<艶が~る、妄想小説>


「十六夜の月」 第7話 


私なりの沖田さんと主人公ちゃんとの物語も、7話目に…。「新撰組血風録」を見るようになって、それも参考にしながら書きました!!かなり切なくなってきてしまいました涙今回も、相変わらずの駄文ではありますが…良かったらにこっ


※艶がの沖田さんを意識しながら、沖田総司や新撰組の資料などを元に構成して書かせて頂いてますキラキラ


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(続きものにつき、よろしければこちらからお読み下さいませ)



「十六夜の月」 第7話 


夕刻……。


日がとっぷりと暮れ始め、夕焼けの橙色が綺麗に空を染め始めた頃。


彼らは早めの夕食を取ると、就寝までの間、思い思いに過ごしていた。


ある者は、囲碁を楽しみ、ある者は故郷に手紙を書き、そして、ある者は庭に出て剣の稽古に励む。そして、沖田さんはその稽古の指導にあたっていたのだった。


「ふぅ~…」


私は、当番の方達と一緒に台所の洗い物などを済ませ、そろそろ御暇(おいとま)しょうと土方さんの部屋へ足を運ぼうとしたその時、背後から声をかけられた。


「春香さん」

「あ、山南さん…」


台所のドア付近にいた山南さんは、ゆっくりとこちらへ近づいてくると、「さっきの夕飯のお漬物、とっても美味しかったですよ」と、言って微笑んだ。


「喜んで貰えて良かったです…」


(そうだよね……沖田さんとは、ほんの少ししか話せなかったし、一緒にいる時間もあまり無かったけれど…みんなに喜んで貰えて良かったんだよね…)


そんなふうに思っていた時、また山南さんが微笑みながら口を開いた。


「ところで、沖田くんとは少しでも話せましたか?」

「いいえ、あまり……あ、でも…それってどういう…」

「みんなお見通しですよ。今日だって、本当は沖田くんに会いにきたのでしょう?」

「え、いえ……そんなことは…」


顔を真っ赤にして俯く私を見ながら、彼は、「それなら、庭へ足を運んだらいい」と、さらりと言った。


「え、でも…稽古の邪魔をしてしまうといけないので…」
「こっそりなら、いいんじゃないでしょうか。さ、行きましょう」


彼は、満面の笑顔でそう言うと、庭で稽古中の彼らの元へ案内してくれたのだった。



そして、廊下に建て付けられている雨避けに身を隠しながら、胴着姿で殺陣型の稽古をする彼らを目にし、思わず足を震わせた。


「振りかぶり過ぎないように!何度言えば分かるんです?」
「はいっ!!」

「それでは、もう一度。上段!…袈裟斬り!…真横……袈裟斬り!…受け流し!…切り上げ…突き!…真っ向!」

「えいっ!!」


一定の拍子で掛けられる沖田さんの声に従い、彼らは揃って型を作りながら竹刀を振り上げたり、振り切ったりしている…。


(こんなふうにして稽古していたなんて…すごい…)


やがて、殺陣型の稽古が終わると、沖田さんは隊士の一人と竹刀を合わせ余裕の表情で切り結び始めた。


相手の隊士が額に汗を浮かべながら、荒々しい声で沖田さんに立ち向かって行く様はとても真剣で、まさに生死をかけた戦いのようだ…。


(あ、あれが…沖田さん?…)


「刀で斬るな!身体で斬れ!!」


沖田さんは大声で叫ぶと、相手の竹刀を振り落とした。


この蒸し暑さの中、相手が地面に突っ伏し、大汗をかきながらぜえぜえと息を切らしている中、彼はほんの少しだけ額に汗を滲ませているだけで無駄な動きが一切無く、昼間、市原さんから聞いていた通り、撃剣範師としての沖田さんは、思っていた以上に厳しかった。


相手のことを思えばこその厳しさなのだろうけれど、いつもの彼とは別人のよう…。


「あれも、沖田くんです」
「えっ…」

「覚えておいて下さい…」


山南さんはそう呟くと、私の傍をそっと離れて沖田さんに声をかけた。


「精が出ますね、沖田くん」
「……山南さん」


苦笑する山南さんを横目に、沖田さんは隊士達に一休みすることを告げ、再び山南さんに向き直ると笑顔で言った。


「いつまた、捕り物があるか分からないですし、稽古はやりすぎて困ることはありませんから」
「……春香さんが、そろそろ置屋へ戻られるようですよ」


沖田さんは、ほんの少し沈黙すると、「では、よろしくお伝え下さい」と、言って、微笑む山南さんに頭を下げた。


(……えっ…)


