蒸れないブログ -169ページ目

第一章 自己消失 1-11 斜陽 ―小説

斜陽、茜色に染まる空が溶け込むように雲をもその色に溶かしていく。

物は影さし、みぃちゃんと僕の影をも引き延ばしていく。


二人で帰る帰路。


まったくと言っていいほど、その間に会話はなくただ二人で黙々と歩く・・・―その状況は、『普通に話すことのできない』僕にしてみれば助かるが―どこか気まずかった。


ふと、僕は立ち止まった。


ゴミ捨て場におもちゃが捨てられていたのだ・・・・大量に―子供のいる家で引っ越しの際によく見られる風景―もしくは、成人した子供が押入れの奥にあった昔の宝物を今は無用と捨ててしまったのかも。

普段なら気にしないようなことだったが・・・僕はその時・・・幼き日のある女の子の話を思い出してしまっていた。


「ああやって・・・・」


弓端さんは、おもちゃ箱を見つめていった。


「昔は大切だった物を・・・簡単に捨ててしまえるのって、不思議ですよね・・・。」


その言葉が、僕の記憶の中にある女の子とダブってしまった。

瞬間的に―僕は記憶の海へと落ちた。


◆ ◆ ◆



あの大きく開けた丘の上で彼女は僕に言った。
「ねぇ、大切ってどういうことかわかる?ひぃくん」
ぼくは、その言葉に何も答えなかった。とっさに浮かばなかったんだ・・・・そんなこと考えたこともなかったから。

「―必要があるって事だと思うよ。必要がないと、大切じゃないから・・・簡単に捨ててしまえるの・・・・不思議だよね、人間って」

彼女は寂しそうに言う。

長い髪をポニーテールにした彼女は、その髪を風の中に揺らしていた。

「ねぇ・・・、私はひぃくんにとって必要な人になりたいな。そしたらね?ひぃくん・・・わたしを捨てないでくれる?」
「ぼくは・・・」
「ぽいって・・・、簡単に忘れてしまったら・・いやだな・・・そんなの、いや」


彼女は、丘の上から何かを見つめる。僕は何も知らなかった。今も知らない。


彼女は今どうしているだろうか?


ただ・・・・。


「僕は嫌だな・・・・そんな風に思いたくない」
心からそう思った。だって・・・・。

「僕は忘れないし、捨てないよ・・・みぃちゃんのこと。けど、必要じゃない」


必要じゃない―地獄のような言葉だった。残虐な言葉だったと思う。

ぼくは・・・・。


「       」




◆ ◆ ◆



最後に彼女に何て言ったっけ・・・・。



「人間て・・・。」

彼女の言葉に現実に引き戻される。
一瞬の頭痛―ぼくは、何かに引っ張られるようなその痛みに顔を少し顰めてしまった。

「捨てられたおもちゃに意思があれば・・・さぞかし恨んでるのでしょうね。

それもわかってるのに、捨てる側はこんなにも平気・・・それはすごく狂ったことなのかしら?」


僕の記憶の中の彼女と弓端さんは違った。
彼女は捨てる側に同情している。―そう、・・・だよな。



違う。


そう、それは違うんだ。

「狂ってなんかいない・・・だって、捨てられた子の気持ちわかってるんでしょ?

それでも捨ててしまえるのは『選んだ』からです。

選んできめて、前に進むため・・・捨てられた者の気持ちがわかってるなら・・・・それはきっと背負ったのだと思う」

―彼女もまた、捨てられた側の気持ちになって同情したのだ。

加害者が被害者の立場になれるなら、それは被害者の気持ちを背負えるってことじゃないか・・・・その行動を狂っているとは呼ばせない。


たとえ、結果はむごくても・・・・優しいじゃ・・・・ないか・・・・・


「そうかしら?本当にそう・・・わからない・・・・私はどのように・・・・・考えていったっけ?」


僕の言葉は彼女の答えにならない。

僕の言葉は答えじゃない―ただの我儘、こうでありたいという願望。それも僕個人の・・・。


僕たちは、自然と歩みを進めていた。

その場から立ち去りたかったのか?逃げ出したのか?
これだけは言える・・・答えは見つけられなかった。




もうすぐ、日が落ちようとしている。
帰って料理の支度をすれば、8時前には晩御飯にありつけるだろう。さて、デザートは出るんだろうか?



