<艶が~る、二次小説>
もう一つの沖田総司物語も、何だかんだともう14話目艶が~るの沖田さんを意識しつつ、新選組のことを勉強しながら本編とは違った展開、本編では描かれなかった二人の想いなんぞを書いて来ました。
もう、これまた私の勝手な妄想物語ではありますが…良かったらまた、お付き合い下さい
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【十六夜の月】第14話
翌朝。
いつものように置屋の廊下を雑巾がけしながら、私は昨晩のことを思い返していた。
(…迎えに来てくれるって、それって…私をお嫁さんにしてくれるってことなのかな?)
「おはようさん」
どうしようもなく嬉しくて、すぐ傍に秋斉さんがいたことも気付かないままだった私は、顔を綻ばせながらそちら見やる。
「おはようございます!」
「上機嫌やな」
「…嬉しくて」
素直な気持ちを口にしたのはいつぶりだろうか。そう答えると、秋斉さんも柔和な笑みをくれた。
「ようやくやね…」
「はい。いつも秋斉さんには励まして貰ったり、慰めて貰ったり…ご迷惑ばかりかけて…」
「前にもゆうたが、ちびっとでも迷惑やと思うたことは無い。あんさんの為なら、わては…」
「……?」
「…慶喜はんから預かった大切な子やさかい」
伏し目がちな眼が少し寂しそうに見えたのだけれど、すぐにいつもの秋斉さんの細められた視線が私に向けられる。
「ほな、これからは多少こき使うてもええな」
「はいっ」
「あんさんを沖田はんに譲るまでは…」
「えっ…」
きょとんとする私に、秋斉さんはふっと微笑みながら、「嫁ぐんやろ?」と、言った。
「あ、その…何ていうか…」
「そないなったら、あんさんをここに置いとく訳にはいかへん様になるさかい」
「え、そうなのですか?」
今度は、私の問いかけに秋斉さんがきょとんとした顔をする。
「あんさんは身請けされるんや、当たり前やろ。今頃あんさんの為にどこか別宅を用意しとるはずや」
(身請けされるということは、そういうことなのか…)
そんな風に思いながら俯いていると、秋斉さんの優しい手が私の後ろ髪に触れた。
「初めて迎え入れたばかりの頃は正直、どないなるかと思うとったが。こない、かいらしい女子になるとは…」
「秋斉さん達が傍で支えてくれたおかげです…ありがと…う…」
その次の瞬間、温かい腕の中にすっぽりと包み込まれていた。
「手離すのが惜しい…」
(…えっ?)
少し躊躇いながら視線だけを上に向けてみるが、その表情は分からない…。いつもとは違う温もりを感じながら、ただその身を預けていると、
「あんさんなら、いずれ太夫も夢や無いと思うてましたんやけど、女は好いたお人の傍におるんが一番や…」
「…はい」
「……だが、もしも何かあった時は…遠慮なく頼ってくれて構わない」
「秋斉…さん…」
躊躇いの息をこぼす私に、「そないなこと無いほうがええんやけどな」と、言っていつもの柔和な笑みをくれた。
「…その日まで、まだまだ迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
私も笑顔で大きく頷いて、改めて今までの感謝の気持ちを告げると、秋斉さんは私の乱れた帯を直しながら、にっこりと微笑んでくれたのだった。
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──あれから十日ほど経ったある日の午後。
(…なんだか寂しいな…)
ガランとした部屋を見渡しながら、初めてここへ来た時のことを思い出していた。
右も左も分からない私に、いろいろなことを教えてくれた秋斉さん。悩んでいる時、哀しいことがあった時。いつも私を励ましてくれた慶喜さん。
一緒に仕事を熟しながらも、私を助けてくれた花里ちゃんや菖蒲姐さん達。それぞれにお別れを言い、それでもまた会いに来ることを伝えると、心から私と沖田さんとのことを喜んでくれて…。
私は、嬉しいはずなのに涙を堪えることが出来なくて。何度も何度も、感謝の気持ちを伝えた。
そして今日。
沖田さんが私を迎えに来てくれる。
「…幸せになる。そして、あの人を幸せにする」
鏡に映った自分に言い聞かせた。
あと、どれくらい一緒にいられるか分からないけれど、これからずっと沖田さんと一緒に居られることの幸せを噛み締めていた。
と、その時。
「春香はん、沖田はんが来はったで!」
「あ、花里ちゃん」
開け放たれたままの襖から彼女の満面の笑顔を受けて、逆に涙が込み上げて来るのを必死に抑え込む。
「…ありがとう」
「もう、準備はええんか?」
「うん」
傍に置いてあった風呂敷包みを持ち、駆け足で階下へと向かう彼女の背中を追いかけるように、残りの荷物を持って階下へ向かうと、お世話になった方々が私の見送りに集まってくれていた。
「…菖蒲姐さん」
「春香はん、これからも無理したらあかしまへん…頑張り過ぎたらあきまへんえ」
「はい…」
