First Chance to See...

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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 スティーヴン・キングの小説は割と好きだけど、ボリューム満点な長編小説が毎年のように出版されるため、フォローしきれなくなっているフシもある。そんな中、キングの長編小説にしては割と短めで、かつ、とても評判のいい作品の日本語訳が最初から文庫本として出版されるとあって私も注目していたのだが、

 

 

 350ページかそこらの文庫本で、販売価格はまさかの1650円。マジかーーー!

 

 キングの小説は、おもしろくて読み出したら止まらない。それ自体はもちろん良いことなんだけど、350ページ程度の長さならそれこそ2時間もあれば読み終わってしまう。それで1650円はさすがにコスパ悪すぎだろう。

 

 ためしに原著の電子書籍の価格をググってみたら、円安の煽りを受けつつも今なら1050円で買える。ためしに無料サンプルをダウンロードしてみたら、死んだばかりの人の姿が見えて話もできるという特殊能力を持つ22歳の主人公が子ども時代から現在までを振り返る、という設定の一人称小説なので、凝った言い回しもレアなスラングもなく、何だかえらく読みやすい。というか、冒頭のさわりを読んだだけでも"Later"という原題がすごく効いていることがわかり、これなら原著に挑戦する価値ありだな、と踏んでポチることに。

 

 

 ……いやあ、予想たがわずめっちゃおもしろかった。もたもたと原著で読んでなお、続きが気になって気になって仕方ない。もちろん、日本語訳で読むよりはるかに時間はかかるのだが、「続きが気になるーーー!」というワクワクをより長く楽しめるという意味では、むしろ時間がかかればかかるほどお得と言える。

 

 イマドキのタイパやコスパの考え方とは正反対なんだろうな、という自覚はあるけれど、でも楽しい時間は長く続くほうがいいじゃない? そもそも「小説を読む」とは楽しい時間を過ごすことであって、効率よく情報を収集することではないはすだもの。

 

 ただし、この小説を最後まで読んで「死者は嘘をつかない」という邦題の良さに舌を巻いたことは付け加えておく。キングの小説の日本語訳っていつもハズレがないんだよなあ、文庫本の値段が原著の電子書籍と同じくらいだったら、私も日本語訳で読んだんだけどなあ(ん、ちょっと待て、前段で言ってることと真逆の結論になってないか、結局最後は金の問題か?!)

 大根のリボベジから一歩進んで(?)、ミントの水耕栽培に挑戦してみることにした。でも、種から始めるにはいささかハードルが高すぎ/時期的に遅すぎ、ということで、近所の園芸店でミントの苗を買ってくる。

 

 

 ハッカホクトという名前の、「日本のミント」とのこと。正直ミントの種類なんて全然意識してなかったが、説明書きによると食用としても使えるらしいのでまあいいや。

 

 ミントの水耕栽培についてネットで検索してみると、苗で買ってきたなら土をきれいに洗い流して栽培せよ、というものもあれば、土をきれいに洗い流しそびれると厄介だからばっさりカットして挿し木で根っこを一から育てよ、というものもある。どちらがより素人向けなのかよくわからないが、土をきれいに洗い切る自信がなかったので挿し木ヴァージョンを試してみることに。

 

 

 中央の茎の部分の他に、脇で育っていたものもダメ元で水に挿してみた。正しくできている自信は全然ないけど、ま、今回は何もかもダメ元の挑戦ということで、よりにもよってこんな私に選ばれて買われてしまったミントの苗、ごめん!

 

追伸/挿し木にするため毟ったミントの葉は、まとめてソーダ水につっこんで飲んでみた。ミントの爽快感より妙なオイル風味があってあまりいただけなかったが、多分私がミントの葉の使い方を間違ったんだと思う(というか、思いたい)。

 ウィーンから戻る飛行機に乗っていて、機内エンタメの映画の中に「Ein Ganzes Leben」という作品を見つけた。

 

 

 「ひとつの、すべての、生涯」? 

 

 ……ん? ちょっと待て、これって私が大好きなローベルト・ゼーターラーの小説『ある一生』の映画版じゃないの、いつの間に映画化されてたのよ、観る観る絶対観るーーー!

 

 が、大興奮したのも束の間、オーストリア航空の機内エンタメでは「音声/ドイツ語のみ 字幕/なし」だったため涙をのんであきらめるより他なかった。原作小説の日本語訳が大ヒットした気配はまったく感じないけど、でもああどうか、日本でも映画館で上映してくれないものか。

 

 ……と思ったら、上映してくれましたね。それも、私がオーストリア旅行から戻った約2週間後という、私にとって実にナイスなタイミングで。

 

 

 映画は、20世紀初頭、母親を亡くして孤児になった少年アンドレアス・エッガーが、荷馬車に乗せられ、遠縁の親戚が住むオーストリア・アルプスの麓にある寒村に連れてこられるシーンで始まり、年老いて死ぬまでの一生を、時系列に沿って静かに描く。

 

 アンドレアスは、自分の感情についてほとんど何も語らない。悲しみも喜びも常に抑制されていて、しかもやがては死という定めの中にすべて消えていく。が、それでもそこには確かに、一人の人間の感情や苦痛や悲しみが、苦痛や労働に耐えて生き抜いた一つの生涯があった。

 

 アンドレアスが人生のほとんどを過ごしたオーストリア・アルプスの寒村は、外の世界からは完全に閉ざされているように見える。が、そんな辺鄙な僻地にも、20世紀の技術や政変や戦争は確実に変化をもたらしていく。この映画が荷馬車で始まり、バスで終わるように。

 

 原作小説を読んだ時も思ったけど、この作品のテイストはジョン・ウィリアムズの『ストーナー』に似ている。20世紀を生きた薄幸な男の話、というだけでなく、どちらの作品にも共通の静謐がある——ということで、『ストーナー』が好きな人には、ぜひ『ある一生』を試してほしい。もちろん、ゼーターラーの原作小説はおすすめだけど、この映画を観てみるのもいいよ?