泣いたら落ち着いた。

“逃げるのはやめよう。”

ともかく、アツくんの顔だけでも見たい。できれば、プレゼントは渡したい。怒鳴られてもいいし、殴られてもいい。嫌いになられるのだけは嫌だけど。

“存在さえ知ってもらえてないのに…。”

そうだった。好きも嫌いもない。嫌われるのが怖いなんて、考えることさえおこがましい。でも…。

頭の中にいろんな考えが渦巻きながらも、足は改札口にむかっていた。

改札に切符を通そうとして、足が止まった。

“もう…来てる!”


新幹線の改札の正面にアツくんの姿が見えた。間違いない。



改札を走って抜けて、アツくんに飛びつく。アツくんは黙って強く抱きしめ、頭を撫でてくれる。とても優しく。




そんな光景が頭をよぎる中、下をむいて改札に切符を通した。
ふ東京駅に着いた。久しぶりだった。学生時代に何度か遊びに来たことはあるけれど、十何年ぶりだろうか。
とりあえず新幹線のホームのベンチに座ってみた。

“落ち着け…あたし!”

約束した新幹線の到着まではあと40分くらいある。アツくんが10分前にくるとしたら、あと30分。あと30分が残された時間。

“とりあえず謝って…。”

無理だ、と思った。何を謝ればいいんだ。以前から知っている人ならばいざ知らず、今日初めて会った人に、1ヶ月間騙していましたと言われ、許せるはずがない。
信じてもらえないかもしれない。

百歩ゆずって、理解してくれて、許してくれたとしても、そこから先はもうない。

“THE ENDだな…。”

急に涙が溢れてきた。
下をむいてハンカチをあててみたが、ダメだった。嗚咽が漏れる。
思いっきり泣きたくなった。

ホームの端まで小走りでむかった。この時間の新幹線は車両が短いためか、ここまでくると全く人はいなかった。

思いっきり…泣いた。

仙台に帰れる新幹線がホームに入ってきた。
バッグの中でアツくんへのプレゼントが存在をアピールした。
『いま新幹線新幹線乗ったよニコニコ
アツくんのとこに飛んで行くから…ちゃんと受け止めてねぇラブラブラブラブラブラブ

シャワーを浴びて出てきたところにメールが届いた。昨晩の不安が吹き飛ぶような気がした。

“晴れたしね。”

きっと楽しいデートができるはずだ。

ちょっと荷物が大きくなってしまっているのが気になった。退院祝いに指輪を用意したけれど、なんかちょっとおかしい気がして、昨日の帰りに花屋をのぞいた。花束を持ち歩くわけにもいかないか、と思ったが、フラワーアレンジメントなら大丈夫のような気がして、買ってしまった。
飾ってある時はさほど大きく見えなかったが、袋に入れてもらってぶら下げてみると、意外にかさばった。

“いざとなったらコインロッカーだな。”

東京駅で会ったら、まず退院祝いにお花を渡して、指輪はゆっくり話してから、帰る前に渡そうかな。帰りの新幹線の中で開けて、びっくりしてメールがきて…。
そんなことを考えてみた。