第一章 自己消失 1-10 夕暮れの商店街 ―小説

古矢さんは、みぃちゃんの外出に大反対した。それはそうだろう。

不審者がどこでみぃちゃんを狙っているか分からないのだから、当然と言えば当然の心配だ。

いろいろと話し合った後、僕も古矢さんを説得することになり、古矢さんに、「そこまでおっしゃるのでしたら」という頃には、結局15分を要した。



「すごいですね」
なにがだろう
「古矢は、いかにも気弱な印象を与える男ですが、あれで結構頑固者なんです。その古矢を言いくるめるなんて・・・」
そんなことありませんよ、とだけ言っておく。
そうですか・・と、みぃちゃんは納得して、僕の開けた正門をくぐる。ありがとう、と一言いった。
「では、商店街が近くにあるので、徒歩で行きましょうか。」





そこは小さな商店街だった。全長20Mもない。だけど妙に温かい感じと、穏やかな人の表情がそこにある。
またも、意外。

本当に庶民的なところで買い物をする。
いままでのお嬢様発言をすべて撤回したいくらいの庶民派だ。

僕はてっきり商店街などと言って、国内はおろか外国製品が所狭しと搭載された巨大スーパーマーケット、およびそれに類似するところに連れてこられるものと思っていた。

「どうしました?」
いや本当に商店街だとは・・・。
「珍しいものでもないでしょう?」
その通りですね

なんだけど・・・。

みぃちゃんは、ふらふらと、どことなくぎこちない歩みで八百屋に向かう。

店先に並ぶ、みずみずしい新鮮な野菜、その店先に並んだキャベツを手に取り、無表情に凝視する。
・・・何を考えてるんだろう?


そんなに睨んでも野菜の良しあしが分かるとは思えない。
そもそも、この人、商店街で買い物なんてできるのか?

初対面の人間に、どなりつけるような人だぞ?


いや・・・、もしかしたら、旧家の人間であるみぃちゃんにとって、この地域の人々とはかかわりが深いのかもしれない。それなら普通に―


「ちょっと!そこの店し―」


その瞬間、僕は自分でも信じられないようなスピードで、みぃちゃんの持つキャベツをぶんどり、八百屋の大将とみぃちゃんの間に割って入る!そう!僕は、今、光を超えた!

「こ、これ安くしてもらえますか?」



く、・・・つい、使ってしまった。



「おう、にぃちゃん。彼女と買い出しかい?熱いねぇ。大サービスするよ。で、いくつ欲しいんだい?」

「3つ・・、3つお願いするわ」

よし、どうやら、普通に会話できる軌道に乗ったらしい。

あとは、ほっといても大丈夫だろう。
店主は、みぃちゃんを美人だ、なんだと持ち上げながら、野菜を袋に詰めて、みぃちゃんに手渡す。


「お待たせしました。聞いてください。本当にキャベツを安くしてもらえたんですが、いくらだと思います?」
「さ、さぁ?」
「3つで、5円です。」

ありえねぇ・・・
サービスしすぎだろう。

いくらなんでも原価割れどころじゃねぇだろう。

商売成り立たないぞ。

「きっと、私が美人だからです」


それは言ってはいけません!!

自覚する程度ならともかく、けして口に言っちゃ駄目だよ弓端さん!!


