テレビを見ていると、今や、K-POPは全世界を席巻している超一大ムーブメントだという話題がてんこ盛りです。
マーケティングの仕事をしているので、確かに日本の10代女子にも、K-POPスターが絶大な影響力を持っている事実もよく知っています。

 

ただし、僕の周りだけだと、母親が「冬ソナ」にハマって驚いた以降、それほどの大人気を間近には感じられた経験があまりなく、「紅白歌合戦」にも、あんなに他所の国の歌手をたくさん出演させる企画意図が、イマイチよくわからなかったりします。

 

さりとて、商売柄、実は日韓のK-POPビジネスのメインプレーヤーの皆様とも親交があり、いろいろお話する機会も多いのですが、正直、相手によって、「K-POPは北米でも世界でも稼げるようになった。だから日本だけに頼る時代は終わった」という人も、「いやいや、なんだかんだ言って、日本で稼ぐ構造は全然変わっていない」という人もいます。共に、信頼に値する親しい知人なのですが、立場によってまちまちなのか、あるいは、それぞれポジショントークが含まれているのか…?

 

本当にずっと気になっていましたので、今回はIFPI(国際レコード産業連盟)の年次レポート、韓国関税庁の輸出統計、Luminate(旧MRC Data)のデータ、各社のIR資料、Oricon年間ランキングを軸に、「K-POPが各地域でどのくらいの存在感を持っているのか」を客観的に確認してみようと思います。


グローバル音楽市場の大きさとK-POPの立ち位置


まず全体感から入ります。

2024年の世界のレコード音楽市場は296億ドル(IFPI)です。その中で北米(米国+カナダ)は約40%日本は世界2位の市場として全体の約8〜9%を占めています。韓国は世界7位の音楽市場です。

この中でK-POPはどこに位置するのか。

 

IFPIの2024年グローバルアルバムセールスチャートではトップ20のうち、17作品が韓国のアーティストによるものでした。2023年は19作品とほぼ独占状態です。フィジカルCD販売における存在感は、数字だけ見ると圧倒的です。

ただし、重要な前提があります。これは「アルバムを何枚〜何百枚でも買う献身的なファンがいる」というK-POP特有の購買行動が、フィジカルランキングを歪めている側面があります。グローバルなアルバムチャートにおけるK-POPの見かけ上の強さと、実際の音楽消費に占めるシェアは別の話です。

 

一方でLuminateの2025年年次レポートによれば、音楽輸出力ランキングでは韓国は世界4位(米国、英国、カナダに次ぐ)に位置し、英語圏以外の最大の輸出国となっています。これはK-POPが「一時的なブーム」ではなく、長期的な文化輸出産業として定着していることを示す、信頼性の高い指標です。


チャートの数字は、どこまで信用できるか


別の話に入る前に、また一つ、前置きしておく必要があります。「K-POPのチャートの数字」には、複数の経路で盛られている可能性があるという話です。

 

一つは、業者による不正操作です。

 

ブラジルのサンパウロ司法当局がIFPI(国際レコード産業連盟)等と連携して展開した「Operation Authêntica(オーセンティカ作戦)」は、ストリーミング操作業者を次々に摘発しました。

 

2025年7月の「Seguidores」への有罪判決を皮切りに、「TurbineDigital」「Boom de Seguidores」とドメイン封鎖・罰金が相次いで命じられています。K-POP関連の偽装アカウント売買や再生回数稼ぎを謳う業者も、その中に含まれていました。

ボットや自動生成プログラムを用いて24時間フェイクストリーミングを発生させるこれらの業者は、ビルボードをはじめとするグローバルチャートの数字を根本から歪める存在です。

 

もう一つは、ファンダム側の熱狂的な活動です。

 

こちらは悪意というより「応援文化」の延長ですが、結果としてチャートを押し上げる効果は同じです。

 

ランダムフォトカードやファンサイン会の応募権を目的に、一人のファンが同じアルバムを数十枚〜数百枚購入する「複数形態買い」は、近年の「初動ミリオン」連発の最大の牽引役です。

