日経コンは2週間に1度、年に52週÷2=26冊出る雑誌です。2010年から全号精読して記事をザッピングしています。
※はブログ筆者のコメントです
特集は<徹底予測2026 AI駆動がIT業界に構造変化を迫る>です。次号は恐らく恒例の<新春IT大予測2026>ですのでその前座としての特集のようです。
【ITが危ない:労基法改正議論のインパクト SIerは生産性向上が急務】(P.08)
労働基準法(労基法)は戦後直後に施行され、1987年に週48時間から40時間への大改正が行われました。約40年ぶりの大改正が議論されています。早ければ2027年施行と言われています。議論されている内容はIT技術者に大きく影響します。研究会報告書から方針を見ます。
1.13日を超える連続勤務を禁止する
(現状では最長48日間の連続勤務が可能)
2.勤務間インターバルとして11時間を確保する
3.つながらない権利を配慮する(勤務外でのメールや電話)
※若い頃は徹夜して仕事を覚えていました。ますます若者を育てるのが難しくなります。
【徹底予測2026 AI駆動がITに構造変化を迫る】(P.10)
ITインフラ、システム開発、ITベンダー、セキュリティの4分野で2026年に訪れるであろうAIによる変化を徹底予測します。
1.国産振興へ ソブリンAI 業界特化型に活路
2026年は国産のソブリンAIが出てくるでしょう。ソブリンAIとは生成AIの開発や利用において、国としてモデルやデータ、インフラを主権的に管理することを指します。日本の生活やビジネスの文脈を知らない生成AIでは、文化的バイアスがかかる恐れがあるため日本のソブリンAIが求められます。
2025年9月、AIに特化した法律「AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が施行されました。それを受け「AI基本計画」で政府がAIの開発や利用を協力に推し進める事が表明されました。ソブリンAIでは「国産」モデルを使う方針となっています。具体的にどれにするかは今後決まります。2026年はもう1段進み、実際の企業におけるユースケースを打ち出せるかが鍵になります。
2.開発作業は全自動へ 技術者の価値も再編
2026年は、全行程でAIがフル稼働し始める節目の年となります。それに応じてエンジニアの役割が変わってくるでしょう。エンジニアが生きる道は次の3種類です。
(1) システムのマクロな設計能力を持ったエンジニア
→複雑な設計判断や組織内の調整を担当
(2) AIの運用に特化したエンジニア
→AIモデルやAIエージェントを運用
(3) レガシーシステムに詳しいシステムエンジニア
→既存資産や業務知識。暗黙知をドキュメント化
3.SIerに変革迫るAI 脱・人月型が急務に
2026年は、システム開発における生成AIの利用はPoCを終えて実用に入り、現実的な課題が見えてくるでしょう。労働集約型(人月型)から知識集約型(パッケージや提案型)に変わり事業モデルの転換を進める年になるでしょう。
4.ランサムはAI駆動に バイブハッキング台頭
2025年はサイバー攻撃が多発しました。2026年もサイバー攻撃の増加傾向は変わらないでしょう。攻撃者が生成AIを本格使用するVibe Hackingも増えます。守るのも大変になるでしょう。
※なんだか暗い話が多くて残念です。もっと明るい話が聞きたいです。
【ITインフラテクノロジーAWARD2026 基盤技術はAI-Readyに】(P.28)
日経クロステック/日経コンピュータが、有識者5名を招き選考する毎年吉例のAWARD。有識者は、NRIの石田氏、ULSの漆原氏、NIIの佐藤氏、Publickeyの新野氏、博報堂の森正氏
※漆原氏はいつの間にかウルシステムから離れてるのですね
1位:MCP(モデル・コンテキスト・プロトコル)
→生成AIと、既存のシステムを連携する接続規約
2位:ビジネスレジデンス
→サイバー攻撃や災害などから回復する力
3位:AI-Readyモダナイゼーション
→AIによるデータ処理を前提としたモダナイゼーション
有識者の個人的注目技術について、NRI石田氏は<カラムファースト・データ・モデル>を選ばれました。これは従来のデータモデルと違い少数の列を持つ複数のテーブルに分散する手法。データの更新や削除も認めず、常にインサート処理とします。
※AWARD2022でも石田氏の造語「DOA2.0」を取り上げました。これもイミュータブル構造です。好きなのでしょう。
【セールスフォースがAI機能を強化 決定論的処理とLLM推論を両立】(P.61)
<AIエージェントを業務プロセスへ自然に組み込む>
セールスフォースは2025年11月20日、「Agentforce 360」の日本での提供開始を発表しました。Agentforceは2024年9月に発表したAI Agentです。次々と進化してきました。
