<艶が~る、妄想小説>
艶物語「十六夜の月」第5話
艶の沖田さんたちを意識しつつ、沖田総司本人の生涯を私なりに調べて書き続けてもう、5話目
艶の土方さんより、私の描いた土方さんは少し優しいかもかも
今回は、さらに…沖田さんの病気について触れています…ので、沖田さんを攻略していない方や、沖田さんの歴史を知らない方は、多少ネタバレになりますのでご注意ください!艶本編とは、違う描き方をしてはいますが…。
今回も、良かったら読んでやってくださいませ
(続き物につき、良ければこちらからお読みください)
*「十六夜の月」第5話*
あの有名な池田屋事件から三日が経ち、新撰組の偉業を耳にした私は一番に彼のことを思い浮かべていた。
中には重傷を負った隊士、命を落とした隊士もいたらしいし、長州藩士の人達も多くの犠牲を出したという…。そして、沖田さんも倒れたと聞いた時…例えようも無い悲しみに押しつぶされそうになっていた。
鏡台の前でお座敷へ出る準備をしつつも、彼のことを考えてばかりで、無理に笑顔を作ってみてはすぐに曇り出し自分の泣きそうな瞳を見つめる…。
それの繰り返しだった…。
沖田さんは、新撰組の中でも一、二を争う剣豪が集う一番隊隊長として常に重要な任務をこなしている。それに、他の隊士達の撃剣師範も請け負っている為、毎日とても忙しい日々を過ごしているのだろう…。
でも、彼に会いたい…。
そんな気持ちばかりが募っていくのだった。
一方、その頃。
屯所内では、近藤さんをはじめ、総長である山南さんや副長である土方さん、そして、一番隊隊長から十番隊隊長までのそれぞれが集まって、この間の洛陽動乱事件についてと、京都守護職についていた、会津藩主である松平容保を排除しようとする長州藩の動きに注意を払うと共に、京の治安を守るべく今後の動向などが話し合われていた。
「この間の、池田屋においては…数名、取り逃がしてしまったものの、我等の獅子奮迅の働きの末、重要人物達を捕らえることが出来た。が、しかし…このまま長州藩士たちが黙っている訳がない。何らかの形でまた動き出すだろう…」
近藤さんが、真剣な顔つきで話す隣で、土方さんが腕組みをしながら口を開く。
「すでに上からは、長州藩の動きに注意を払えとの仰せを仕っている。もう、気がついているとは思うが、今まで以上に京の治安を守るべく目を見張り各自で判断し動くように」
沖田さんをはじめ、それぞれの隊長達はすでに最近の長州藩たちの動きを警戒し、一度の巡回の人数も増やし、今まで以上に目を見張りながら治安維持を勤めていた。
今後の展開を予想しつつ、それぞれの役割を話し合うと、彼らは誰からとも無く解散していった。そして、隊士達が次々とその場を後にする中、土方さんは、永倉さんと共に部屋を去ろうとした沖田さんを呼び止めた。
「総司…」
「はい?」
呼び止められた沖田さんは、少し戸惑いながらも土方さんの前に正座した。二人だけになった部屋に虫の音だけが響き渡る。
「診て貰って来たのか?」
「……はい」
「それで…」
「肺を…少し患っているようです…」
池田屋事件から二日後、ただの風邪くらいでは医者になど掛かれない…と気を張っていた彼だが、丁度隊の健康診断も兼ねてお医者様に診て貰っていたのだった。
「でも、咳も落ち着いて来ていますし…まだ普通に戦えますから、心配しないで下さい…」
「心配なんざしてねぇよ」
少し微笑みながら言う土方さんに、沖田さんも同じように微笑んだ。
そして、無理はしないようにと土方さんから言われた沖田さんは、静かにその場を立ち去り、広い部屋に一人残った土方さんは、腕組みをしながら真っ直ぐ一点を見つめた。
その瞳は、もうすでに新撰組の未来を見据えているようだった…。
それから一週間後の晩。
