連作小説「神への道」 | 作家 福元早夫のブログ

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人生とは自然と目前の現実の、絶え間ない自己観照であるから、
つねに精神を高揚させて、自分が理想とする生き方を具体化させることである

連作小説 「神への道」

第一部 「少年記」

第三十七作

うそぬきの滝近郊の作物

「ショウガなど」

 

 祖父母たちのまとまった現金収入は、秋の米の収穫だった。米俵を農協へ供出して、一等米や二等米などと評価される。それに基づいて、お金が渡されてくるのだった。

そのお金を手に、祖母は一年に一度の、まとまった買い物をした。よく連れていってくれた。タケルが小学生のころだった。

 

 日豊本線を蒸気機関車に乗って、加治木から鹿児島市内へ行く。西鹿児島駅のちかくの繊維問屋街である。まず祖父の肌着類である。仕事着である。タオルや靴下である。タケルの肌着はあとだった。祖母のは最後だった。余裕があれば、祖父のよそ行きの衣服に手をのばした。

 

 祖母が小声でタケルにこういった。店の主人は奥にすわっていた。

「……知らずば半値とことわざにあるんよ。値うちのわからん物は、およそ半値くらいと見当をつければ、だいたは当たるんよ」

 

 祖母は下着や仕事着をいくつか物色して、両手にかかえてことばをつづけた。

「これはなあ、露天商などで物を値切るときの要領なんじゃ。どんな物でも、作った元値は、半分の値段よりも、なお低いものなんじゃ……」

 

 祖母はそれをふだんから実践していた。布袋の財布は、手アカがついて年期がはいっていた。ヒモでぐるぐる巻きにするようになっている。キンチャクである。その中味を店の主人にちらつかせながら、祖母は自分が決めた値段で買い取っていった。

 

 昼食は食堂へ連れて行ってくれた。タケルは外食などめったにしたことはない。うれしい。注文は、素うどんである。うどんにカマボコが二切れと、ネギである。それでもおいしい。

 

 竹の子の皮に包んできたタカナの葉で巻いたおにぎりを、祖母がひろげる。うどんとよく合う。腹がいっぱいになる。

「おいしそうですね……」

こういって店の主人が、ショウガ漬けを出してくれた。

 

 祖母が日ごろから実践している人の生き方に、こうあった。

「知らずば人に問え……」

これである。わからないことは進んで人にたずねて、それを覚えて自分のものにすることが大切であるというのだった。

 

タケルによくこういって聞かせた。

「……知ったかふりをして恥をかくよりも、その時は恥ずかしくても、人にきくほうがいい。知らずにいるのがいちばん悪いんじゃ」

 

 役場や郵便局や農協などへ足を運ぶのは、祖母の仕事だった。郵便でとどいた書類を手に出むいていく。何が書いてあるのかわからない。タケルは祖母のあとについていくのだった。

 

役場や農協などの、その書類の窓口へいって、祖母は職員に、声をだして読ませた。

「……ああ、そげなことだったとですか、よくわかりもうした。おおきになあ、たすかりもうした」

こういって祖母は納得する。それからさらに、職員にこういう。

 

「……歳がよって、ちかごろ、目がよくみえんとですよ」

わざと目をぱちぱちさせながら、祖母は職員に、記入欄に代筆させた。印鑑をつかせた。タケルは勉学のためだといって、よく連れて行かれたのだった。

 

「……頭を使え、どんなに使っても、頭はこわれはせん。じゃつどん、からだは無理をしたらいかん。こわれるから、気をつけんといかん」

祖母はタケルによくこういった。

 

「……時計の見方とお金の数え方さえ知っておれば、学問でものにした知恵は、ほどほどでよか。知らずば問うのじゃ。よかか、わかったか」

こういって祖母は、明治の中ごろに生まれた人の生き方を、タケルの目に見せてくれるのだった。

 

「ショウガはショウガ科で、香りと辛味のあるかい茎を食用にしている。黄色い地下の茎である。摂氏25度から30度の、高温多湿でよく生育していく。かい茎で増殖していく」

 

 夕食をすませたタケルは、囲炉裏端で作物図鑑を目でおっていった。祖父は食後にショウガ酒を茶碗で口にしていた。祖母はお茶をのんでいた。

 

「ショウガは5月ごろに種になるショウガを植えて、8月から12月ごろに収穫している。50センチ位の高さになっている。原産地は西南の熱帯アジアである。世界で広く栽培されている。日本へは古くに中国から伝わってきた」

 

「ショウガは地下の茎で横に伸びていき、数個の塊リを作っていく。地上の茎は直立して、60センチ位の高さになる。下の方が、紅色をおびている。葉は先がとがっている。普通では花は開かない。暖地では夏や秋に、地下の茎から花茎を出して、黄色い花を咲かせている。根茎は食用や香辛料に使われるほかに、健胃剤や鎮嘔剤にも利用されている」

 

「ショウガ酒』がある。ショウガの根をおろして入れ、砂糖を加えた酒である。身体を温める効果がある」

「ショウガ漬けは、ショウガの根茎をうすく切って,砂糖に漬けた菓子である。ほかにもショウガ茶がある。水砂糖で煮たショウガ糖がある」

 

「ショウガ湯は、ショウガの根をおろして砂糖とまぜて、湯にといて飲む。発汗剤になるから、風邪をひいたときにはいい」

 

 

「カエンサイはアカザ科で、別名でビートルートと呼ばれている。根を食用にしている。飼料用の赤カブから改良されたものである。根は濃い赤色をしている。輪切りにすると、横断面に燐紋がある。摂氏13度から18度でよく生育していく。春に種をまいて、秋に収穫している。原産地はシシリー島である」

 

「火焔菜(かえんさい)」はアカザ科の越年草である。フダンソウやサトウダイコンなどと同一種である。農業のうえでは変種である。葉は暗紅色で、カブに似て大きい。甘味が強くて,味は濃厚である。サラダなどに利用されている」

 

「クワイはオモダカ科で、水生野菜であって、オモダカの変種である。すこし苦味のあるかい茎を食用にしている。クワイ玉である。地下の茎から出てきた複枝の先に、かい茎ができる。6月から7月ごろに、水田に種玉を植え付ける。11月から翌年の3月ごろに収穫をしている。高さが1メートルをこえる。原産地は中国である。丸い茎の皮には、青色と白色の二種がある」