「私立探偵ダーク・ジェントリー」 | First Chance to See...

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 2016年10月からBBCアメリカで放映が始まり、最終回の放映直後に日本を含む各国のNetflixで視聴可能になる——と知った途端、私は速攻でNetflixに登録した。「ダーク・ジェントリー」がアメリカでの放映から間髪おかず日本語字幕つきで観られるなんて、ああもう何てありがたい!

 

 

 「私立探偵ダーク・ジェントリー」。タイトルだけ見ると、どこにでもありそうな、とりたてて代わり映えのしない海外ミステリードラマみたいでしょ? 実際、AXNミステリーでは「孤高の警部 ジョージ・ジェントリー」というタイトルのミステリードラマが放映中だったりするし。紛らわしいったらない。

 

 が、しかし。このドラマが他のどんな探偵物とも決定的に異なっているのは、邦題からはすっぽり抜け落ちてしまったが原題「Dirk Gently's Holistic Detective Agency」に含まれている、「Holistic(全体論的な)」という言葉だ。ダーク・ジェントリーは、ただの探偵ではなく、「全体論的探偵」——すべてのものは繋がっている("fundamental interconnectedness of all things")という信念のもと、奇妙でデタラメでむちゃくちゃでおよそ何の関係もなさそうないくつもの出来事の裏に潜む、誰も気づかない関連性や因果関係を見つけ出すことが、彼の探偵業なのである。

 

 とは言え。私がこのドラマに狂喜して飛びついたのは、「全体論的探偵」というアイディアに惚れたからというより、そもそもこのドラマが私のもっとも愛する作家ダグラス・『銀河ヒッチハイク・ガイド』・アダムスの原作小説に基づいているからに他ならない。1987年に出版された原作は、悲しいかな発売から30年近く経った今でも日本語訳が出る気配もないが、私は愛と根性で読了済みだ。えっへん。

 

 ただし、今回のテレビドラマ化では、原作小説を忠実に映像化するのではなく、「全体論的探偵」というアイディアだけを拝借し、まったく新しいストーリーを作り上げている。原作の舞台はイギリスだが、このドラマではイギリス人のダーク・ジェントリーがシアトルの大富豪に自分自身の死の謎を解くよう依頼されてシアトルにやってきた、という設定で、話はもっぱらシアトルで展開するし、何よりダーク・ジェントリー以外の登場人物は全員ドラマオリジナルのキャラクターだ。なので、原作に全く馴染みのない人がこのドラマを観ても何の問題もない。

 

 実はこの小説、テレビドラマになるのは今回が初めてではなく、2010年12月にもBBCで製作されていて、この時も同じようなオリジナルストーリーだった(舞台は当然イギリスだったし、ダーク以外のキャラクターもう少し原作に近かったけど)。原作小説はいろいろな意味で映像化に向いていないから、こういうやり方を採るしかないんだけど、私のようなダグラス・アダムスのマニアとしては、新しいストーリーにさりげなく盛り込まれた原作の元ネタを目を皿のようにして探すのも、楽しみの一つだったりする。

 

 そんなこんなで期待に胸を踊らせて第1話を観たところ、イライジャ・ウッド扮する巻き込まれ役のトッドはいい感じに可哀想だったけど、サミュエル・バーネット扮するダーク・ジェントリーがとにかくウザい(もともとウザいキャラクターではあるけれど、こいつは不自然なまでにヘンテコすぎるぞ大丈夫か)のと、何だかやたらと血なまぐさい殺戮シーンが多い(派手なアクションといったほうがいいのかもしれんが、突拍子もなく暴力的で死屍累々)のとで、正直この先どうなることかと思った。原作がダグラス・アダムスでなかったら、この時点で「私の趣味じゃない」と観るのを止めていたかもしれない——が、止めないで良かった、回が進むにつれて少しずつ全体の構図が見えてきて、あんなにうざかったダークもだんだんいじらしく思えてきて、血なまぐさいのにも慣れてきて、そして最後には見事に「すべてのものは繋がっている」!

 

 で、とりいそぎもう一度第1話を観てみたら、何てことだ、あんなにもうざかったダークが今度は最初からいじらしくてならないじゃありませんか。普通のミステリードラマだったら犯人探しのドキドキが消えて退屈なだけかもしれないが、このドラマに関しては、むしろ全体の構図が分かった上での二度目の鑑賞のほうが初めて観た時よりおもしろいくらいだ。

 

 というわけで、Netflixに入っている日本のみなさま、どうか騙されたと思って「私立探偵ダーク・ジェントリー」を観てみてください。日本での視聴者数が、原作小説の日本語訳出版への後押しになるかもしれません。ぜひ!!!

 

追伸/最後に、第1話に出てきた原作小説の元ネタ(のうちの一つ)について。これまでに何か解決した事件はあるのかとトッドに詰め寄られたダークが、「ソファや雷神(ソー)関連」と答えるシーンがあるけど、これはどちらも原作小説に出てきた事件。ということで、残念ながら同じソー(Thor)でも、マーベル映画「マイティ・ソー」や「アベンジャーズ」でクリス・ヘムズワースが演じているソー(Thor)とは無関係です。