<艶が~る、妄想小説>
艶物語「十六夜の月」第6話
今回も、新撰組しか出てきません(笑)
(続きものにつき、良かったらこちらからどうぞ)
※艶沖田さんを意識しながら、沖田総司や新撰組のことを私なりに書かせていただいてます歴史を遡りながら書いているので、多少は艶本編のネタバレにもなるかと思います!なので、ご注意ください
また今回も、良かったら読んでやってくださいませ
それから三日後。
夏のジリジリとした暑さの中、いつものように置屋と揚屋の掃除を済ませてから、秋斉さんに出かけることを告げると置屋を後にした。
途中、行きつけの和菓子屋さんで手土産を買い、屯所までの道のりを歩きながら不安と期待でいっぱいになる。
(…本当に行っても良いのかな……)
そんな気持ちを抱えながら屯所に辿り着くと、久しぶりの訪問だからなのか…緊張してなかなか中へ入ることが出来ずにいた。
(……どうしよう…緊張してきた…)
入り口でウロウロしていると、玄関から隊の制服を纏った沖田さんと原田さんが出てくるのが目に入った。
「あ……」
「あれ?春香ちゃん…そんなところで何やってるんだ?」
原田さんがこちらに駆け寄ってくると同時に、その後ろから、沖田さんもゆっくりと近づいてくるのが見える…。
「あ、あの…私、その…手伝いに来ました!」
「手伝いにって…何を?」
「え、何をって言われても…」
(土方さんは、ただこきつかってやるって言ってただけで…特に何を手伝えとかは言っていなかった)
「こんにちは、春香さん…お久しぶりですね」
「沖田さん…こんにちは…」
「これから見回りなので、また後ほど…」
そう言うと、沖田さんは少しぎこちない笑みを浮かべたまま、私の横をすーっと通り過ぎ、またこちらを振り返った。
「原田さん、行きますよ」
「お、おおっ…」
原田さんは、踵を返し歩いて行く沖田さんに一声かけると、そっと私に耳打ちした。
「何しに来たのか分からねぇが…とりあえず上がってくれ。じゃあな」
「は、はい!ありがとうございます」
私は二人を見送り、小さく溜息をついた。
(…沖田さん、何だか元気が無いようだったな…どうしたんだろう?体調は大丈夫なのかな…)
倒れたと聞いてから、まだ間もないというのに…もう、見回りをしているなんて。私はまた溜息をつきながらも玄関を開けて大きな声で呼びかけると、奥から山南さんがやってきて私を出迎えてくれた。
「おや、春香さんいらっしゃい。お久しぶりですね」
「こんにちは…あの、今日は…その…」
彼は、俯く私に微笑むと、「土方くんから聞いてますよ」と、言った。
「土方さんから?」
「ええ、あなたが尋ねて来たら、こきつかってやれと、言っていましたが…」
「はい!何かお手伝い出来ることがあれば何でもさせて下さい」
「とにかく、上がって下さいな」
にこにこしながら言う彼にお菓子を渡し、その後、道場へと案内された。
(…ここが道場…初めて入った…)
私にとって、ここは神聖なる場所のように思えたので足を踏み入れることは出来ずにいたけれど、よく見渡してみると、隊士の方々の汗と血が、床や壁に染み付いているように見えた。
「春香さん、早速で申し訳ないのですが、ここにある手拭いを庭に持って行っていただけますか?」
「あ、はい!洗えばいいのですね」
「はい。庭で、もうすでにとりかかっていますのでよろしくお願いします」
手拭いを胸に抱え込みながら庭へ急ぐと、平隊士や同志の方々が数名綺麗に横一列に並び、盥の中でごしごしと胴着を洗っていた。
「こんにちは、市村さん」
「おっ、春香さんじゃないですか」
すぐ手前にいた市村さんに声をかけ、山南さんから声をかけて頂いてここに手伝いに来たことを話すと、笑顔で挨拶を返してくれた。
そして、他の同志の方々にも今日尋ねた理由を話し挨拶をすると、彼の隣りに盥を並べ同じように大量の手拭いを洗い始める。
「今日も、暑いですね…」
夏の日差しはさらに強くなる中、帯に忍ばせておいた紐で襷がけにしながら彼に話しかけると、彼も首にかけていた手拭いで顔を拭きながら、「今日は特に日差しが強い…」と、呟いた。
「皆さん、いつも大変ですね…これだけの大所帯だと洗い物もいっぱいあって…」
「いえいえ、こんなのはもう慣れましたよ。ここに来たての頃は、戸惑いましたけどね」
そう言うと、彼は苦笑しながらここでの生活や規則などについて簡単に話してくれた。
早朝の掃除から始まり、三食の食事の準備などもそれぞれが交代で行い、一週間分の役割分担もしっかりと成されていて、会津や箱館を含めると総勢100名ほどの新撰組は、局長である近藤さんの下、副長、総長、参謀、組長、諸士取調役兼監察方・浪士調役、勘定方(会計)、伍長、国事探偵方、文武師範、平隊士・同志と、こちらも細かく分担され、彼らは常に局中法度を守りながら生活しているのだそうだ。