 

ただし、これは「リスナー数」ではなく「コアファンの購買力」を示しているに過ぎません。デジタル領域でも、複数デバイスで楽曲をミュート再生し続ける「ストリーミング総攻撃」が日常化しており、VPNで所在地を偽装するケースも報告されています。

 

 

 

結果として、チャートや販売枚数の数字は「その音楽がどれだけ広く聴かれているか」よりも「コアファンがどれだけお金と時間を注いでいるか」に連動しています。以降で出てくる数字は、この前提を頭に置いたうえで読むことをお勧めします。


北米市場:K-POPの「存在感」の実態


「北米でK-POPは稼げている」のは本当です。ただし、北米の音楽市場全体の中での位置づけを確認してから語る必要があります。

 

世界のK-POP消費量(YouTubeデータ等を基準とした指標)の国別シェアを見ると、米国は世界4位で6.25%です(K-Pop Radar × KOCCA、2025年)。1〜3位は韓国、日本、インドネシアです。

 

米国の音楽市場の規模は単年で約98.6億ドル(Luminate、2024年)。ここに対してK-POPのCD輸出額は約6400万ドル(2024年、韓国関税庁)と、それだけで見ると1%以下の規模です。コンサート収入やストリーミングを加えても、K-POPは米国の音楽市場全体では「規模の大きなニッチ」という位置づけです。

 

とはいえ、そのニッチの「濃度」は際立っています。

 

Stray Kids「dominATE World Tour」は、2024年8月〜2025年7月に54公演で約2.15億チケット、総収益約2.6億ドルを記録し、K-POPツアー史上最大規模となりました。このうち北米13公演で約7620万ドルを売り上げ、K-POPアクトとしての北米ツアー歴代最高を更新しています。j-hopeは韓国ソロアーティストとして初めて北米のスタジアムで公演しました。

 

ただし、米国の音楽コンサート市場全体の規模は2024年で280億ドル超(IFPI)です。K-POPのツアー収益の合計が数百億円規模であっても、巨大な米国エンタメ市場の中では限られたシェアです。「Spotifyのグローバルトップ50のうち66%は米国アーティスト」(Soundcharts、2024年末時点)という数字も、米国市場でのK-POPのストリーミングでの存在感の微妙さを示しています。


日本市場:規模と密度が両立する、構造的に異なる市場


それと引き換え、日本のほうは、K-POPが本当の意味で「市場に食い込んでいる」狩場です。

 

K-POP YouTubeの世界消費量に占める日本のシェアは8.54%(2024年)で、米国の6.25%を上回っています。韓国関税庁の2024年データでは、K-POP CDの輸出先1位は日本で約8980万ドル。米国(6030万ドル)を約1.5倍近く上回ります。

 

公演規模も別次元です。日産スタジアム(約7.5万人収容)での東方神起2日間13万人動員(2026年4月)、aespaの京セラドーム+東京ドームで17万人、TWICEの国立競技場3日間24万人。これらは「韓国から近い」という地理的条件もあって、運営コストが北米と比べて格段に低い状態で実現されています。


冷静に考えて、日本国内でK-POPはどのくらい人気なのか


「日本ではK-POPが人気」というのは事実ですが、もう少し細かく見ておく必要があります。

Oriconの2024年年間アルバムランキングを見ても、1〜3位は国内アーティストが独占するも、フィジカルアルバム市場では、K-POPは一定以上の存在感を持っていることがわかります。

ただし、ここが重要な「ただし」です。

 

「日本の年間ストリーミングチャートのトップに、K-POPの楽曲は一曲もない」(The Idol Cast、2024年データ分析)

日本の音楽市場全体の収益でいうと、ライブ・録音収入の90%超は依然として国内アーティストが生み出しています。日本は外国音楽への関与率がアジアで最も低い部類の市場であり、英語圏の音楽ですらストリーミングシェアの10%未満です。K-POP専用のYouTube視聴数は2024年に49.5億回と増えているものの、2025年の第3四半期は前年比でわずかに減少に転じており、成熟のサインが出始めています。

