稽古場では、身なりに気をつけています。
必要なのはおしゃれではなく、刺激です。
役者さんは稽古中、相手役を見ている時間と同じくらい、下手したらそれ以上に、演出家を見ている時間が長いこともある。みすぼらしい仕事着で行くわけにはいかない。
ばちっとスーツやシャツで決めている方、飾らずにカジュアルな装いの方など、たくさんいらっしゃいます。とても素敵だなあと憧れます。
僕の場合は、極力同じ服を着ないように心がけます。稽古がはじまる前の風景に、わずかでも変化をもたらす新鮮さ持ち込めたら……そう思えば僕自身の心持ちもフレッシュになる。毎日の仕事着は朝起きてから選びます。
演出家とは何者か。
僕は「こだわる人」だと思っている。
最高責任者ではなく最終責任者。
キャストとスタッフからいただいたアイデアの渦のなかから、何を残して何を加えて何を洗練し、どこに向かうのかを決断し続ける、そんな役割を担うひと。
だからこそ。
これがいい、これもいい、これがすき、これはちがう、これじゃなきゃだめなんだという感覚は、忘れないように四六時中、こだわりたい。
部屋着から着替えればスイッチが入る。
襟を正せば背筋が伸びるのは本当らしい。
演出にも言葉にも。
日々の生活においても充実をもたらす。
それが僕にとって、服を着るということ。
さあそんなわけで。
後半は五着をご紹介いたします。
2019AW
RBTXCO
予言のプルオーバー
「胸に進化って書いてあるよ」
と、よく人に言われました。
その通りです。僕は進化したいです。
ファッションは自己表現でもあります。
こういうのがすき。
こんな私になりたい。
こういった考え方です。
会った人にそれを伝えられる。
タグすらも詩的なRBTの世界。
RBTの服を着て打ち合わせに行くことが多い。相手に自分のやりたいことを伝えやすいから。
きっと親和性が高いのだと思います。構築したい物語がどこかで似ていると一方的に感じています。
もし自分の身体が何か物足りないなら。
新しい皮膚として、その服を着たらいい。
2019AW
ANREALAGE
スラックスコート
驚くべきことに、着てません。
優れた衣服というものはそれ自身がひとつの藝術品であり、壁にかけて鑑賞可能なアートの役割すらも果たします。
だけど服は、人が着る/人に着られることで真価を発揮します。だから着るべきです。その点については反省しています。
服の細部を拡大したコレクション『DETAIL』。
スラックスのウエストを拡大したこのタータンチェックのコートは、世界で一着しか販売されなかったそうです。
よく「人とかぶるのが厭だ」という理由で個性的なファッションを好む方がいますが、人とかぶるというのはむしろラッキーで恵まれています。世界中の誰かと、その服が好きだと分かり合える。お互いのあいだにシンパシーを生むわけですから。
それがどうでしょう。
世界で一着しかない服ばかり着ていたら、その共感の芽を摘んでしまいます。
唯一無二とは、すなわち孤独なのです。
ファッションとは孤独の覚悟でもある。
孤独を纏って生きる覚悟。
……あなたにはありますか?
