2.1真空のエネルギー密度と人間原理関 | ピアの窓

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■真空のエネルギーとは

ここで真空のエネルギーとは何か。それは、物質粒子を全て取り去った後に残る「空間自体が持つエネルギー」です。これが正であれば空間を膨張させる力が働き、負であれば収縮させる力が働きます。

2.1.1真空のエネルギの不思議

現在の私たちの宇宙の全エネルギー密度は約8.6×10の30乗であり、ダークエネルギー(真空のエネルギーの可能性が高いと言われている)がその約7割を占め、約3割が物質のエネルギーによるものです。

1998年にパールマターらが発見したのは、私たちの宇宙に約6×10の30乗グラムの真空のエネルギー密度を持つということですが、これには非常に奇妙な二つの点があります。

■第一の点は、その大きさが理論的に示唆される値(示されるではなく、示唆されるということが一つのポイント。不確定要素があるとうことか?)よりもはるかに小さいということです。真空のエネルギー密度は現在の理論的枠組みで正確に計算することはできないようですが、その大きさが理論的にどのくらいになるのが自然かということは推定できます。そしてその見積もりは、観測された値よりも約120桁も大きいのです。

最も単純なダーエネルギーの候補は、アインシュタインによって導入された宇宙項です。宇宙項は真空のエネルギーに対応すると考えられています。物質の存在しない真空に一定の密度をもつエネルギーが蓄えられていると、それが反重力の働きをして宇宙を膨張させるというものです。しかし、素粒子論に基づいて真空のエネルギー密度を計算すると、その値が観測されている値よりも120桁以上大きな値を示してしまいます。この問題は宇宙定数問題として現在に至るまで解決されていません。

 

第二に真空のエネルギー密度が物質のエネルギー密度とたった数倍程度しか違わないという事実です。一般に物質のエネルギー密度は時間が経って宇宙が膨張していくにつれ、薄まって小さくなっていきます。これは、初期の宇宙では物質のエネルギー密度が今よりももっと大きかったということを意味します。たとえば、ビッグバン原子核合成の頃の物質のエネルギー密度は現在のそれより30桁ほども大きかったのです。

一方で、真空のエネルギー密度は宇宙膨張の影響を受けず、したがって時間によって変化しません。また、将来の宇宙では逆に真空のエネルギー密度のほうが物質のエネルギー密度よりもはるかに大きくなるはずなのです。実際、いったん真空のエネルギー密度のほうが支配的になると、宇宙は加速度的に膨張していきます。そうなると物質のエネルギー密度は急速に薄まり、事実上ゼロになってしまいます。つまり、私たちはこの二つのエネルギー密度がほぼ同じ大きさで存在する、極めて特別な時代に生きているというわけなのです。

ところで、真空のエネルギー密度は宇宙の膨張によっても変化がないようです。

 

                                       

<真空のエネルギーの問題への対応>

量子力学は一般にあらゆるものにある種の揺らぎをもたらします。これを真空のエネルギー密度に当てはめた場合、その影響は真空のエネルギー密度がシフトするという効果に及びますので、エネルギー密度にゆらぎの補正が必要になってきます。

この真空のエネルギー密度の量子力学(ゆらぎ)による補正は、極めて特別な理想化された場合を除いて 現在正確に計算することはできません。

■標準模型(量子力学)と相対性理論の継ぎはぎ

素粒子の標準型は重力を含んでいません。したがって宇宙論など重力が問題になる系を扱うには、完全な量子力学的理論である標準模型と古典理論であるアインシュタインの一般相対性理論とを「継ぎはぎ」にして考える必要があったのです。

真空のエネルギー密度の問題は、このツギハギの理論を真空のエネルギー密度に当てはめた時、その見積りが実際の観測より大きくなってしまうという問題です。

何かまだ知られていない重大な問題があって、それを解明すれば真空のエネルギー密度の問は解決されるかもしれません。

 

⇒この真空のエネルギー問題について次回は人間原理との関係で説明する予定です。