
こうなってくると、いかに旧家とはいえ、ご職業が気になってくる。
みぃちゃん自体は、遊びで働く資産家という奇妙な存在らしいが、もしかしたらや○ざ屋さんなのかもしれない。うん・・・もしそういうことなら、小心者できわめて気の小さい僕はなビビるほかない。
「お父さん何してる人?」
「さぁ。父の職に興味を持ったことはないので・・・」
もしかして言えない職業?・・駄目だ。ものすごく不安になってきた。
いや・・・待てよ、あのみぃちゃんのことだ本当に知らないのかもしれない。
しかし、両親の職業に興味がないなんて―僕には奇妙なことに思えるけど・・・。
ぼくらは、橋を渡って正門にの前に立った。
正門も大きい。

みぃちゃんは、大きな扉の横に付いた小さな扉から入った。

だよなぁ・・・、さすがにこんな大きな門をその細腕であけたら引くわ。

それに続くようにして僕も入る。
しかし・・・こんなつくりの屋敷なんて、本当に時代劇でしか味わえない代物だろう。
扉をくぐって最初に出迎えてくれたのは日本庭園だった。
今日の天気がはれていたせいもあり、鮮やかでありながら、質素な、わびさびを感じさせる景色が、ただただ、僕を感嘆させた。
日本の独特の美の空間。主張しすぎることなく―ひっそりとしながらも、目に見える光景に統制と秩序と快感を与える風景。
大きく背を伸ばし、枝の一本一本もだが計算された松や、せせらぎを生み出す池と路、冬の寒空の中にあって今なお咲く、山茶花、白梅、シクラメン。
白梅の匂いはここまで届く―それは少し懐かしい香り。


「目の前に見えるあの一番大きな建物が母屋で、あちらが使用人用の離れです。蔵にはSECOMがしてあるのでうかつにはいらないでくださいね。裏には、茶室もあります。」

ひろい・・・ひろすぎる。母屋だってこれでもかというくらいでかいが、庭園のスペースも合わせると相当な大きさだ。
なんてブルジョアだったんだ・・・。

「ああ、そうそう言い忘れていましたが、この家は堀をはさんで二つの外壁で守られていることはもうご覧になりましたね?」
ええ
「壁と壁の間には赤外線感知装置が蜂の巣のように張ってありますので、外出なされる時に、ここにはいる時通ってきた橋から手を延ばされると、感知装置に引っかかってしまうので気を付けてください。」
なるほど、鉄壁の防御、難攻不落の要塞というわけだ。もはや、国家レベルの秘密の研究室がこの敷地内にあっても驚くまい。むしろ納得してしまう。が、そういえば、知り合いの金持ちの家もセキュリティにはこだわっていた。大きな金を貯めこんでいる家は、このくらい当然なんだろうか?もはや、僕には判断できない世界である。
だれだ?よりにもよって、こんな難易度高い要塞を攻略しようって言う魔法使いは?
「さぁ、あがってお茶にでもしましょう。あなたがしゃべらない分、私は、もうのどがカラカラなんです。」
あ・・・・・
今気づいてしまった。
気づかなければよかった。
みぃちゃんは結構根に持つタイプだ。


第一章 自己消失 1-6 ルール説明 ―小説

「まぁ、いいです。あ、そろそろ着きますよ。」
僕らは、京都駅からずっと南に下った先にあるぼくの知り合いのアパートに向かっていた。

彼女の仕事に取り掛かる前に、事態の確認も兼ねて少し合っておきたいやつがいたからだ。


「これから会う人って、どういう人なんです?」
う~ん。あいつねぇ・・・ああ、一言で言うと。
「正義の味方――」
「まぁ・・・」
「―にあこがれる少年」
「がっかりですね。」
「そうでもないよ。」
確かに、がっかりな言い回しかもしれないが・・・やっぱ、そうとしか言いようが無いよなぁ。