泣き笑いのような表情の姐さん達に改めて感謝の気持ちとお別れを告げ、再び私の傍にやってきてくれた花里ちゃんにも改めてお別れを告げる。
「花里ちゃん…今まで、本当にありがとう」
「辛いことのほうが多いかもしれへんけど…沖田はんと幸せにな…」
「うん…」
やっぱり寂しくてお互いに肩を抱きしめ合い、名残惜しげにその場を離れた後。荷物を荷台車に乗せはじめた秋斉さんと沖田さんの元へと歩み寄る。
「忘れ物は無いか?」
「はい」
秋斉さんに小さく頷き、荷台車の傍にいる新選組隊士の方々にお辞儀をして、沖田さんの隣に寄り添った。
「沖田はん、こん子をよろしう頼みます」
「承知しました」
秋斉さんと沖田さんのやり取りを最後に、私達は新居目指してゆっくりと歩みを進めた。
何度も、何度も振り返りながら…。
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どのくらい歩いただろうか、屯所からも島原からも遠く離れた新居へと辿り着いた。
外観も立派だったが、土間を目の前に一歩中へ入った右手に広い台所が設置されていて、二人暮らしには十分過ぎるほどのな部屋に感嘆の声を漏らす。
「気に入って頂けましたか」
「はい、とっても…」
それから、荷物を家の中へ運んで下さった隊士の方々を見送った後、沖田さんはこれからのことを簡潔に、でも丁寧に話してくれた。
「あとは、貴女の好きなようにして下さって構いません。私はまだこれから屯所へ戻らねばならないし、帰りは遅くなりますが…」
「分かりました。この箪笥、使わせて頂きますね」
早速、持参した着物などを箪笥へしまい込みながらそう答えて間もなく、背中越しに優しい温もりを感じた。
「あっ…」
「……後悔はありませんか?」
後悔なんて気持ち、微塵も抱いていなかった私には愚問にさえ思えて。着物をそのままに、私を包み込む沖田さんの逞しい腕に触れながら素直な想いを告げる。
「沖田さん」
「…はい」
「幸せになりましょうね…」
そう言って、なおも身を任せるように寄り添うと、沖田さんは私の肩を優しく引き寄せその胸に誘ってくれた。
「幸せにします。もう、離しはしません」
その想いを受け止めようと、温かい胸元に頬を埋めながら襟元をギュッと握りしめる。
「これからも、新選組隊士として精一杯生きて下さい」
「春香さん…」
「沖田さんが自分らしく生きていけるように。私、頑張りますから…」
「本当に芯の強い人ですね。貴女は…」
「はい、沖田総司の妻ですから」
ふっと微笑み合い、またお互いの温もりを求め合う。
「…今夜が初夜になるのかな」
「えっ…」
「やっと、貴女を私だけのものに出来る」
甘い吐息が頬を掠めて間もなく、くすぐったくて肩を竦める私の頬に沖田さんの端整な唇が優しく触れた。
「えっ、あ…え??」
「なんて、言ってみたかっただけです」
恥ずかしくて顔を上げられずにいる私に、沖田さんはくすりと微笑みながら名残惜しげに体を離していく。
「本当はもっと傍にいたいのですが、そろそろ戻らなければ。永倉さん達にまた何を言われるか分かりませんからね」
「あ、行ってらっしゃい…ませ」
「行って参ります」
草履を履き終え、玄関の戸に手をかけようとした沖田さんの背中に声を掛ける。
「あの、沖田さん…」
「はい?」
「…なるべく早く帰ってきて下さいね」
「勿論です。そうせずにはいられませんから…」
今の想いを素直に告げると、照れたような笑みを浮かべながら玄関を後にする沖田さんを見送った。
「さて、早く片付けなきゃ」
広い部屋にたった独り。それでも、沖田さんと生きて行ける喜びの方が大きくて、寂しさなんて微塵も感じない。
だけど、それでもやっぱり…神様に祈らずにはいられなかった。
一日でも多く、沖田さんと一緒にいられますようにと。
~あとがき~
お粗末様どした
ようやく、沖田さんに嫁ぐことが出来た春香。もう、完全にもう一つの沖田総司物語になっちゃったな祝言は、また近いうちに行うとして、とりあえず一日も早く一緒に暮らしたいという二人の想いを優先させました
(←って、私の想いともゆうw)
沖田さんも新選組屯所を出て、春香との新居で暮らすことに屯所から約20キロは離れなければいけないという局中法度があるらしいけれど、沖田さんのことを考えて、そこまで離れずに済んでいるという設定です
実際に、沖田総司が奥さんを貰っていたかどうかは不明みたいですが、この物語では一緒になって貰いました艶本編では、あまりお金持ちでは無いという設定だった沖田さん
でも、ここでは池田屋事件などの功績を称えられた時に頂いていたであろう貯えで、別邸を用意したということにさせて頂きました
実際に、結構裕福な暮らしぶりだったという話もあるようなので
これから、新選組は徳川幕府の衰退と共にいろいろな苦労が圧し掛かかってくるこれから、二人はどのようにして生きて行くのか。
次回は、とうとう…山南さんとの決着が…
今回も、遊びに来て下さってありがとうございました