一瞬、トクンと心が疼いた。


きっと、忙しいからだろう…無理にそう思うようにしてまた汗ばんだ自分の手を握り締める…。


(……沖田さん…やっぱり、そうだよね…)


彼は以前から、自分の命は新撰組と共にある、と、言っていた。


あの時も……。


【私は、身も心も新撰組の為に捧げる覚悟ですし、隊の為になら、いつこの命が尽きようと後悔はありません。それに、土方さんや近藤さん達の傍で生きられることに誇りを感じています】



*艶が~る妄想小説* ~もう一つの艶物語~


彼の命は新撰組のもの。


女の私が四の五の言えるものではないことくらい分かっているけれど…。


でも、次はいつ会えるか分からない……だから、もっと彼をこの目に焼き付けたい…。

そんなふうに考えていた時だった。立ち尽くす私を見つけた沖田さんは、一瞬、驚いた顔をしながら私の名前を呟いた。


「春香さん……いつからそこに…」
「……私が案内したんだ」
「山南さん…」

「沖田くん、ここはいいから…彼女を置屋まで送ってあげてくれないか?」
「えっ?」


私も、沖田さんも目を丸くしながら山南さんを見つめた。


「はは、そうでもしないと君は身体を休めようとしないだろう?」
「……分かりました」


山南さんは、休んでいた隊士達に声をかけ部屋へ戻るように言い、私に挨拶をしてその場を後にすると、沖田さんは竹刀を戻し、こちらへ近づきながら言った。


「もう、帰られるのですか?」
「……はい」
「そうですか…では、私が置屋までお送りします」


彼は、いつもの笑顔でそう言ってくれたが、私がまだ土方さんに挨拶を済ませていないことを伝えると、お互いにまたここで待ち合わせることにして、彼は自分の部屋へ戻り、私は土方さんの部屋へと急いだ。



「もう、帰るのか」
「はい、今日は本当にお世話になりました」


そう言って、土方さんの前に正座をして丁寧にお辞儀をすると、彼は筆を休め、柔和な笑みを浮かべて言った。


「総司とは話せたのか?」
「……はい」


俯く私を見つめながら、彼は、「そうか、話せなかったか…」と、言って微笑んだ。


「えっ……」
「おめぇの顔は嘘がつけねぇからな…」

「土方さん……」

「じゃ、せめて総司に送らせよう…」


私は、先ほどまでのことを説明すると、彼は、「そうか」とだけ呟き、またいつか島原へ足を運ぶから…と、言って薄らと微笑んでくれたのだった。



そして、土方さんに改めて御礼を言って庭へ急ぐと、もうすでに沖田さんは、縁側から庭に設置された階段に腰掛けていた。胴着姿から、藍色の着物と薄茶色の袴姿に着替えられたその後ろ姿は、とても凛々しく見える…。


「すみません…待たせてしまって」
「いいえ、大丈夫ですよ。それでは、参りましょうか…」


そう言いながら立ち上がろうとした彼に、「少しだけお話出来ませんか?」と、勇気を出して尋ねると、彼は、ぎこちない笑顔と共に、「分かりました」と、言ってまたゆっくりと腰を下ろした。


私も彼の隣りに腰を下ろし、ドキドキする胸を抑えこみながら静かに口を開いた。


「あの、今日はお忙しいのに……突然、お邪魔してしまってすみませんでした」
「いえ、こちらのほうこそ…美味しい手料理をありがとうございました。特に、牛蒡汁は美味しかった」

「本当ですか?良かった……」


やっと、ゆっくり話せたことが嬉しくて、思わず微笑みながら彼を見つめると、暗がりであまり良く見えないけれど、彼もうっすらと笑みを浮かべているように見えた。


そして、生暖かい風が吹きぬける中、しばらくの間沈黙が流れた。話したいことは沢山あったはずだし、せっかく、大好きな人がすぐ隣りにいるのに…。


そんなふうに思っていた時、彼は俯いたまま涼やかな声で話し始めた。


「この間の洛陽動乱で、体調を崩しましたが…私は大丈夫ですので心配は無用です」
「土方さんから聞きました…」
「え、土方さんから?」


彼は少し驚いたような顔で私を見たが、この間、土方さんがお座敷に足を運んでくれたことを簡潔に話すと、少し納得したように、「そうでしたか…」と、言って夜空を見上げた。