今回「Agent Script」を発表し2025年12月にベータ版の提供を開始する予定です。AIエージェントへの指示文を、自然文で書くのではなくスクリプトで書けるようになります。これにより同じ入力に対して同じ結果を出力することが出来ます。これを決定論と呼びます。
※LLMの課題は、同じ入力でも毎回回答が変わることです。そういうAIの業務(非決定論)と、必ず同じ回答を出したい業務(決定論)があり操作を分けることが出来るようになります。
【プライバシー強化技術「PETs」普及へ 新団体設立、「オールジャパンで連携」】(P.63)
Petsとは、プライバシー強化技術(Privacy Enhancing Technologies)です。個人のプライバシーや組織のデータを保護する技術の総称です。例えばこういう技術があります
匿名加工技術:特定の個人を識別出来る符号を削除して復元不可
秘密計算:データを秘匿したまま結合して相関関係などを分析
これらをAIの学習データに用いる事が広がっています。Petsを普及させるため、日本総合研究所が発起人となり「PETs社会実装推進コンソーシアム」が発足しました。社会実装に向けたアクションプランを議論します。
【動かないコンピュータ:美濃工業】(P.74)
<全ファイルサーバーがランサム被害 消し忘れアカウントからVPN侵入>
美濃工業は岐阜県中川市にある従業員1000名程度の自動車部品メーカーです。米ロサンゼルス拠点に出張中の社員が
現地時間10月3日(金) AM9:25
に本社のサーバーにアクセスしたところ、目的のファイルが見当たらず代わりに脅迫文書(ランサムノート)を見つけました。すぐに
日本時間10月4日(土) AM2:30頃
に上司に電話を入れ2:49にネットワークを切断しました。
調査したところ、社内の全ファイルサーバとプリントサーバ、一部のパソコンでデータが暗号化されていました。情報管理部は土日の間にバックアップからファイルサーバを復活。プリンターを直接サーバにつなぐことで製品を出荷できる状態まで復旧しました。火曜日には通常業務に戻せました。
侵入経路はVPN装置でした。臨時で作成した「temp1」というIDを消し忘れており簡単なパスワードだったため推測されたと見ています。10月1日に侵入し、ActiveDirectory(AD)の管理者アカウントもリスト型攻撃で突破されていました。
今回はたまたま米国出張中の社員が発見したため土日で復旧出来ましたが、通常なら月曜日まで気づきません。被害はもっと大きくなっていた可能性があります。また時系列まで含め詳細な情報を公開された事も話題になりました。
※被害を最小限に防げたこと、即時詳細に外部発信したことを含め素晴らしい対応だと思いました。危機管理マニュアルがしっかりしていたのでしょう。
【ビジネスメタデータ マネジメント入門 第2回】(P.82)
※第2回も取り上げる連載は珍しいです。面白いです。
ビジネスメタデータの意義を例え話で説明します。冷蔵庫をデータベースだとします。冷蔵庫の中に様々な食材があります。そこに第三者が来て冷蔵庫を開け適切な夕食を作れるでしょうか?
例えば家族の中に食事制限をしている人が居るか、好き嫌いは何かなど、家族なら知っている情報でも第三者は知りません。つまり冷蔵庫(DB)を使いこなすためには、<データを実際に活用するための文脈や条件・制約についてわかるようにする>必要があります。これがビジネスメタデータです。
ビジネスメタデータには4つに分類出来ます
<基本>データの意味・識別:定義、名称、意味、分類など
利用制約・対象:利用可否や品質など
<応用>ビジネスコンテキスト:活用文脈・背景・理由
ライフサイクル:収集、蓄積、クレンジングの証跡
ビジネスメタデータをどう管理するかも課題です。特定の生成AIに蓄積してしまうと新しい技術が出てきた時どうするのか。どこか1箇所にまとめておき、それぞれの生成AIから使えるようにするなど工夫が必要です。
※データカタログが広がりつつありますがコンテキストまでいれるためには、どう使うか、つまりユースケースも必要です。
【社長の疑問に答える IT専門家の対話術 第308回】(P.90)
「2030 次世代AI 日本の勝ち筋(佐藤一郎著)」が2025年11月に発刊されました。
4〜5年先に次のAIがどうなっており、それを使ってどう勝つかを論じています。
佐藤一郎氏は国立情報学研究所(NII)の教授であり著名なコンピュータ・サイエンスの学者です。専門技術について出来る限り平易に解説されています。最先端の話も簡潔にまとめています。
その反面、少し深く知りたいと思う話題もあります。関心を持った箇所について他の文献を探すのが良いのでしょう。
この本で言う「日本の勝ち筋」をコラム筆者はこうまとめます。
<特定のドメイン(業務)に特化したAIの開発に力を入れると共に、「そのAIを活かした業務の仕方そのものを」輸出する>
AIエージェントに適切な情報を提供するためにデータベースの整備も重要です。
※佐藤氏は毎年WARDの選者に選ばれています。
以上