入隊後も、新米隊士の寝込みを襲い、それにうろたえた者は即、屯所を追い出されたり、妻子ある人は、未練を残さない為に家族とは20キロ以上離れなければいけなかったりと、厳しい規則にただただ驚くばかりだった。
「中でも一番辛いのは、撃剣範師との稽古です…」
「そうなんですか?」
「ええ、特に沖田さんなんて鬼のように厳しいですよ。普段はああ見えて、剣の稽古ともなると人が変わったようになり、相手をした奴が立ち上がれなくなるほど叩きのめすんですから…さすが、壬生の狼と呼ばれるだけあります」
「沖田さんが……」
「でも、それぐらいの危機感が無いと自分の身は守れませんからね」
真剣な表情で語る彼の横顔を見つめながら、いつの間にか止まっていた手をまた動かし始める。
稽古は、竹刀で行われ撃剣範師の他に、柔術、槍術、砲術などがあり、屋内での戦いに関しては天井が低い為、剣よりも槍のほうが戦いやすく、それなりの戦い方を叩き込まれるのだそうだ。
この時代に生きる彼らは、常に死と隣り合わせだ。
ある時は、命懸けの稽古を強いられるということを知り、改めてこの時代で生きていくことの厳しさを知ったのだった。
それから、全ての洗濯物を干し終わると、他の隊士の皆さんと共に昼食の準備に取り掛かった。といっても、朝ご飯と同じ物を食べるのだが、お昼用に牛蒡汁を作りながらも、後で食べて貰えるようにシロウリのお漬物にも挑戦してみた。
(…お母さんから作り方を教わっておいて良かった……)
牛蒡には、ビタミンBやカルシウム、鉄分なども含まれているので、この暑い夏を乗りきる為にはもってこいだと思ったのだ。
「おお!やっぱ一味違うな」
私の隣で永倉さんが牛蒡汁の味見をし、にこにこしながら言った。
「本当ですか?少し安心しました…」
「春香ちゃんは良い嫁さんになるぜ、きっと」
「え、そんなっ…ありがとうございます…これに、豚肉や大根などが加わればもっと美味しくなるんですけどね」
「豚肉?豚なら飼ってるぜ」
壬生浪士組から新撰組に改名してから、幕府西洋医学所頭取の御典医に、屯所内の病室の改善と、残飯を餌に豚と鶏を飼うよう勧められたのだそうだ。その病室には、この間の池田屋事件で重傷を負った隊士の方々が療養しているが、改善前と比べると数段過ごしやすくなったらしい…。
「でも、先生曰く俺達もびっくりだったぜ…あの副長が、四刻(二時間)くれぇでその部屋を作っちまったんだからな。結構、マメな人なんだと思ったよ。本当は、誰よりもウチの組のことを考えているのかもしれねぇな…なんて、言ってみたりしてな」
彼は苦笑しながらそう言うと、まるで内緒にしておいてくれと言わんばかりに人差し指を口元に立てた。
「あとよ、夕飯までに絞めときゃいいか?」
「…え?」
「豚肉入れたほうが美味いんだろ?」
永倉さんは、苦笑する私に微笑みながらお椀に牛蒡汁を注ぎ始めると、他の隊士の皆さんも配膳の準備を整え始めた。そして、全ての配膳が整うとそれぞれがその前に正座をし始める。
足りないものは無いか、お茶の用意は出来ているかなどを確認していると、土方さんを先頭に山南さんと、近藤さんが、そして、その後ろには、見回りから戻ってきた沖田さん達の姿も見えた。
「春香、来ていたのか。ご苦労だったな」
土方さんは微笑を浮かべながらそう言うと、配膳の前に座り、その横には近藤さんと山南さんも同じように腰を下ろした。
「皆さん、お帰りなさい…」
私は見回りに出かけていた原田さんと沖田さんに、そして他の隊士の方々にも声をかけると、彼らも挨拶を返しながらおのおの腰を下ろす。
そして、全員が揃うとそれぞれが食事に手をつけ始めた。
「うめぇ~!この牛蒡汁、誰が作ったんだ?」
「春香ちゃんだよ」
原田さんの問いかけに永倉さんが答えると、沖田さんは少し驚いたような顔をして私を見つめた。
「……これ、春香さんが作ったのですか?」
「はい、お口に合うといいのですが…」
彼は、ほんの少し口にすると、「とても美味しいです」と言って微笑んだ。その爽やかな微笑みと、優しい声に胸が少しずつ跳ね始める…。
この優しい笑顔が見たくて…。
この穏やかな声が聴きたくて…。
長い間、我慢していた想いが溢れそうになる。
「春香さんの手料理、いただきますよ」
また優しい微笑みをくれる山南さんや、その横で同じように微笑んでいる近藤さんにも勧めると、傍にいた皆さんもまた、「いただきます!」と、元気な声をかけてくれる。
