地味でいい映画 | やまとうた響く

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日々の出来事や想いを綴っています。エッセイ風に書けたら素敵なんだけれど。

前回の記事で言葉のことを少し書いた。朝ドラの貴君が言葉が沢山あるんは自分にピッタリの言葉を見つけるためやで、と言っていた。その言葉の宝庫と言えるのが辞書だと思う。

最近はなんでもスマホで検索できるので辞書を持たなくても過ごせるし持たない人が増えていると思う。ただスマホの検索で示されるのは辞書が元になっている。

そんな一冊の辞書を作る、と言う大変な地味で注目されることもない作業の繰り返しを黙々とする人達がいて、それが映画になった、まさに地味な映画を観た。昨年テレビでやっていて録画をして、実際に観たのは最近のことだ。タイトルは舟を編む、と言う。




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地味で何の盛り上がりもないのだけれど、面白くないわけではなく、今短歌に魅力を感じる様になり、言葉を日々見つけようとしている私には面白かった。じんわりと染みてくる面白さだ。俳優さん達も皆うまくて演技にも引き込まれる。


そして何より感動するのは、一冊の辞書を作り上げるのに10年以上の年月をかけ、ひとつの言葉の意味を探りながら膨大な数の言葉の辞書を作っていく。それはそれは地味、としか他に言葉が見つからないけれど、実際にする人がいるからこそ、日本語が日本語として残っていくのだ、と言うことだった。


舟を編む、と言うタイトルは、辞書は言葉の海を渡る舟。編集者はその海をを渡る舟を編んでいく、と言う意味でのタイトルのようだ。映画の中で作ろうとしている辞書のタイトルも大渡海、だった。


ストーリーは、新しい辞書を作るに当たり、奥さんの介護のために退職する小林薫さん演じる男性が自分に変わって受け継いでくれる人材を見つける際に、松田龍平さん演じる別の部署の男性に、右と言う言葉を説明できるか?と尋ねる。


馬締と言う名のその男性は、西を向いた時に北に当たる方が右です。と答え、その答えを聞いて彼をスカウトする。その答えに私も地味なこの映画に引き込まれた。


辞書の言葉のひとつひとつの意味を当然だけれどすべて人が語釈として考えるのだ、と改めて知った。ちなみに他の辞書では、右は、今開いている辞書の偶数ページの方、と書かれていたり、数字の10の0の方、と説明されていたり、ただただ感心するばかりだ。


馬締さんが恋をした時に、加藤剛さん演じる編集長が、恋の語釈を彼に任せた。そして馬締さんが仕上げた語釈は、ある人を好きになってしまい、寝てもさめてもその人が頭から離れず他のことが手に着かなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。成就すれば天にものぼる気持ちになる。と言う語釈を自らの体験から導き出した。なんと人間らしく生きた語釈だろう!素晴らしい😍  


編集長は、今を生きる辞書にしたい。言葉は時代と共に変化するものだから、正しい言葉だけではなく、現代語や誤用など世の中に浸透しているものは全部載せたい、すなわち辞書は今を生きる人に向けて作られるべきだ、と言う想いを他の編集者にも伝え取り組んでいる。


そんな彼らは町を歩いていてもいまだ耳にしたことのない言葉に耳を傾け用例採集をしていく。ダサい。そんな言葉にも語釈をつけていく。


オダギリジョーさん演じる編集者がダサい、を担当。使い方の用例を酔ってプロポーズとかまじダサいよね。とやはり体験から作り上げる。これもまた生きた言葉の意味を感じる。そんな地道なアナログで人間的な作業を10年以上かけて、一冊の辞書が完成する。


地味だ地味だを連発するけれど、ほんとにじんわりと地味で静かな感動に包まれる、そんな映画だった。そしてもう一本、地味で地道な作業をひたすら続ける、と言う点で似た部分のある映画も昨年だったかテレビで放送されていたのを観た。


こちらは天地明察、と言う映画で、かつての日本では中国の暦を使用していたけれど、少しずつズレが生じてきて、日本独自の大和暦を作るまでの道のりが描かれた映画で、これも日本中くまなく歩き北極星を観察し、来る日も来る日もひたすら観測を続ける毎日を送る。そんな地道な作業は辞書作りと似ている。



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言葉に関する映画ではないのでこちらは詳しいことは書かないけれど、このタイトルが素晴らしいな、と思う。改めて明察、を検索してみた。(辞書ではなく💦)




こうして検索してでてくる解説も、日本国語大辞典からの引用だった。


やはり辞書なくしては成り立たないのだ。


そして明察とは真相を、見抜く、と書かれている。天地の真相を見抜くための作業をひたすら続け、ついに作り出した暦の日食が本当に正しかった時に御明察!となった!いいタイトルとこちらも中身もいい映画だった。


今当たり前に使っている(使っていなかったとしても、元になっているのだ)辞書だったり、暦(カレンダーも)、気の遠くなる人間の努力の賜物だったのだ。そんな先人の努力のもとに生かされていることを教えてくれた。


ストーリー的には地味な映画二本だったけれど俳優陣はどちらも豪華な顔ぶれだった。ちなみにもうひとつのこの二本の映画の共通点は、共に奥さん役が宮崎あおいさんだった。どうでもいいけれど、この映画が(天地明察)きっかけで岡田准一さんと宮崎あおいさんは結婚したのかな、と思ったりした。


地味な(どれだけ地味を連発するやら)いい映画、観れてよかった。私の残りの人生、そうは長くないのだから、ちゃんとした言葉を使いたいと思う。そして人生御明察!となるべく生きたいものだ。