 

つまり日本市場における「K-POPのポジション」は、こう整理できます。

  • フィジカル(CD)市場では約30〜35%を占め、特定週には国内アーティストと互角か、それ以上になる

  • ストリーミング市場では事実上ほぼ存在感なし

  • 国内の音楽収益全体(ライブ含む)では、依然として10%未満とみられる

  • ただし「コアファンが高額消費する」モデルとして、収益効率は際立って高い

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フィジカルランキングだけを見て「日本市場はK-POPに支配されている」と読むのは、日本市場ではAKB商法としてお馴染みの、韓国と共通するファン購買行動(複数枚買い、コレクター的購買)を一般のリスナー数と混同していることになります。K-POPの日本市場は「小さいが深い」市場です。


K-POP CD輸出データで見る「地域の重さ」

 

韓国関税庁が公表している2024年および2025年の輸出データは、客観的な手がかりになります。

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2024年実績(関税庁・Music Business Worldwide)

輸出先
金額
構成比(3カ国合計中)
日本
8,980万ドル
約43%
米国
6,030万ドル
約29%
中国
5,980万ドル
約28%

 

この3カ国で全輸出額の約72.8%を占めています。

 

2025年実績(韓国関税庁)

輸出先
金額
前年比
日本
8,062万ドル
−10.2%
中国
6,972万ドル
+16.6%
米国
6,397万ドル

 

2025年は中国が米国を抜き2位に浮上しました。「限韓令」の緩和ムードと中国のファン共同購入コミュニティの再活性化が背景にあります。

日本は減少傾向ですが、断トツの1位を維持しています。


企業財務から見る「どこで稼いでいるか」


各社のIR資料から、各地域の収益への貢献度がわかります

JYPの2025年Q2決算(Billboard報道)では、売上の地域別内訳はこうなっています。

  • 韓国:36%

  • 日本:21%

  • 中国:2%

  • その他世界(北米・欧州含む):41%

この「その他世界41%」は北米ツアーに引っ張られた数字ですが、欧州・東南アジア・オセアニアも含まれており、北米単独の比率ではありません。また、これは「売上」の話です。

 

HYBEの2025年通期では、売上2.65兆ウォン(過去最高)に対して営業利益が499億ウォン(前年比72.9%減、利益率1.86%)、当期純損益は2,543億ウォンの赤字でした。HYBE AMERICAの再編に伴う約2,000億ウォンの減損損失と、北米での新規アーティスト投資が主な要因です。

 

同じ期間に、日本に深く根ざしているJYPは営業利益率約18.8%を維持しました。

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「韓国の売上」はどれだけ実態より大きく見えているか

 

ここで、またしても一つ、数字を読む前提として知っておきたいことがあります。

 

K-POP企業の「韓国国内売上」として報告される数字を見ると、逆に、実態は内需中心で、世界展開の成功には程遠過ぎるビッグマウスにも見えますが、実際には、その中には海外からの購買も相当数含まれているとみられます。

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仕組みはこうです。北米や欧州のファンがWeverse Shop等の直販サイトで注文する際、転送業者(Delivered Korea、MyKoreaBox等)の韓国国内倉庫を配送先に指定します。業者がまとめて国際発送する。チャート集計システムからすると、この注文はすべて「韓国内の住所への発送」として処理されるため、統計上は「韓国内需」として計上されます。

 

HYBEは2022年の半期開示で、売上構成を「国内24.96%、オンライン(場所特定困難)41.44%、海外33%程度」と説明し、「オンライン売上の大部分は海外市場からと推定される」と自ら明言しています。

 

つまり、「国内」の24.96%に加えて、「オンライン」の41.44%のうち相当部分(仮に70%とすると約29%)も実質的には海外需要です。あわせると、見かけ上の「国内売上」の半分超が、転送サービスや越境購買による海外ファンの購買である可能性があります。

これを輸出統計で粗くクロスチェックすると、韓国関税庁が把握するCD輸出額(2025年約3億174万ドル)は「通関を伴う正規の輸出」だけの数字です。

 

