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DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #2

 

    ◆ ◆

 

 

「で、これはなんでしょうか?」

大阪府の北部T市、ショッピングモールが群立するそこにポツンと一つだけオフィスビルがある。その一階のカフェテラスで私はそれを受け取ったのだ。

「社長からの直々の頼まれごとよ」

私が渡されたのは紙袋、中身はHデパートの包装紙でプレゼント包装されている。それを上司から渡された。珍しい事だ。いつもは毛程にも愛想の無い女上司梅宮課長ー私が本社に栄転になるのも内心面白くないと思っていた人物だ。

そんな上司が、どういうわけか、私を頼りにすると言う。

その奇妙さに一抹の不安を感じないといえば嘘に成るが、社長から直々にといわれれば断るわけにはいかない。

「東京の取引先への手みやげで中身はたいそう高い調度品だそうだから、郵送するより手渡しがいいのよ。悪いけれど今回のプロジェクトの交渉役として派遣されたからにはコレも仕事だと思って受け取ってちょうだいな」

調度品―でなおかつ郵送さえはばかれると言われれば、この大きさであれば食器や古物と言った所だが、デパートで売っているレベルの物をそこまで気にかける必要があるのだろうか。

「そういうわけだから、お願いね。受け渡し場所は紙袋の中に入れといたから。

と、強引に押し付ける上司の笑顔に今となっては強烈な違和感があるが、その当時はタイミングの問題だろうと思い深く考えずに言う通りにしておいた。

 

古沢美加子と呼ばれた女性の失敗の始まりは振り返ればここだったのかもしれない。

 

    ◆ ◆

 

コルソ・メディカル株式会社は東京に本社をおく多国籍企業だ。ついこの間まで奥田薬品と呼ばれる製薬部門だけのアジア向け医療関連企業であったが、5年前の一度に5社との同時合併騒動が起き通商、化学、貨物輸送、バイオケミカル部門の創設を持って、この短期間で現在の地位を築いた。

最近では、中東系の通商、貨物輸送を安定させる為に軍事部門を開設するなんて噂もあるが、さすがに眉唾だろう。

古沢美加子が入社して、すでに4年となるが、正直ここは真っ当で平凡な会社だと思う。大きなお金が短時間で動くが、違法に関わる事は無い。

法務部(リーガル)の友人からも部門を広げた分だけ当然クレームがでるが、それ以上のことが起こる様子は無いと言う。

 

―だと、言うのに、何故『あの少女』は、あんなことを言うのか―

 

いずれにしろ、古沢美加子としての私は、この会社にある程度の信頼と信用を置いていた。

 

「ええっと、ココでいいのよね」

 

とはいえ、秋葉原に付いた頃にはそういった絶対の自信も陰りを見せていた。

メモに書かれた住所と現実を何度も見比べるがどう考えたって取引先の『東京第一銀行』の役員との交渉の場…とは、思えない。

 

だって、どうみたってそこは―メイド喫茶だったから。

 

DADA ~KuRU/kurU RE; SS~ Episode1  #1

 Episode1 A  Hard  Day’s  Night

 

 

宙に舞う硝子ノ破片(かけら)

ふわりと、手も足もまるで曖昧模糊(あやふや)で

虚(うろ)の様な暗い天蓋(そら)には、一つとして星は瞬いていなかったけれど―ただ、月が宙に浮いた私を影で覆っていて

 

地上100MUDXの頂上付近から地面を背にする事になった私は

 

常識的に考えて―死んだのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

2006年 414

  

  東京/秋葉原

 

 

この日本のサブカルチャーの聖地にして、大っぴらに誇るべきこの国の恥部は一見混沌としているようで―まぁ実際、混沌としているのだが、規則性のある混沌を有している。

東京都知事が好きそうな言葉で言うと『我欲』をそのまま体現しているかの様なこの街はそれでいて一種の統率性を持っていた。そのせいか、ここまで煩雑なごった煮状態であるにも関わらず妙な一体感を持って訪れる者を迎えるのである。

 

さて、この町が恥部だっていう話は今した通り。

恥部ならば隠すのがお互い赤面しない為のマナーだろう。

礼儀正しい日本人ならば、なおさらで。

ただ、その恥部ってやつを『売り』にしている以上、それを隠す方法というのも工夫が必要で、なんとこの町は自分たちの恥部を隠すのに、より悪め立ちするそれでいて合法的な恥部で覆い隠す事にしたのである。

