連作小説「神への道」 | 作家 福元早夫のブログ

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人生とは自然と目前の現実の、絶え間ない自己観照であるから、
つねに精神を高揚させて、自分が理想とする生き方を具体化させることである

連作小説 「神への道」

第一部 「少年記」

第三十九作

うそぬきの滝近郊の作物

「マメ科の仲間・その1

 

「……鉈(なた)を貸して山を伐(き)られるとことわざにあるが、好意をもってしてやったことが、かえって身のためにはならずに、害をうけることがあるもんなじゃ」

 夕食のときである。晩酌の焼酎の湯割りを手にした祖父がいった。祖母が大豆を甘くにこんでから、皿にもって食卓においてからこういった。

 

「……ナタを貸してやって、そのナタで山を伐られたのでは、すすんで盗人の手助けをしたようなものですわなあ。恩を仇で返されたわけですな」

 

「……ソラマメの真似をする人物がいるが、空見のことよ。うわのそらで見ることよ、心をとめずに見ることよ」

 祖父が大豆の煮込みを口にしてからいった。食卓についた祖母がこういった。

 

「空耳というんは、聞きあやまることで、聞き違いでしたなあ。聞かなかったのに,聞いたと思い違いをすることでしたなあ……」

 

 それを聞いた祖父が、タケルにこういった。

「……空耳を使う人物がいるもんじゃが、聞いて聞かなかったふりをすることなんじゃ。じゃっどん、人と向き合ったときに,目や耳を空に向けてはいかん。人格を疑われるぞ。じっと黙って、足もとを見る方がまだよか。真剣でまじめそうな人物に見えるからなあ」

 

『ジャックと豆の木』と題した童話の本があった。ジャックはそら豆の木を登って、空へ向かっていった。そこは別世界だった。あらゆるものが、夢と希望で光り輝いていた。

 

 お城があって、美しいお姫様がいた。ジャックは有頂天になった。秋になって、冬がきた。豆の木は枯れてしまっていた。

 

 タケルがはじめて手にした自分だけの読書本だった。小学校の高学年のころである。カバヤキャラメルがあった。

 キャラメルは1個が十円だった。それを買うと、中にカードがあって、点数がついていた。集めて100点になると、好きな本がもらえた。

 

 家に小遣いを与えるしきたりはなかった。祖父でさえも、ナタやカマやクワは手にするけれども、財布を手にしている姿を見たことはなかった。

 コツコツと貯めていくのである。地金を拾い集めて、地金屋へもっていった。金属のスクラップである。

 

 ナタを持って、山へ登った。竹の根っこを採りに行くのである。節(ぶし)である。ナベや急須などの、取っ手になる。買い物かごにもついていた。

 コウモリガサもこれを握る。太くて長いのが値がする。急須などは、細くて可愛いのがいい。磨いて仲買人のところへ持っていった。

 

 川へいって、大人たちと一緒に、砂利をとったこともあった。1メートル四方の木枠の中に、水を切る専用のスコップで、川の砂利をすくい上げて入れていくのである。

 

 砂利は道路になる。ビルにもなる。セメントには欠かすことができない。赤いフンドシだけになって、川の流れと闘った。トラックがきて、砂利を運んでいった。分け前が貰えてうれしかった。キャラメルが買えるのである。

 

 やっとの思いで集めたカードの点数が、100点になった。封筒に入れて東京へ送った。東京は夢の国だった。見たことも行ったこともない。雲の上にあると思っていた。

 

『ジャックと豆の木』がしばらくして送られてきた。小包である。ヒモで縛ってある。初めて手にした自分宛の小包郵便物だった。

 

 胸が高鳴る。興奮して、ヒモをとく手がふるえた。タケルは大都会の東京と、遠く離れた南九州の自分とが、何かでつながった気がしてきた。

包みを開いた。ぷーんと、真新しい本の匂いがした。好きな匂いである。食べたくなるような、いい香りなのだった。

 

夕食をすませたタケルは、囲炉裏端で作物図鑑をひろげて目でおっていった。祖父と祖母は、大豆の煮込みにハシをのばしながらお茶をのんでいた。

 

「ソラマメは、サヤが空を向いているからこの名がある。熟していない青い種を、食用にしている。生育の適温は、摂氏16度から20度である。暑さと乾燥に弱い」

 

「ソラマメは、普通は9月から10月に種まきをして、翌年の5月から6月に収穫している。連作を嫌う作物である。高さが1メートル50センチ位になる。原産地は不明である。古来、西アジアで栽培されていたといわれている。いまは世界の各地で栽培されている。ソラマメの葉や茎は、肥料や家畜の飼料に利用されている」

 

「ササゲは、若いサヤと種子を食用にしている。ツル性と,ツルなし性の種類がある。生育の期間が短い。暑さや乾燥に強い。寒さには弱い。4月から5月に種まきをして、7月から9月に収穫している。原産地はアフリカの中部である。世界で広く栽培されている。種子には、赤色や白色のほかに黒色もある」

 

「ナタマメは、はナタの格好をしている。鉈(ナタ)は、短くて厚く、幅の広い刃物である。山でよく使う。竹や木を切ったり、マキなどを割るときに使用している」

 

「ナタマメは若いサヤを、12センチから20センチ位のころに収穫して、福神漬けなどに利用している。成長したサヤは、30センチ位になる。幅が5センチほどである。高温性で生育期間が長い。4月に種まきをして、8月ごろに収穫している。原産地は熱帯のアジアである」

 

「フジマメの若いサヤは香味があって、食用にしている。ツル性である。7月から9月ごろに、赤紫色や白色の花を咲かせている。フジの花に似ている。美しい。サヤは扁平で、カマの形をしている。5月ごろに種まきをして、秋がおそくなってら収穫をしている。

 

「フジマメはセンゴクマメとか、アジマメとも呼ばれている。関西地方では、インゲンマメと呼んでいる。原産地は熱帯のアジアや南アフリカである。世界で広く栽培されている」