アパートは二階建ての絵に描いたようなボロアパートだった、いや、骨董アパートといったほうが的確か・・・。

よくいえば、戦後テイストただよう感じなのだが―現在の年号は当然平成であることを言えば古臭いという意味にしかならないのかもしれない。
そんなアパートの二階、右端から三番目に位置するさび付いたドアを、軽くノックする。
「カザト、いるか?」
ごそごそと、おそらくサンダルでも履いているのだろう、物音の後に、すぐ扉は開いた。
「お久しぶりです?どうしたんですか?また愚痴ですか?」
それは、今後の展開しだいだ。
ただ、そうだな、この時実際愚痴を言いたかったのも事実だ。

どうして、おまえはそう爽やかなんだ。


◆ ◆ ◆



「すいません、ウーロン茶でいいですか?先輩」
「かまわなくてもいいよ」
「お連れの方は?」
「う、ウーロン茶お願いします。」
カザトは、手早くウーロン茶をグラスに入れると、目の前のちゃぶ台に置く。

先ほどからみぃちゃんの様子がおかしい(断られたが、ココロノナカでは当然の如く使用する。)


やれやれ、たいていの女の人はカザトの毒に当てられるが、みぃちゃんもその例外ではないか・・・

相変わらず無表情でわかりにくいけど。

罪なやつだ、時峰(ときみね)風都(かざと)。


だが残念ながら、この少年は、そのまとう雰囲気とは裏腹に、これでまったく女性に興味が無い。

もちろん男性がすきというわけではない。

なぜなら、こいつ、見た目こそ、身長176センチの好青年だが、実年齢・・・。

「そういえば、ぼく、昨日の誕生日でついに五歳になったんですよ。『大虐殺』から5年ですから、生誕五周年といったところでしょうか。」


4・・・いや、5歳になったらしい。

あいかわらずふけてる―とは言わないよな。

体は大人、心は子供・・・なんだか駄目な人のキャッチフレーズだ。

だが、見た目以上に中身の方はほぼ成熟していると言っていい。

むしろ、僕より落ち着いていると言っていいほどだ。


いや・・・そもそも、彼の精神は成熟も成長もしていない・・・生まれた時からこうだ―彼は最初から『出来上がった』存在なのだ


「で?先輩。お連れの方を紹介してはもらえないんですか?」

ああ、悪いな、こちら弓端さん。今回のクライアント。それでな、カザト、ここ最近、調律のほうはどうだ?

「ええ、いい感じですよ。この街に関してはほとんど問題は無いですね。僕も、大分と力の扱いに慣れてきましたし。」

じゃ、C町のほうは?

「あそこは、別ですね。最近妙にぐらついてきて、もうそろそろ結界ができて異界になるかもしれません。」

魔法使い?

「ここまで、世界法則をどうこうとなればそうかもしれませんね。そろそろ、僕もあのあたり一体を消去しようか考えていたところです。」

消去・・・・か、それはまた急を要する状態だな。
どうやら、本当に魔法使いの線が強いみたいだ・・、確認したいことは終わった。さてと・・・。
カザトの言葉を聴いて、弓端さんは目を見開いた。
「しょ、消去・・ですって?」
「先輩・・この人」
ああ、ぱんぴ(一般ピープルの略)だよ。

どうやら本題に入れそうだな。

「消去って、まさか本当に・・・・町を消すんですか?」

「ええ、消しますよ。消えてもらいます、あなたの町に。」


カザトはにっこりとほほ笑みながらいった。



僕としては、みぃちゃんには、この世の事実を知っていてほしい。
それは当事者である彼女の当然の権利であるし、なにより、めんどくさいからだ。
だから、神様(カザト)から教えてもらうのが一番だと思ったのだ。



