ナショナル・シアター・ライヴ「アレルヤ!」 | First Chance to See...

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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 演出家ニコラス・ハイトナーと脚本家アラン・ベネットのコンビによる作品、と言えば、ついこないだマーク・ゲイティス主演で観た「英国万歳!」もそうだった。でも、「英国万歳!」が1991年に初演されて大ヒットとなった作品の再上演だったのに対し、今回の「アレルヤ!」は2018年にブリッジ・シアターで初演された、完全な新作。ニコラス・ハイトナーとアラン・ベネットのコンビ作としては、10作目に当たるらしい。

 

 

 舞台は、ヨークシャーにあるベツレヘム病院(通称ベス)。NHS(国民健康サービス)が運営する病院だから患者が負担する治療費はゼロで、産科から老年病科まで、地元住民の医療を一手に担っている。が、政府は緊縮財政の一環として、NHSの効率化推進という名目でベスの閉鎖を計画しているらしい。ベスが閉鎖されてしまったら、老年病科で入院中のお年寄りたちは遠方の介護施設に移らなくてはならない。理事長や医師や看護師たちは閉鎖を阻止すべく、地元住民の協力を募ったり、地元のテレビ局に取材してもらって元気に合唱するお年寄りたちの様子を報道してもらおうとする。

 

 何しろ、NHSの病院の話である。しかも、老年病科。およそ「絵になる」舞台設定ではない。が、舞台の合間合間で、体格も個性もバラバラなお年寄りたちが大いに歌って踊る様には、思わずこちらの心も浮き立つ。また、彼らの噛み合わなかったりすれ違ったりする会話からは、これまでの人生や人となりが浮き彫りになり、誰からもお見舞いに来てもらえないまま入院生活を続けているお年寄りたちにも、それぞれの思いがありそれぞれの生があるのだと感じ入る。

 

 が、そういった共感を呼び起こしながらも、話は絶対にウェットには流れない。「見舞客が来ない=みじめな老後 or ひどい家族」ではないのだ。日本のドラマだったら、「どうしてもっと病院に来てくれないの?!」「どうせ私のことなんて、早く死ねばいいとしか思ってないんでしょ?!」的な大騒ぎの末に「親が死んでから後悔しても手遅れです、血縁は大事にしましょう」というオチになりそうなものだけどね。

 

 それどころか、後半、話は思いがけないツイストを見せる。まさかそういう展開になるとはーーと仰天させた上で、老人の医療やNHSの問題にとどらまらず、移民やブレクジットの問題までも射程に捉える。うおお、そう来ましたか!

 

 というわけで、私は今回の新作には大満足。身近な題材だけに「英国万歳!」よりもとっつきやすかったかもだ。

 

追伸/この作品を観るにあたり私の最大のお目当てだったサミュエル・『私立探偵ダーク・ジェントリー』・バーネットは、NHSの病院潰しを画策する保健大臣の意向によりそう経営マネジメントの役。当然、この舞台ではどちらかというと「悪役」なのだが、そんな役柄にも共感できるポイントはちゃんとあって、単なる「出世主義のひとでなし」で終わっていない。なるほど、脚本の良さってのはこういうところにも表れるんだな。