転送サービス経由の購買はこの輸出統計に入りません。つまり、関税庁の輸出数字はK-POPのグローバル需要を著しく低く見積もっており、「韓国内需」の数字はその分だけ過大に見えているわけです。

 

補正の試算(推定):仮に「韓国内需」として計上されている数字のうち30〜40%が転送サービス経由の海外購買だとすると、真の韓国国内需要は報告値の60〜70%程度に縮小します。


なぜ北米は「稼いでいる」のに利益が残りにくいか


米国のコンサートチケット単価はダイナミックプライシングの影響でプレミアム席が700〜1000ドルに達します。日本のVIP席(約45,000円・約292ドル)と比べると3倍以上の単価差があります。

 

ただし、その売上を得るためのコストがめちゃ掛かるのです。

 

太平洋を越えた機材輸送費、数十〜百人規模スタッフの国際航空券、高騰している米国就労ビザ(P-1ビザ等)の取得費用、インフレが進む現地でのホテル・食費、強力な労働組合を背景にした現地スタッフの高い人件費。韓国からMDを輸入する場合の関税と輸送費。これらが積み重なります。

 

中小規模のグループにとっては、北米ツアーは採算を度外視した「グローバルプロモーション」として実施されるケースも少なくありません。

 

では、なぜ各社がこれほどのコストをかけて北米に注力するか。ビルボードランクインや米国スタジアム公演の実績が、アーティストのIP価値とグローバルブランド力を高め、それがスポンサーシップ単価やライセンス収益に波及するからです。北米は「ブランド構築の場」であり、その価値を日本やアジアで利益として回収するという両輪になっています。


中国という「次の変数」


2024年の中国向けK-POPアルバム輸出は前年比76.4%増と急伸し、2025年には米国を抜いて2位になりました。

消費市場としてのポテンシャルは大きく、輸送コストが低いアジア圏内という地理的メリットもある。もし、公演が本格的に自由化されれば、日本と並ぶ、いや、それ以上の「利益回収の場」になる可能性があります。


整理すると、こういうことになります


データを並べると、いくつかのことが見えてきます。

 

北米はK-POPにとって「大きなチケット収入が得られる市場」ですが、米国の音楽市場全体(約98.6億ドル)における存在感は「規模の大きなニッチ」の域を出ていません。世界のK-POP消費量に占める米国のシェアは6.25%で、日本(8.54%)を下回っています。CDの輸出額でも米国は日本の約7割の水準です。

 

日本は「K-POPの実際の浸透率が最も高い海外市場」ですが、日本市場全体で見れば、ストリーミング市場でのシェアはほぼゼロに近く、ライブ・録音収入全体でも90%超は国内アーティストが占めます。K-POPが強いのは「フィジカルと大型公演」という限られたセグメントです。熱量は高く収益効率も良いが、「日本市場で支配的なポジション」などは、全くの言い過ぎです。

 

「韓国の売上が大きく見える」のは、転送サービス経由の海外購買が韓国内需として計上されているためもあり、HYBE自身のデータを読めば、見かけ上の国内売上のそれなりの部分が実質的には海外ファンの購買です。

 

「北米で稼いでいる」のは数字の上では本当ですが、「だから、日本は重要でなくなった」には全然ならない。それどころか、HYBEの2025年決算(売上最高・利益73%減・純赤字2,543億ウォン)は、北米投資のコストが利益をどう圧迫するかを如実に表しています。

 

「K-POPのグローバル展開」を語るとき、「存在感の絶対額」と「市場に占める浸透率」と「コスト控除後の利益率」と「データの集計上のバイアス」は、それぞれ別の指標です。この4つを混ぜないで、独立して見ることが、この産業を読む上での最初の前提だと思います。

それでは、また!