「あれ?つっこまないんですね」

どうやら、みぃちゃん流ジョークだったらしい。

しかし、この場合、本当の美人が言うのだからジョークにしては劣悪な部類だろう。

ましてや、あなたは常時真顔なのだから。

「あ、すいません。そこのお魚いくらですか?」

魚屋に差し掛かったところで、みぃちゃんが立ち止まり、鰆を指さして言った。
?ん?あれ?
みぃちゃんが普通に、話してる。
というか普通に、声をかけている。初対面の人に。
いや、まてまて。

初対面とは限らない。

そもそも、商店街すべての店主と初対面などあり得ない話だ。

きっと、ここはみぃちゃんのよく知るお店なのだろう。
さて、僕のそのような疑問は、さておき次々と買い物をしていくみぃちゃん。
あぁ、なんていうか。こっちが普通のみぃちゃんなわけだ。
僕の目の前に現れた時のみぃちゃん
は、人形のような印象だった。

けれど、今の弓端さんは、あの時よりまだ幾分か人間らしい。

相変わらず無表情のままだが、それを除けば、あのとき感じた印象がうそのようだ。


「お待たせしました。買い物も終わりましたし、帰りましょう。」
「ん、ああ」
僕は、そう答えると、なんとなくみぃちゃんを目で追っていたことにようやく気がついた。あわてて、目をそらすと、目の前のお店でみぃちゃんが買ってきた食パンを代わりに持った。





と、その時・・・




電柱の陰に明らかにこちらを見ている瞳があった。

睨んでいる。

にらみ続けている。


その時、心に去来したのは恐怖だった。 


 ―ボクニ殺意ヲムケル存在―  


そこには明確な悪意がある。  


   ―ナラバ、ソレハ■シテモイイモノダ―


それには明確な殺意がはらんでいる。


  ―殺意ハ■■ヲモッテ答エネバナラナイ―


帽子を深めにかぶっているため、それが男か女かさえ分からないが、五感が告げる。


あれは危険だ。近寄ってはならない。


   ―ソレハ生存ヘノ欲望カ?イヤ、恐怖デアロウ?ナラバ委ネロ―


だが、・・・もしかしなくともあいつが・

  ―殺意ハ本物ダ、■■デキナイノダロウ?オ前ハホッシテイル。

                      渇イテイル、餓エテイル、自壊ノ音ニ狂っテイル―
                     


                ―加害者ハ―


目を閉じる。もう一度開く。         ―■■―


いない。


・・・・いない。


僕は左右に瞳を動かす。

やはり・・・・・・・・・・・・。



「どうかしましたか?」
こちらの顔を覗き込むみぃちゃん。
なんでもない・・・と、そういいそうになって止めた。そんな嘘、すぐにばれる。だからこそ、無言に徹した。


第一章 自己消失 1-9 方針 ―小説

ツクモ神
日本の宗教は、世界のそれに対して、よく、非哲学的、無思想的だというのが一般的な世界基準だ。

それ自体は正しい、が、いくつか、独自の概念的思想ゆえに、また、多神教ゆえに手に入れたこともある。

そんなものの一つが、ツクモ神だ。

人は、物に思い入れを持つだけで簡単にものに意思を込めることができる。

と同時に、人しだいで、物は自由意志を持つ神・・ツクモ神となり、一生命体のように世界に干渉できるというものだ。
物を大切にしろという教えとともに、今でもそれは人々の生活の中に根付いている。



・・・問題編・・・




僕は、みぃちゃんの家に上がり、長い長い廊下を抜け、やっと居間にたどり着き、彼女とお茶をしていた。

といっても、このお茶・・・みぃちゃんが入れたものではない。


彼女は、台所に向かうと三十分間はぼ~と、台所を端から端まで眺め・・・なにやら、うなずいたかと思うと、こんどは逆側から視線を移して台所を眺め始めた

そうこうしているうちに、他人の家でなぜか俺のほうがお茶を入れるという不思議状況に陥ってしまった。

て・・・・・何故だ?


まぁ、みぃちゃんも、小動物のように、ちろちろと、お茶をすすってくれているようなので、そこそこおいしくお茶をいれられたのだろう。それで、満足して文句を言う気はなくなっていた。




なんていうか、ここまで広いと明らかに不便な家だな。キッチンも広いのでお茶っぱを探すのに一苦労してしまった。

まぁ、立派な家には違いないんだろうけど、大きな家というのも考え物だ。


そんなことを改めて考えながらお茶をすすっていると、みぃちゃんがこちらに話しかけてきた。


「さて、これから3日間の方針を話し合いましょう」
方針?