彼の視線の先には、真ん丸なお月様がぽっかりと浮かんでいる。


私は、彼の横顔を見つめながらも、もしかしたら、こんなチャンスは二度とやって来ないかもしれないと思い、高鳴る胸の鼓動を抑えこみながら、今までの想いを告げた。


「……あなたが池田屋で倒れたと聞いた時、その安否が気になって夜も眠れないくらい心配でした」

「春香さん…」

「だから、土方さんからあなたの事を聞いた時、元気でいてくれたことがとっても嬉しかった……それに、あなたに会いたくて……そればかりを考えていました」


私がそう呟いた瞬間、彼の瞳が大きく揺れた。それでも、彼は微笑みながら、「お気持ちは嬉しいのですが、もう本当に大丈夫ですから…」と、念をおすように言うと、今度は節目がちに語り始めた。


「……私達が何のために存在するのか…お話したこと、ありましたよね」


以前、お座敷に足を運んでくれたとき、新撰組が何のために結成され、どんなことを成し遂げてきたかを簡潔に話して貰ったことがあったけれど、今日の事も含め吃驚するようなことばかりで、沖田さんと土方さんに苦笑されたことがあった。


「新撰組と名を改めてから…局中法度の下、更に鉄の結束が確立されました。それからというもの、今まで以上に活動の場を広げ、隊士を集い、お上に対して謀反を起こす者や、京の町に蔓延する悪人を取り締まる為に日夜、血と汗を流して来ました…そして、時には……同志を斬ることもあった…」

「……もしかして、芹沢さんのことですか?」

「はい……」


(何度か、お座敷に来ていた芹沢さんが亡くなったという話は聞いていたけれど…まさか、同士討ちだったなんて…)


「それに、この間は…屯所内に身を潜めていた長州の間者を二人ほど斬りました…」

「えっ?」


思わず『長州』という言葉に反応し、彼の方へ身体を向けると、彼は、「間者は敵です…敵は斬る。それが私の仕事……全ては、京の町を守りたいが為…」と、言って微笑んだ。


その乾いた微笑に身体中が震え始める。


長州の間者……。


長州といえば、確か高杉さんが長州藩士だったはず…。まさか、高杉さんじゃないよね?そうでないとしても、高杉さんの同志が新撰組によって命を奪われたことになる…。


胸を痛めながらも、いったい何が言いたいのか分からないまま、ただ彼の言葉に耳を傾けていた。


(どうして、この時代の人達はこうも死に急ぐのだろう…)


一生懸命、頭の中を整理しながら何か話さなければ…と、思っていた時、彼は夜空に浮かぶ月を見上げながら、涼やかな声で呟いた。



*艶が~る妄想小説* ~もう一つの艶物語~


「これまでも、そしてこれからも……私は人を斬り続ける」

「沖田…さん……」

「だからなのかなぁ……月が赤く見えるのは……」


その泣き笑いのような横顔は、酷く悲しげで……。


例えようもないほどの切なさを感じ、私はまた言葉を失った。



(…月が赤く見える?)


そんな疑問を抱えて間もなく…私は、その意味を理解することになるのだった。



<8話へつづく>




~あとがき~


「新撰組血風録」の辻本沖田と、永井土方を意識しちゃいました涙


なにやら、本物の沖田総司は、結構短気だったようです…。稽古中は、特に怒鳴り散らしていたらしいので、少しだけ、そのへんも描いてみました涙


それに、卑怯な真似をする同志たちにも容赦なかったようです…。そのやり方は…あまりにも艶沖田とは違ったので、書けませんでしたが…。


いよいよ、主人公ちゃんにも少しずつ弱音を吐き始めた沖田さん…。その切ない気持ちを、彼女はどうやって癒していくのか!


この先、二人はお互いを受け入れられるのか…。


良かったら、また遊びにきてくださいませpnish


今回も、読んで下さってありがとうございました!