恥部でより恥ずかしい恥部を隠すなんて初めに考えた人間は気でも狂っていたんだろうとは思うが、この目論見は思いのほか成功した。

これだけ『アンダーグラウンド』が反乱する町であるにもかかわらず。誰もここをそう言った危険な場所だと思わない。なんなら、外国人がわざわざ観光の為に殺到するなんて異常事態だ―いや、それさえも『見せかけ』であるが。

 

みんな雰囲気に惑わされて気づいていないが、ここまで犯罪の陰があちこちにまぎれている場所も日本では珍しい。

 

何を言っているんだと思っているんだろう?

じゃあ、指差し確認で示してみよう。

 

 まずわかりやすい所から、歩行者天国やそこらでやっている撮影会。撮影会なんて名前がついているが、下着をわざと見せ、その下着をバシャバシャ道路のど真ん中で撮影る行為は、どう考えても風営法や、刑法猥褻物陳列罪にひっかかってくる。実際、この頃、警察が乗り出して取り締まりを始めた頃だったが、それまでの間、誰も疑問に思わず笑って見過ごしていた事がそもそもの大問題だ。18歳以下が膝枕と称して風俗バイトを公然と行う事さえここでは当たり前になっていたりもする。もう少し、ディープになるとラジ館などのパーツ屋、特殊電気店では、盗撮盗聴に使える器具がそろっている。ちょっと知識さえあれば、小学生だってこの辺りの店を往復して買い物をすれば自動発火装置だって造れる。犯罪で使えそうな大概の器具はここから手に入れられるのが現状だ。エアガンだって、ここではあっという間に銃刀法違反につながる様な破壊力の殺傷兵器に変化するし、コンピューターウイルスの作り方を指南した本が売られていたりもするのである。

 

「どんなブラックマーケットだって―の」

 

ヤクザの抗争とか、銃撃戦が行われていないから安全だと感じているだけで、それ以外の多くの犯罪や犯罪の種が普通に町を歩いているだけであちらこちらに散見される。

 

ここは、日本屈指の犯罪都市だ。

 

さて、実を言うと今言った事は全て受け売り、しかもそうしたポルノとアニメに隠された悪の芽ですら表面上の出来事だと知ったのはそんな話を聞いた直後の事だった。

なぜなら、そんな話をしたガリガリの黒人はこう続けたのだ。

「ま、銃撃戦が行われてないってのは嘘だけどな」

それまでの私はM-4自動小銃の連射音が真っ昼間の東京で鳴り響くなんてこと、話のネタとしても使えない程『陳腐なジョーク』だと思っていた。

だが、今となっては、納得だ。

 

なにしろ―私はその最中に放り込まれたのだから

 

 

 最高に狂気(イカ)れた悪趣味な冗談(ブラックジョーク)のただ中に。

 

 

リメイク版『ペリュトンの事 —自在証明ー』 お試し版② 

僕は招かれた椅子に座る。どうやらスコーンまで用意してくれたらしい。しかも焼きたて。こう言う所がこの少女(こ)の厄介な所だと僕は思う。彼女の先ほどの言葉にしたって僕の身を案じてのことではない。何しろ彼女にとって僕が『この時間』に『無事』に辿り着く事など、端(はな)からわかりきっている事なのだ。だからこそ紅茶もスコーンもできたてで出てくるのである。だからといって社交辞令かと言えばそうでもない。ただ単純に『ノッカー』と呼ばれるあの真鍮製の金具のご機嫌具合を喜んでいるのだ。

「前々から、思っていたけれどさ。アレ、どういう仕組みだ?魔法か何かか?」

「さぁ?私は確かに識っているけれど、同時に理解っているわけではないの。だってこの家自体借り物みたいな物で、私は魔法使いではないのだから。」

少女はちょこんと椅子に座って自分のカップにも紅茶を円を描いて注いだ。

「ただ、もともとは鉱脈を掘り当てる精霊(スプライト)だとか妖精(フェアリー)だとか。セシリー(あの娘)はそんな事言っていたかしら。でも、まぁ私としてはそんな事よりあなたが4回叩いてすんなり入れたのであればそれで十分。」