突然ですが、こんなこと思ったことありませんか。

 

「こういうゲームがあったら面白いのに」って、なんとなく頭の中でイメージしたこと。

 

でも「プログラミングなんてわからないし」と、そのままにしてしまった経験。

 

それが、もうすぐ過去の話になるかもしれません。

 

 

 

「話しかけるだけ」でゲームが生まれる

2026年5月、AIゲームプラットフォーム「Astrocade(アストロケード)」が世界で注目を集めています。

 

スタンフォード大学の著名な教授が共同創業したこのサービス、Google・NVIDIA・Sequoia Capitalといった錚々たる顔ぶれから約87億円の出資を受けました。

 

何がそんなにすごいのか。

 

簡単に言うと、スマホに向かってこう話しかけるだけです。

「ネオンカラーの街でスケボーに乗った猫がピザを集めるゲームを作って。BGMはローファイ・ヒップホップで」

 

数秒後には、背景も、キャラクターの動きも、効果音も、すべて自動で生成されて画面に出現します。

 

プログラミングの知識はゼロで大丈夫。コードを一行も書く必要はありません。

 

 

 

子どもたちはもう、「作れない」とは思っていない

今の子どもたち(2010年代以降生まれの「アルファ世代」)は、生まれた頃からiPadを当たり前に使い、AIアシスタントに話しかけてきた世代です。

 

「頭の中にあるものを、すぐに形にできて当然」という感覚を最初から持っている。

 

その世代にとって、Roblox(世界的に人気のゲームプラットフォーム)で、ゲームを作るために何ヶ月もプログラミング言語を勉強するのは、正直ピンとこない話なんだと思います。

Astrocadeはその「学ばなきゃいけない壁」をそっくり取り除いてしまいました。

 

だからこそ、次の世代のクリエイターたちが一気に流れ込んできている。

 

TikTokの「眺めるだけ」から、「参加して遊ぶ」へ

もうひとつ、個人的に面白いと思っている変化があります。

 

電車の待ち時間や、ちょっとした休憩のすきまに、TikTokを無意識にスクロールしている。そういう経験、みなさんもあると思います。

 

Astrocadeが狙っているのは、まさにその「数分間」です。

他の人が作った不思議なミニゲームをさっとプレイして、スコアを比べて、面白いシーンを友達に送る。飽きたら次のゲームへ。

 

動画を「見るだけ」だったものが、「参加して遊ぶ」体験に変わる。

 

しかもゲームは誰でも作れるので、SNSで話題になったことがすぐゲームのお題になったりする。そのスピード感は、TikTokのトレンドの回転より速いかもしれません。

 

意外なことに、ハマっているのは20〜40代の女性が多い

Astrocadeのデータで、ちょっと驚く話があります。

 

主要なユーザー層が、20代から40代の女性に大きく偏っているというのです。

 

これまでのゲームって、どちらかというと「敵を倒す」「ランキングで上を目指す」という競争ベースのものが多かった。それが得意じゃない、あるいはそもそも興味がわかなかった方も多いと思います。

 

でも、Astrocadeで作られているゲームは少し違います。

 

淡い色の森をただ散歩して植物を集めるゲーム。カフェのマスターになって、来店した動物の悩みを聞いてあげるゲーム。日常のタスクを心地よい音とともにこなすリラックス系コンテンツ。(任天堂も注目している領域ですね。)

 

勝ち負けがなくていい。ただ心地よく過ごせればいい。そういうゲームが、これまでほとんど作られてこなかったのは、作る側の顔ぶれが偏っていたからかもしれません。

 

技術の壁がなくなると、感性やストーリーテリングの才能を持つ人たちが一気に参加できるようになる。そのことを、このデータは示している気がします。

 

 

 

「ゲームが作れる時代」に変わること

スマホのカメラとSNSが普及したとき、写真を撮って公開する人口は爆発的に増えました。プロとアマの境界が曖昧になって、新しい表現のスタイルが次々と生まれた。

 

同じことが、ゲームの世界でも起ころうとしています。

 

グラフィックが綺麗かどうか、操作性が優れているかどうか、そういう技術的な差は意味を持ちにくくなります。問われるのは、何を作りたいか、誰に届けたいか、という発想の部分です。

 

ゲームを「語りかけるだけで作れる」時代に、クリエイターに求められるのは技術力ではなく、想像力と感性になっていきそうです。 

 

