『土』(つち)は、長塚節の長編小説である。作者の郷里である茨城県鬼怒川沿いの農村を舞台に、貧農一家の生活を、農村の自然や風俗・行事などと共に、写生文体で克明に描いた作品である。
長塚の唯一の長編小説で、農民文学の代表的作品とされる。
夏目漱石の推薦によって、1910年(明治43年)6月13日から11月17日にかけて、東京朝日新聞に連載された。
1912年(明治45年)5月19日に春陽堂より刊行され、漱石による序文『「土」に就て』が付された。
「土」は、茨城県地方の貧農である勘次一家を中心に、小作農の貧しさとそれに由来する貪欲、狡猾、利己心など、また彼らをとりかこむ自然の風物、年中行事などを驚くべきリアルな筆致で克明に描いた農民文学の記念碑的名作である。
夏目漱石はこういった。
「余の娘が年頃になって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと言い募る時分になったら、余は是非この『土』を読ましたいと思っている」
「土」は、1939年(昭和14年)に日活製作・内田吐夢監督によって映画化された。主演は小杉勇。モノクロ、スタンダード、142分。
内田監督の戦前期の代表作で、長い製作日数をかけ徹底したリアリズムで描いた。地味な内容にもかかわらず、3週間続映のヒット作となり、文部省推薦も受けた。
評価も高く、第1回文部大臣賞、第16回キネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれた。
『土』は長塚節(1879―1915)の長編小説で、鬼怒川沿いの貧農の生活を自然や風俗・行事などと共に写生文体で克明に描いた。
人間の生き方について彼は語っている。
「無尽蔵な自然の懐から財貨が百姓の手に必ず一度与へられる秋の季節に成れば、其の財貨を保つた田や畑の穂先が之を嫉む一部の自然現象に対して常に戦慄しつつ且泣いた」