シーズン不明
MR.OLIVE
セミダブルライダースジャケット
何度も買うことはない服があります。
カットソーやパーカーなどとは違って、人生で数着、もしかしたら一着しか選ばないかもしれない服。ライダースジャケットも、そういった類に入るのではないでしょうか。
好きに選んで、自分で着る。
それがファッションの醍醐味。
本革のライダースジャケット。
生き物のいのちをもとに作られた衣服。
流行りのデザインを買って、ワンシーズンで捨てるのとは訳が違います。買うことに責任すら伴うのが革製品です。
だからこそ、その尊さを知り、オーナーとなって長年かけて服を育ててゆく。
生半可な気持ちでは選べません。
だからとても時間がかかりました。
ずっと生涯の一着を探してました。
33歳。ようやくめぐり逢えました。
はじめて訪れた街。
普段は入らないであろう雰囲気のセレクトショップに、導かれるまま、足を踏み入れました。
ラムレザー、キャメル、セミダブル。
王道の黒ダブルではありません。
裏地がキュプラで着心地もよい。
その柔らかな可愛げに惹かれました。
どこかで見かけた服を、後から買おうとしても手に入らないことって多いですよね。
一期一会。
めぐり逢えた服を大切に。
2019AW
NOZOMI ISHIGURO
Haute Couture
ウェスタンシャツ
まだファッションへの興味が漠然としていたころ。
今はなきストリートスナップ誌『TUNE』を読んでいた、若き日の松澤くれは。
「うお!おしゃれ!」と思う服思う服が、同じブランドなわけです。
その名は、
NOZOMI ISHIGURO。
ああ、こんな服を着てみたい。
心からそう思える服に出逢いました。
値段を調べてびっくり。
まあそれはお高い代物。
表現でごはんを食べることを志す、貧乏な若人にとって、自由に使えるお金なんて微々たるもの。
だけど思いました。
お前は駆け出しでもクリエイターだろ。
素晴らしいと思ったそのこころに従え。
すごいと思ったらきちんとお金を払え。
だからお金をためました。
がんばって、買いました。
パッチワークパーカー。
あの感動は今でも鮮烈に憶えている。
それから僕はファッションに傾倒した。
ノゾミも毎シーズン、ちょっとずつ集めていった。たくさん着た。
どんなに悲しいときも、苦しいときも、好きな服が僕を救ってくれた。とりとめもない日常でも、その服を着ただけで特別な1日をおくることができた。
僕にとってノゾミは原点で。
何にも変えがたい、お洋服。
月日が経ち、デザイナーの石黒望さんと知り合いました。
何度かアトリエにもお邪魔して、仕事場を見学させてもらったり、コムデギャルソン時代の貴重なお話を伺ったりもしました。
石黒さんは僕の舞台も観に来てくださいました。先日は一緒に富山の地酒を飲みました。
服が、ご縁をつないでくれました。
2019年。
そんなブランドが終わりを迎えました。
経営破綻のニュースをきいてから、しばらく仕事が手につかなかった。
こんなにすごい技術とセンスをもった服作りが、新しく知られなくなってしまう。それは寂しさよりも悔しさでした。これは個人的で勝手な感情です、ただひとりのファンとして、勝手に悔しがりました。
このウエスタンシャツは、幻の一品です。
商品化されず、受注会でのサンプルしか存在しません。
こんなにすごい服はどこにもない。
この服は、ここにしかないのです。
発色のよいイエローチェックに、見たこともない布地を組み合わせたシャツは、ウエスタンの要素を残しつつポップな可愛さを演出してくれる。袖のフリルもガーリーになりすぎず、メンズ/ウィメンズをこえて、明るさを灯している。
この服を着ると、
気分が華やかになります。
だから、終わりだなんて思えなくて、きっといつかまた石黒さんの作品に会えると、そう信じさせてくれました。
明るい未来を纏うように。
これからも僕は、ノゾミの服に袖を通す。
2019AW
COMME des GARÇONS
HOMME PLUS
刺繍ガウンジャケット
ほんの数日前。
今年最後に大きな買い物をした。
やっぱりギャルソンはすごい。
語るために言葉すら要らない。
ただただ、新しい世界を見せてくれる。
世界を代表するデザイナー、川久保玲さん。
いつか御大の服も、作られなくなる。
それはわかってる。いたしかたない。
だからこそ、同じ時代を生きる者としての幸福は、いま、あなたの服が買えることだ。あなたがこれだと信じたものを、わたしがいま、選んで着られることだ。
来年は外に着て行くことでしょう。
どんな日になるのだろう。
何が待っているんだろう。
今年一年。
買ってよかった服はもっとあります。
服を買うために仕事も頑張りました。
服は自分自身を広げてくれます。
何気ない日常を特別な一日にしてくれます。
ひとの想いが込められた服を、選ぶ。
選んだ服で、かけがえのない日を過ごす。
今年がおわる。
新年を迎える。
何も変わらない。
新しい毎日が待っている。
明日は何を着て、
どこに出かけましょうか。
2019.12.31 松澤くれは