そう考えると、これはゲームだけの話ではないな、と思います。エンターテインメント全体が、作る人と遊ぶ人の距離を縮める方向に動いているのかもしれません。

 

 本日もお読みいただきありがとうございました。

 

「ロブロックスって、子どもがやるゲームじゃないの?」

 

そう思っている方は、少し驚くかもしれません。2026年現在、Robloxは世界で1億5,150万人が毎日使うプラットフォームになっています。1四半期の総プレイ時間は400億時間。NetflixやYouTubeと同じ土俵で「人の時間を奪い合う」存在として、すでに名前が挙がる規模です。

 

 

 

しかも、成長を引っ張っているのは小学生ではありません。

 


ユーザーが、大人になってきた

アメリカでは18〜34歳のユーザーが前年比50%以上増えています。年齢が上がるほど課金率も高くなるため、プラットフォーム側も大人向けコンテンツの開発者に収益分配率を引き上げるなど、意図的に大人の取り込みを進めています。

 

若い層の行動パターンも変わってきました。何十時間もかけてクリアする大作ゲームより、数分〜数十分の短い体験を友人と共有する、バイラル性の高いコンテンツが圧倒的に強い。「ブレインロット」と呼ばれる、刺激が強くて次々と消費されるコンテンツ文化が定着しているためです。

 

丁寧に作り込むよりも、コミュニティの熱量を読む力が問われる市場になっています。

 

 

 

 


一度、大きな嵐が来た

ここまで順調に聞こえますが、2025年後半から2026年にかけて、Robloxは厳しい局面を迎えました。

 

投資調査会社が「子どもの安全対策が不十分だ」と指摘するレポートを公表し、アメリカの郡が不公正な商慣行として提訴するという事態が重なりました。対応として、AIによるリアルタイムのコンテンツ監視や年齢確認の強化が一気に導入され、対応できなかった数百万の小規模コンテンツがプレイ不可能になりました。

 

2026年5月の決算では株価も一時下がっています。

 

 

ただ、少し長い目で見ると話が変わります。無秩序だったプラットフォームが整理されたことで、大手ブランドや機関投資家が「安心して使える場所」として認識し始めたからです。短期の痛みが、中長期の信用獲得につながる、そういう転換点だったと見ています。

 


「IPを守る」から「IPで稼ぐ」へ

エンタメ業界にとって、いちばん大きな変化はここかもしれません。

 

これまでRobloxには、日本のアニメやゲームを無断で模倣したファンゲームが大量に存在していました。権利者側は削除要請を繰り返すしかなく、それがファンコミュニティとの摩擦を生むというジレンマを抱えていました。

 

そのルールが変わりました。IP保有者がプラットフォームに自分の権利を登録し、世界中のクリエイターに「公式に使っていいよ」と許可できる仕組みが整ったのです。収益はシステムが自動で分配し、ロイヤリティ率は自分で決められます。法務コストをほぼかけずに、世界中のクリエイターの創造力を収益に変えられる、ということです。

 

 

 

 

日本でも電通グループ講談社が動いています。既存のIPをRobloxで展開するだけでなく、プラットフォームから生まれたオリジナルIPを漫画やアニメとして逆輸入するという、双方向のサイクルが始まっています。

 


「買う」という行動が、ゲームの中で起きている

もうひとつ、見逃せないデータがあります。

 

2026年の調査によれば、Z世代がRoblox上で行った購買行動は前年比54%増。同じ時期のTikTokの成長率が10%だったことを考えると、この差はかなり大きいです。

 

なぜそうなるかというと、仮想空間でのブランド体験が現実の購買意欲に直結しているからです。アバターにデジタルの服を着せてみて、気に入ったら現実の商品を買う——Z世代の88%が「実物を買う前に仮想空間で試している」と回答しており、購買の起点そのものが変わってきています。

 

資本の動きも変わっています。アメリカでは有名ベンチャーキャピタルの出資を受けたスタートアップが小規模ゲームを次々と買収し、大手ブランドとのタイアップを実現させています。個人クリエイターの手作り市場から、大きなパブリッシャーが仕切る市場へ——そういうフェーズに入りました。