  ◆ ◆ ◆



「消去ってどういうことです?町を消すってことですか?本気でそんなことができるとでも?」
弓端さんは、一気にまくし立てる。

当然だ・・・信じられる話じゃない。
しかも、ひどいことを言っている。科学的にはだけだけど。
「困ったな、先輩。誤解、発生してますよ?」
「いやいや、これはこれで予定通り。説明してやれ。カザト少年」
「先輩・・・・自分で説明するのがめんどくさくなってここにきましたね。」
ああ、まさか、こっちから切り出すまでもなく弓端さんから聞いてくるとは思わなかったけど。
「僕がするより適任だろうさ。ほら、俺が説明すると、途中で単なる愚痴になるだろ?」


「先にあなたの質問に答えさせていただきます。弓端御世さん。僕は、本気であなたの街を消すことができます。そして、それは僕の義務であり―『しても良いこと』です。が、それはあなたの考えているような非人道的なことではありません。」

彼はそう語り。

「なにせ、僕は管理者ですから。そう、古めかしい言い方をするなら・・・」

人差し指で自らを指し―。


「神です」






世の中に摩訶不思議なことは多い。
冗談ではなく、本当に多いのだ。今回のことだって世の中にありふれている、ありふれすぎている猟奇殺人よりありふれているのだ。
でも皆知らない。
こう言われたらおかしな話だと思うだろ?
そもそも、魔法などという摩訶不思議なものが、この世に存在しているのなら、どうやったって、隠し通せるものではない。
人間は、異常に敏感で且、常にそれを求め続けているのだから。
皆知ってるはずなのだ。




ちょっと悪いが、「魔法と魔法使いと神」というものを先に論じよう。付き合ってほしい、愚痴なのだから。

魔法は、けして知られてはいけないものだ。
魔法は、あくまで神の秘法、『人間が扱って良いものではない』から、なにより、『人の世に災いを招く』から、絶対に知られてはいけない。
それゆえ、神は常に監視している。
僕らの隅から隅まで監視している。

けして、人が魔法と呼ばれる知恵の実を口にしないように・・・・

だが、残念なことに一部の人間が、それを手に入れてしまったのだ。そういった人間を僕らは『魔法使い』と呼ぶ。

魔法使いは、手に入れたその力で、『何か』をすると現在同時に存在している科学と呼ばれる世界法則に、矛盾した結果を残す。

それが、世界にとっては負担となるのだ。

現在、科学という世界法則によってこの世界が安定しているというのに、相反する世界法則が、安定した世界を侵食する。

そして、それが度を超すと、科学と魔法が混在する世界が出来上がってしまうのだ。

科学と魔法が混在した世界は、異界となる。世界を蝕む癌となる。

世界にも、人体と同じく、ホメオスタシス・・・恒常性を維持しようという機能があるため、異界となった部位を結界によって隔離し、それ以上の異界の侵食を阻もうとするのだが・・・・。



「ですが・・・、異界の空気が結界から漏れ出て人心を惑わし猟奇的な殺人者が生まれるんです。

ほら、最近ニュースでやたらと殺人事件の多い土地を『異界』って呼ぶでしょ。

僕らの言うところの異界とは、定義において違いはありますが、ちゃんと関係してるんですよ。

僕らの言葉で正確に言うなら、異界の空気に汚染された地域ってだけなんですけどね。

有名どころで言うと、青森、続いてここ京都といったところでしょうか。」

カザト少年、もう少し手短に世間一般的な話はこの場合どうでもいい。

この場合ホメオスタシスのほうが問題なのだ。

「ええ、では簡単に・・・異界を結界で囲っても悪影響が出るので、異界自体を消去する必要があるんです。よって異界ごと、その地域を消失させます。以上です。」

まて!手短過ぎだ!誤解を解け!誤解を!

カザト少年は、やれやれといった様子ではぁとため息をつく。

・・こいつ、実はものすごく性格が悪いんじゃないだろうか。




「一口に消滅させるといっても、おそらく、ミユさんの想像しているものとは違います。異界は所詮は、、魔法による世界法則のゆがみでしかないので、地図から町そのものを消す必要はない。

ただ混在する世界法則から、魔法的法則だけを消滅させればいい、この場合、町ごと意味を消失させるんです。」

「意味????」

みぃちゃんは目を白黒させる。

当然だろう、僕だって初めて聞かされた時には意味が分からなかった。

「意味を消す・・・・この場合、簡単にいえば、そうですねその空間を観察できなくする」

「意味をしり観察することによって事象は初めて存在できる。

そう言いたいんですか?

