『母たちと息子たち』 | First Chance to See...

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 2020年5月15日付の朝日新聞朝刊の1面下中央に、聞いたこともない出版社の広告が出ていた。行路社。住所は大津市比叡平。私の実家は滋賀県なので、大津市比叡平と言われればどの辺りなのか、すぐピンと来る。滋賀県と京都の県境、比叡山山頂付近に開発された高級住宅地だ。そんなところに出版社があったとは。

 

 

 ……っていうか、ちょっと待て、『母たちと息子たち アイルランドの光と影を生きる』のC・トビーンって、ひょっとして私の好きなコルム・『ブルックリン』・トビーン? で、でも、大変失礼ながら、私でも名前を存じ上げているほどの人気作家コルム・トビーンの新訳小説が、こんなマイナー出版社から出るものだろうか(版権争いで大手出版社に競り負けるイメージなんですけど)。ひょっとして、トビーンはトビーンでも、Cはコルムじゃなくて、チャールズとかコリンの略だったりする??

 

 と、心配だったので、広告記事に載っていた公式サイトに載っていたメールアドレスを使い、出版社に直接問い合わせることに。そして、チャールズでもコリンでもなく、あのコルム・トビーンの新訳小説で間違いないと教えてもらう。さらに、ちゃっかり書影も添付してもらう。

 

 

 きれいな本。間違いなく「コルム・トビーン」と書いてある。これならば、と安心して(?)、近所の書店に取り寄せ注文をした。

 

 数日後、近所の書店から入荷したとの連絡が入る。実際に本を手に取ると、何と「日本語版に寄せて」と題したコルム・トビーンによる序文まで付いているではないか。聞いたことにない出版社だけど大丈夫かなあ、とか思った自分を激しく反省。うう、すみません。

 

 全11作の短編小説を、もったいないから1日1話限定で読む。どちらかというと長編小説を主に手がけてきたトビーンが、「短編を書くからにはこうでないと」という美意識というか矜持を強く持って仕上げただけのことはあって、短めの短編も長めの短編もそれぞれにちゃんと重さと深さがある。とりわけ、最後に収録された「長い冬」が私は好き。どれをとっても、『母たちと息子たち』というタイトルから(私も含む)日本人がつい想像しがちな、親離れ子離れできないベタベタ親子の話では全くなかった。

 

 Amazon.co.jpのサイトで検索すると、6月末の今でもなぜか書影がアップされておらず、何となく不安に思う人もいるんじゃないかと思う。でも、実際の本はとても素敵なので、コルム・トビーンが好きな人は是非ポチってほしい。ただし、同じオンライン書店でも、e-honにはちゃんと書影が出ている上、あらかじめ登録した「My書店」にマージンが入る仕組みにもなっているので、オンライン注文するならこちらがおすすめだ。