 

日本でも、野田慶多代表率いる株式会社EbuActionが、たまごっちやアサヒ飲料といった国内IPのRobloxゲーム化を手がけ、日経クロストレンド「未来の市場をつくる100社 2026年版」に選ばれています。この領域を最も早く耕している国内プレイヤーのひとつです。

 


TikTokとRoblox、どっちを優先すべきか

「Z世代向けならTikTok」という判断は、今でも完全に間違いとは言えません。認知を広げるスピードという点では、まだTikTokに軍配が上がります。

 

ただ、「知ってもらう」「体験して欲しくなる」は、別の話です。

 

TikTokで流れてくる動画を受け身で見るのと、Roblox上でブランドの世界観に自分から入り込んで遊ぶのとでは、購買意欲との結びつき方が根本的に違います。前述の数字(54% vs 10%)は、その差をはっきり示しています。

 

「何のための施策か」を先に決めること——認知拡大ならTikTok、体験・購買転換ならRoblox、という役割分担を整理した上で予算を配分するのが、今求められている判断です。


ひとつだけ、気になること

「コンプライアンスが整ったRobloxは中長期的に有望」という読みは、おそらく正しい方向です。ただし、これはあくまで仮説です。

 

安全規制の強化がユーザー体験の制約として長引けば、熱量の高いユーザーが別のプラットフォームに移る可能性もゼロではありません。

 

楽観的なシナリオだけを前提にせず、「そのシナリオが崩れたらどうするか」も事前に考えておくことが、今の時点ではちょっと必要かなと思っています。

 

あんまり天気がいいものだから、バイトで集まってもらった学生たちの前で、「いやー、おれっちの若い時分は、こんな日には、カーステレオでユーミンの曲でもかけて、海岸をドライブとかしてたものよ」などと軽口を叩いたら、

 

「うわー、時代を感じますねー」「え?ひょっとして昭和ですか?」みたいな、ウケたのか、ディスられたのかわからないリアクションが返ってきたが、ひとり、なんとなく、作り笑いを浮かべながらも、やや怪訝な表情にみえる女性がいて、気にはなっていた。

 

 

 

 

あとで、僕がひとりのところにやってきて、「すみません。どうしても気になっちゃいまして。。ドライブで聴いていたのは、この曲ってことはないですよね?聞き違いですよね??」

と告げた彼女のスマホから流れてきたのは、名曲「ねえ!ムーミン(ムーミンのテーマ)」であった。

 

 

滑舌も悪かったろうが、そもそも、ユーミン(=松任谷由実)が、パッと出てこない世代も現れたのか?と反省しつつ、

恥ずかしさを紛らわすため、とっさに、今は亡き岸田今日子さんの声色で、「違うよ、ノンノン!」と戯けてみたが、小さく何かを呟いたまま、その場から去られてしまった。

週末の昼下がり、近所のマクドナルドの店内を眺めていると、ひとつのことに気づきました。

 

レジに並ぶ子供たちの目が、カウンター上のメニューボードではなく、ショーケースの中に飾られたおもちゃのほうへ向いているんです。「あれ、まだある?」と親の袖を引っ張る声。親のほうはもう半ば諦めたように財布を出している。

 

ハッピーセット、一丁あがり。

これ、ただの「子供が好きな食べ物」の話じゃないんですよね。


 

マクドナルドが、以前やっていたことを覚えている人は多いと思います。「ハンバーガー65円」。デフレの申し子みたいな価格戦略で、とにかく安さで人を呼ぶ時代がありました。でも今の店内を見ると、その面影はほとんどありません。

 

ポケモン、ちいかわ、ガンダム、『SPY×FAMILY』、『僕のヒーローアカデミア』。ハッピーセットのおもちゃは、そのときどきの子供文化の最前線を走っているIPばかりです。

 

価格で勝負するのをやめて、体験で勝負するようになった。

 

