人間原理の最初の回で自分なりの解釈を紹介しましたように
人間原理には2つの側面があるではないか。
すなわち
①「人間という知的生命がこの現宇宙に誕生したということ」からその条件として現宇宙構造を理解できること
②「人間という知的生命が現宇宙を観察、認識しているということ」から現宇宙構造を理解できること
物理定数についての前々回のコインシデンスと人間原理との関係は②の人間存在とその観察認識の関係と捉えることができるのではないでしょうか。
一方真空エネルギー密度の不可解さはまさに①の人間が存在することからの必然として現宇宙のエネルギー密度の値が観測されるのではないか。
■もし真空のエネルギー密度が私たちの宇宙の現在の物質のエネルギー密度で ある2.7×10の30乗g/cm3より数桁以上大きかったならば、そのような宇宙には銀河、星をはじめと するあらゆる構造が存在し得ないということでした。より正確に言えば、もし宇宙に構造が進化するのに十分な時間が経つ間に真空のエネルギーが宇宙の支配的なエネルギーになり、そしてそれがそのまま続いたとすると、宇宙には意義ある構造が生じなかったということです。
■一方ワインバーグは、真空のエネルギー密度が量子力学により大きな補正を受けるという理論的な結論は正しいと考えました。つまり、異なる宇宙たちの持つ真空のエネルギー密度の典型的な大きさは、理論で示唆される自然な大きさ、つまり現在私たちが観測している物質のエネルギー密度よりも大きいサイズであろうと考えられます。より正確には、これらの異なる宇宙たちの真空のエネルギー密度の値は、マイナス10の90乗g/cm30からブラス10の90乗g/cm30までの間のランダムな値を取ると考えられます。これは、これらの宇宙たちのほとんどには何ら構造が存在しないことを意味 します。
⇒しかしこんなにまで生命が誕生する環境が偶然にも現実に現れるのだろうか?何かの調整力が働いているかのようである。
ところが、マルチバースを仮定すると、そんな不思議なことでもなさそうである。
■多様な世界(宇宙)の存在
この考えの核心(星や人間が存在できる極めてまれな真空エネルギー密度の現実)は、私たちが自らの周りで観測する世界よりも、実はもっと多様な世界がどこかに広く存在していると仮定することにあります。
⇒多様な世界とは何を意味するのか?それはマルチユニバースであり、私たちの宇宙における四次元を超える多次元の世界ではないだろうか。
巨大な空間の中のいくつもの領域が、異なる真空のエネルギーを持った異なる宇宙に見えるのかもしれませんし、異なった真空のエネルギー値を持つ宇宙が時間が経つにつれ繰り返し実現されるのかもしれません。
■もし異なる宇宙の種類が10の120乗以上あれば、その中のいくつかの宇宙はたまたま小さい真空のエネルギー密度、すなわちその内部に構造が生まれ得る範囲の真空のエネルギー密度を持つことも確率的に十分考えられます。
そして、銀河や 星、生命といった構造はこのような「ラッキーな」 宇宙にのみ生じ得るの です。
「これは逆に言えば、もし宇宙に知的生命体が現れて真空のエネルギー密度を測定したならば、彼らは必ず理論の自然な値より120桁ほど小さい 値を観測するということを意味します。なぜなら、そうでなければ彼ら自身が存在しないからです。
生命が存在する真空のエネルギー密度の範囲は極めて小さく、殆どの宇宙は構造を持てないエネルギー密度を持った他宇宙ということになります(図)。
⇒マルチバースについては今後取り上げたいと思っています。