みんなから、笑顔を向けられ私は思わず俯いていると、他の隊士の方々が三人分の配膳を持って長い廊下を歩いて行くのが見え、そっと近寄って声をかけた。
「あの、どちらへ行かれるのですか?」
「藤堂さん達の分を届けに行くんです」
彼らに三人の様子を伺うと、藤堂さんの傷はだいぶ良くなりつつあるが、安藤さんと新田さんの傷は深く、いつその命が尽きてもおかしく無いほどだと教えてくれた。
そして、その場をゆっくりと立ち去る彼等の背中を見つめながら、例えようも無い胸の痛みに襲われ、思わず自分の手を握りしめる…。
そして、また沖田さんの後ろ姿に目をやりながら、彼が倒れたと聞かされた時のことを思い出し、心が激しく揺れ始めた。
剣術に長けている沖田さんでさえ、いつ何が起こるか分からない…。
この時代に来るまで、考えたことが無かった命の尊さ…儚さ。沖田さんに出会わなければ、こんな思いはしなかっただろう…。
もしも、沖田さんが同じような境遇に立たされたら…。
もしも、沖田さんが命を落とすようなことがあったら…。
きっと、生きていけないだろう。
そんなふうに思っていた時、ふと沖田さんが立ち上がりこちらを見ながら近寄ってきた。
(……沖田さん…)
「ご馳走さまでした。とても美味しかったです…」
「あ、お粗末さまでした…」
「言い遅れましたが…今日は、足を運んで下さってありがとうございました」
そう言うと、彼は、「これから稽古の準備がありますので…」と、言って踵を返しその場を後にした。
その後ろ姿を見送り、彼が食していた配膳を見やると、牛蒡汁以外はほとんど手付かずのままだということに気がつき、不安が心を覆い尽くしていく。
(……この暑さだから、食欲が無いだけだよね…)
無理にそう思うようにして、次々にその場を後にする隊士の方々を見送りながら遅めの昼食をとった。
それから、数名の隊士の皆さんと一緒に後片付けを終えると、縁側で一息ついていた。
(…この後はどうしよう…まだ手伝えることあるかな…)
木々から聴こえる蝉の声と、遠く離れた稽古場から聴こえる彼らの勇ましい声に耳を済ませながら空を見上げると、ゆっくりと雲が流れるのが見えた。
こうやって空を見上げていると、何もかもが全て上手くいくような気がしてくる。
そんな時だった。
目の前に二羽の雀が飛んできて何かを啄ばみ始めた。
親子かな?それとも、夫婦かな?どっちにしても、いつも一緒にいられて羨ましいなぁ…なんて思いながら見ていると、廊下の向こうから土方さんがこちらに歩いて来るのが見えた。
「土方さん…」
「今日は、よく来たな」
「お招きありがとうございました…」
彼は私の隣にしゃがみ込むと、雀を見つめながら微笑んだ。
「今日は、一日いられるのか?」
「はい…今日一日はお休みをいただいています」
「そうか。なら、ゆっくりしていけ…稽古が終われば、あいつも少しは時間が取れるだろう」
それだけ言うと、彼は静かに立ち上がり稽古場のほうへと去って行った。
「ありがとうございます…」
まだ半日しか経っていないけれど、今まで知らなかった彼らの日常を垣間見たり、沖田さんや土方さんの意外な素顔や、新撰組の強さと団結力を改めて知ることが出来た。
彼らは、何の為に命を賭してまで戦い続けるのか…。
それはいまだに分からないままだったが、新撰組に集う男達の生き方に共感していた。
~あとがき~
新撰組の生活について調べていると、本当に、おおっ!って思うことが多いです
本当なら、女人禁止みたいな感じで、妻子でさえ20キロ県内に住まわせてはいけないという規則があったようどす…。
家族に未練を抱くといけないから…という理由で。妻子がいる人は単身赴任のような感じだったようどす。他には、入隊後数週間は、時々、寝込みを襲われたりして度胸を試されたりしたらしい…。そこで、驚いたりうろたえるようなら、即、屯所を追い出されたらしい…。
それくらい、新撰組として生きていくことが大変だった…ってことですよね…。そんな中、沖田さんや土方さんたちも、恋愛はしたのでしょうけど…。
本当は、どんな恋愛をしていたのか…本人達に聞いてみたくなるくらい、常にむさ苦しい男だけの世界だったのだろうな…と(笑)それでも、新撰組に入隊したいという青年達が多かったのは、やっぱ…かっこよかったから?と、思うんですよね。
あと、「美男五人衆」っていう部署もあったみたいで!!!
これが、気になって仕方が無い(笑)
こりゃ、美男子だったってことだよね??
( *´艸`)
そして、また今回も…。
新撰組、かっけー!!と、思った私でした。
(どちらかといえば、尊皇攘夷派ではありますが)
今回も、読んで下さってありがとうございました!