『ある一生』 | First Chance to See...

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 ローベルト・『キオスク』・ゼーターラーが2014年に発表し、評価も人気も上々という噂の小説、Ein ganzes Leben。『ある一生』という邦題で、ついに日本語訳が出た!

 

 

 タイトル通り、この小説はアンドレアス・エッガーという一人の男の生涯を描いている。1898年に生まれ、オーストリア・アルプスの山岳エリアで人生の大半を孤独に過ごした彼にも、確かに心を強く揺さぶられる出会いや出来事があり、また、20世紀という時代の趨勢とも決して無縁ではいられなかった。

 

 驚嘆すべきは、この小説の短さとシンプルさだ。日本語訳で、わずか150ページしかない。小難しい理屈も比喩も出てこない。こんなに短くてこんなにシンプルなら、あっという間に読み終えると思うでしょ? ところが、一体どういう手腕だか、一つ一つの事柄がきちんとした重みを持っていて、読み手はそれをいちいち実感しながら読まずにいられないせいで、意外と読むのに時間がかかる——言い換えると、素晴らしく濃厚な読書体験を堪能することができる。

 

 期待たがわず、本当に良い小説だった。訳者あとがきによると、この小説はよくジョン・ウィリアムズの『ストーナー』と比較して語られるそうで、わかるわかる、私も真っ先に思い出したもん。もう1作、ポール・ハーディングの『ティンカーズ』とも比較されるそうだが、こちらはまだ読んだことがないので、近々チェックしてみようっと。

 

 が、それより何より気になるのは、ローベルト・ゼーターラーは2018年に上梓したというDas Feld(墓場)というタイトルの小説。どうかお願い、この小説の日本語訳も出してくれえ!