そういう言い方もできますが、もうひとつ、「今すぐ売れる商品」ではなく「将来ずっと選ばれる人間」を育てることに投資するようになった、とも思います。

 

日本マクドナルドの創業者の藤田田という人が、こんなことを言っていました。「人間は12歳までに食べてきたものを、一生食べ続ける」

 

最初に聞いたとき、少し大げさに聞こえました。でも、考えれば考えるほど、これはかなり本質をついた観察だと思うようになりました。

 

幼少期の「楽しかった記憶」は、大人になってもなかなか消えない。マクドナルドのあの赤と黄色のロゴを見ると、なんとなく気分が上がる、という人は少なくないはずです。それは味だけじゃなくて、子供の頃に感じたわくわくとセットで記憶されているからだと思うんです。

 

そしてその子供が親になると、今度は自分の子供を連れてくる。おもちゃをねだる我が子を見ながら、「自分もこうだったな」と思いながら財布を開く。

 

顧客が顧客を産み、世代をまたいでループしていく。マーケティング費用をかけずに、ファンが再生産され続ける仕組みです。

 


 

この話を、自分の得意分野、日本のエンターテインメント業界に重ねると、少し複雑な気持ちになります。

 

日本は本来、子供向けコンテンツの作り方を世界で一番よく知っている国のひとつだと思っています。

 

マリオ、ポケモン、ハローキティ…。

 

これらは今でも親子2世代、場合によっては3世代にわたって世界中で愛されています。

 

最初に「子供部屋」で生まれたものが、兆円規模のビジネスに育った例がいくつもあります。

 

 

 

ところが今、国内では少し違う流れが起きています。少子化を理由に、「子供向けコンテンツは市場が小さい」と判断した企業が、購買力のある大人向けへとリソースを移していっています。

 

テレビのゴールデンタイムからアニメや子供番組が消えていったのも、もう随分前のことです。0歳から4歳くらいの低年齢層に向けた、生活習慣や情緒の土台を作るような国産コンテンツが、今ほとんどありません。

 

アンパンマンがひとりで何十年も踏ん張っている状況で、次の世代のスタンダードが育っていない。

 

その空白に、海外のコンテンツが入ってきています。

韓国発の『Baby Shark』、イギリスのMoonbug Entertainmentが手がける『Cocomelon』。これらはYouTubeやNetflixを通じて、言語の壁をほぼ感じさせないまま、日本の子供たちの日常に入り込んでいます。

 

制作側は発達心理学とデータサイエンスを組み合わせて、「何歳の子が何分見続けるか」を徹底的に検証しながらコンテンツを量産しています。最初から世界展開を前提にしているので、日本市場はそのルートのひとつにすぎない。

 

今の日本の子供たちが、最初に強い愛着を感じる体験が、海外のプラットフォームと海外のキャラクターになりつつあります。

 

それはつまり、日本企業は将来の顧客としてのLTV(顧客生涯価値)の源泉を、気づかないまま手放し始めているということでもあります。

 

  パウパトロール人気も日本でもすっかり定着しましたね。
       (公式サイト https://pawpatrol.jp/ )


 

ただ、悲観だけで終わる話でもないと思っています。

 

日本には今もクリエイティブの蓄積があります。キャラクタービジネスのノウハウも、情緒に訴えるストーリーテリングの技術も、世界水準で通用するものがある。

 

少子化は国内市場の縮小を意味しますが、世界に目を向ければ子供の数は増えています。最初からグローバルを前提にしたフォーマットで、幼児向けコンテンツを作り直す余地はまだあるはずです。

 

マクドナルドが教えてくれているのは、「今すぐ買える人」だけを見ていると、数十年後の顧客基盤が細っていく、ということです。

 

感受性の強い幼い時期に、楽しくて、安心できて、また会いたくなるような体験を提供する。それが将来にわたって選ばれ続けることへの、一番長い近道なのかもしれません。

 

少子化という言葉に引っ張られて、子供向けを後回しにしていないか。エンタメに限らず、いろんな業界でそれぞれに考えてみる価値のある問いだと思っています。