いつものようにお座敷に出ていた時、番頭さんから新撰組の隊士の待つ部屋へ行ってくれと言われ、胸を弾ませながらそのお座敷へと急いだ。
(もしかしたら…あの人に会えるかも…)
でも、そこで私を待っていてくれたのは、土方さんただ一人だった。私は少しだけ気落ちしながらも、いつものように挨拶をすると、彼は少し眉を顰めながら呟いた。
「なんだ、そのお門違いでした…みたいな顔は」
「え…いえ…そんな…お待たせしてすみませんでした」
そして、彼の隣りに正座し銚子を持ってお酌すると、彼はぐいっと飲み干した。
「お久しぶりですね…」
「ああ…ずっと忙しくて顔を出す暇がなかった」
「……池田屋のこと、聞きました」
「…総司なら大丈夫だ」
彼は、目を見開く私を見つめながら少しだけ微笑んで見せた。そして、沖田さんが皆から急かされつつも、お医者様に診て貰ってきたことなどを話してくれた。
「……じゃ、沖田さんは元気なんですね」
「ああ、安心したか」
私は頬を赤く染め、彼の細められた瞳を見つめながら、こくりと頷くと、彼は「ちっ…のろけやがって」と言って苦笑した。
(沖田さんが元気でいてくれた…)
それが確認出来ただけで、今までの不安が一気に吹き飛んでいくと共に、ホッと胸を撫で下ろした。
「今夜、あいつにも声をかけたんだが、忙しいからと断られた。一番隊は、他よりもやることが多いからな…」
「そう…だったんですか…」
「だから、お前さえ良ければまた屯所へ顔を出せ」
「え……」
「また、こきつかってやる」
そんな言葉が聞けるなんて思ってもいなかった私は、驚きながらも彼にお礼を言うと、彼は優しい眼差しのまま、ゆっくりと立ち上がった。
「もう、お帰りですか?」
「ああ、また来る」
(もしかして、沖田さんのことを伝える為にわざわざ足を運んでくれたのだろうか…)
私は、彼の背中を追いかけながら改めて心の中で感謝した。
「今夜はありがとうございました…土方さんも、お気をつけて…」
「ああ…」
揚屋の玄関先で言葉を交し合うと、彼の背中が見えなくなるまで見送った。
(沖田さんに会える…)
私は、笑みを堪えきれず番頭さんに変な顔をされつつも、次のお座敷へと向かったのだった。
そして、次の日。
私は、朝の仕事を済ませると、外出許可を得る為に秋斉さんの部屋へ急いだ。
「新撰組屯所へ?」
秋斉さんに問われ、私は少し躊躇いながらもこくりと頷くと、彼は、少し考えながら静かに口を開いた。
「今は、行かへんほうがええと思うんやけど…」
「そ、そうでしょうけど…」
「まぁ、わてがあかん言うてもきっと行くつもりやろうからな…それならなるべく早いほうがええ。近いうちに都合つけてあげまひょ…」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑顔で言う私に苦笑しながらも、彼は外出許可を出してくれた。
「ただ、あれ以来…あの方々も忙しい身の上や。決して邪魔をするようなことの無いように、気いつけや」
「はい、心得ています」
彼らの為にどんなことでもいいから役に立ちたい…。
何よりも、彼の笑顔に会いたい。
優しい声に包まれたい…。
私は、その休暇を楽しみにしつつ、秋斉さんにお礼を言って部屋を後にした。
~あとがき~
池田屋事件の一ヵ月後、禁門の変が起こるまでの間に…。
何とか、沖田さんと主人公ちゃんを会わせたい…なんて、思いつつ…。
まだ、二人は会えないまま
しかし、秋斉さんに外出許可を取る際、本当ならこんなこと許されないのかもな?なんて思いながら書いちょりました
そして、土方さんが優しすぎる件(笑)
これからも、新撰組の動向や歴史などを書いて行きたいので、まだまだ切ない恋は続いてしまいます
今回も、読んでくださってありがとうございました