それよりも、折角の紅茶が冷めてしまうわ―と話を変えようとする。

言っている事が僕にはさっぱりわからない、どうやら、説明する気はあっても解説する気はないらしい。しかも、冗談のつもりでいった『魔法』という言葉を否定されなかった事に驚きだ。少女はその幻想的な見た目とは裏腹に現実嗜好のリアリストで、あまり冗談を好まない。からかう事は大好物だがそこまで即興(ノリ)がいい人間でもないのだ。

案外、魔法だのお化けだの幽霊だのは、彼女にとっては了解可能な些事な出来事で、実在を疑うに値しないのかもしれない。

「予言者ともなると魔女とも知り合いになるのか、本当に所長は話のネタに困らないと『僕』は言うだろうね。」

「あなた、それは二度と口にしない方がいいわ。」

彼女は、紅茶を一口こくりと嚥下し

「女魔術師(メイガス)の前で魔女(ウィッチ)などと言うのは自殺行為だもの。」

と、付け加える。その両者にどんな違いがあるかはよくわからないが,自殺行為とはまた物騒な単語だ。

「今回は、あの憂鬱多弁(ブルーブルー)も関わったときいていたから、てっきりもっとろくでもない方向に転がるかと思っていたけれど、ええ、今回は存外ましだわ。」

アレをもってましだと言うこの中学生(少女)の感覚は絶望的に終わっている。

実体験として味わった人間からすれば、アレは地獄だったと思うし、もしかしたら現在も地獄なのかもしれない。

「では、依頼のご報告をお願いします。」

「何故?意味ないでしょ、それ。全て知っている人間に何を語れって言うんだ?」

未来を見通せるのならば、僕が話す内容などそれこそ事前に知っているだろうし、それらしき事も言っている。改めて語るなんて馬鹿馬鹿しい。そもそも彼女は黒幕なのだから。

「意味はあるわ。だって、今日私はこの時間にあなたの報告を聞く事になっているのだもの。もし聞かなかったら知らなかった事になる。」

「それは、今知っている事でも忘れてしまうと言う事?」

「いいえ、知らなかった体裁で世界が動き出すと言う事よ。これは確定した未来得る為の儀式みたいな物。変数Xを定数aにする条件付けみたいなものかしら…。そうね、白状するとやっぱり報告してもらわないと私は困るのよ。」

と、いいから話してちょうだいよ。と少しすねた様な顔をする。

美少女に物欲しそうな顔をされて、断れる程僕は冷血ではない。

僕は、紅茶を一口飲んで思案する。温かなそれは、冷えた体に沁み入る様に熱を与える。

さて、何処から話した物か。

「ええと、そうだね。頭が鹿、胴体が鷲って感じのキマイラだとか鵺みたいな奴がいるとして」

僕はおぼろげに覚えている蒼い男の言葉をそのままに―。

「そいつとやっぱり似た様なキマイラだとか鵺だとかに共通する事は何だろう?ってことらしい。」

僕は訥々と語り出した。

「要するにーそう、深戒櫃代が語りだすと、そのくらい簡単な構図になってしまうそうで。

仮に、そんな生物がいたとして、彼らは自身の事を何者であると認識するか、鹿なのか、鷲なのか、或はほ乳類なのか、鳥類なのか。

その疑問を他者に感じた物を「鵺」と呼び、自己に感じてしまうと「ペリュトン」とそう呼ぶのだと

ただ、それだけの「怪異現象」なのだと。

 

つまりは…」

 

大槻キコア(ぼく)は霧宮瑠璃(予言者)に、お伽噺を語る様にある一つの怪異譚を述懐する。

 

そこら辺にある与太話。

誰もが陥る失敗談。

きっかけは、ほんの些細な事なのに、人の御託は奇々怪々。

言い訳じみた苦悩の先に、享受出来ない不幸の底に

 

何かにすがる様にしてあったその事件は

 

只只ー『ああ、人間は弱い生き物なのだな』という事を証明する様なそんな出来事はおきたのだった。

 

 

あれはまだ、聖夜(クリスマス)を数日先に控えた冬の日のこと―。