それ、矛盾してません?

事象は存在し観察することによって意味を理解できるんです。

観察者が。意味を知らずに観察できようとできずとも事象は存在するんです」

「いえ、観察できる人間がいなければ事象なんてありません。あなたの言った理屈はあくまで科学的な理屈です。魔法的にいえば、現象というのは観測者がいて初めて存在できる。

意味をもって、影響を及ぼせるんです。

例えばです、

科学的には幽霊というものはいません。

客観的に存在を証明することができませんし、存在しないことを証明できるから、0を1にできない理由で、科学者は存在しないと言い切る。

魔法的には幽霊というものは観測者がいる限り、存在します。

観測者が主観的にいると感じ、つまり観測すれば、それは事象として意味をもって、観測者に影響を与え、恐怖させることができるんです。その時存在すると言い切れる。」

「つまり、実際にはいてもいなくても、観測者がいると思いこめば、居ることと同じだと、そういうんですね。」
そう、根本的に、存在の定義すら、魔法と科学では大きく違うのだ。

だが、観測者に認識させることにより事象を起こすことが、魔法の根本原理だというなら、・・・なんだ、大したことはない、何が神の秘法だということになる。

だって、それって催眠術師や宗教家がやってることと一緒だろ?。

どうやら、みぃちゃんもそう考えたらしい。

「そういう法則が、魔法というのなら、魔法使いって催眠術師のことなんですか?」
「いえ、大きく違います。

催眠術師が効果を及ぼせるのは、所詮観察者が生命体だけに限局し、また、観察者の想像する範疇を超えることはありません。

つまり、それは観察者が夢を見ているにすぎない、それを世界法則というなどとてもとても・・・。」
「じゃぁ、どの様にちがうんですか?」
「観察者は、生命体だけでなく無機物、いえいえ、空間、時間、運命においてまで、科学と同じくすべてに有効なんです。

しかも、それは、観察者のみならず、術者の範疇も超えてしまう。

・・・これも、科学と同じくね。


―さて、話は何故「魔法という存在が皆に認知されていないか?」という問いに戻る。―


話は戻りますが、だからこそ、町ごと消すんです、対象地区一帯の、
時間も
空間も、
無機物も、
生命体も、
もちろん人も、
有象無象の意味を消すんです。

―故に誰も魔法という存在を知らない、知覚できない、認知できない―


でなければ、異界を消滅できない。だが同時に、ただそれだけのこと・・・。安心してください、あなたの町は、科学的には消えたりなんかしません。あなたの大切な人もね。」

「でも、観察できないんでしょう?」

「そうですね、というより、理解できなくなります・・・概念的に。」

「それじゃぁ、やっぱり消えたことと同じじゃないですか!!」

「いえ、観察できないのは、あくまで魔法的世界法則の名残があるからです。

異界として機能しなくなった後、

あなたたち科学の理屈が徐々にその空間の中で再生し、

科学的な形で、あなたたちは町を観察し意味を得ることができるようになります。

あなたが初めに言ったように、存在する事象を観察し意味を得るといった、科学的世界法則が通用するようになってくるんですよ」

つまり、最終的には元通りになれるのだ。

まぁ、実際元通りになるまで観察者が意味を得るのに何年かかるか分からないけどね。


「わからない・・・」


弓端さんは、そう呟いた。理屈として分かっていても、納得がいかないのだろうか。


「なんで、こんなことを私に教えようとしたんですか?あなた。」


ああ、なるほどそう来たか。それはもちろん・・・。


ルール説明だよ。


◆  ◆  ◆