何の方針だろう?

あれか、僕がどこに寝泊まりするかとか、そういうのか。

いやいや、当然みぃちゃんとは別室でOKっすよ。

あ、でも蔵の中は勘弁願いたい。



と、そこに、どたどたとあわてた様子で、眼鏡をかけたやせ形の男がやってきた。


「お嬢様、おかえりだったんですか?すみません、蔵の掃除をしていまして・・・て、お客様ですか?」
あわてて入ってくるや否や、すぐさまみぃちゃんに頭を下げると、・・・こちらをちらりと見た。

その視線は一瞬だったが、品定めでもされたような感じだった。


「・・・」


眼鏡の男を無言で凝視するみぃちゃん
なんだろう・・・?この間。
僕は不自然な空気をどう読むべきか困惑していると、
弓端さんは、うなずいてからすっと、前に出て僕を紹介した。

「こちら、使用人の古矢惣一、うちの世話を12年間続けています。こちらは、私のボディガードです・・・・でよろしいですよね?」
「ええ」
僕は、頷くと・・・あらためてこの家の使用人、古谷惣一をみた。

しかし12年・・・それはまた、この使用人にはずいぶんと長い。

古矢さんは、歳、30といった若さだがら、きっと大学に行ったかどうかは分からないまでも、就職年齢に達してすぐにここに来たのだろう。

「古矢です。よろしくおねがいします。」

と古矢さんはお辞儀を丁寧にしてきた。

「それでは、古矢。わたしは、この方とお話ししたいことがあるから、下がりなさい。」
うわぁ、命令しなれているなぁ。本当にお嬢様だ。

再確認・・・。
古矢さんは、はいとうなずくと、その場を離れた。


「それで、先ほどの方針の話なんですけど、私を、そのいけ好かない魔法使いとやらから守るためにどうするおつもりですか?」


・・・・・・・・・


え、そんなプランありませんけど?


「・・・・」


弓端さんは、無言でこちらを見つめてくる。
え、いやいや、待ってよ。
そんな期待されても・・・困ったな。
しかし、まさかここで、I have no idea(流れに任せようぜ) 的なこと言ったら、さすがに弓端さんも怒るに違いない。


ここは・・・・・・



1、 適当なことを言ってごまかす
2、 本当のことを言って平謝りし、許してもらう。



当然、答えは・・・・


弓端さんは、基本的に今まで通りの生活をしてもらって構いません。

仕事は、控えてもらいますけど、外に行く時は必ず僕と一緒に、その他は普通にしておいてください。

ただ、僕の部屋は弓端さんの部屋の近くにとっていいですか?

それなら、守りやすいし、異変にも察知しやすい。

とにかく普通に生活を、相手には、僕という存在が、魔法使いに特別視されると困りますから。

そうして油断させたところを、捕まえましょう。

3日間守り切ったところで、魔法使いが、三日め以降に手を出してこないという保証はないんです。

彼らはそれほど律儀じゃなんですから。

捕まえる方法は、僕に任せてください



1ですよ。

とにかく、今の答えに弓端さんは納得してくれたらしい。
よかった。
この場はしのげたか。

「そうですか、なら、今日の夕飯の買い出しにでも行きましょうか?」

え?
意外だ。弓端さんは、根っからのお嬢様なんだから、そういう雑用めいたものは古矢さんに任せるものかと思っていた。

「どうしました?」

あ、いや変ではない。

変ではないが。


相変わらず無表情なみぃちゃんが心を開いてくれたのだろうか?

今まで通りの声色の変化がかたちだけでなく、そこに『感情を感じる』。

「?」


無表情にこちらを見つめてくるみぃちゃん。


「いいですよ。さぁ、いきましょう」