週末の昼下がり、近所のマクドナルドの店内を眺めていると、ひとつのことに気づきました。
レジに並ぶ子供たちの目が、カウンター上のメニューボードではなく、ショーケースの中に飾られたおもちゃのほうへ向いているんです。「あれ、まだある?」と親の袖を引っ張る声。親のほうはもう半ば諦めたように財布を出している。
ハッピーセット、一丁あがり。
これ、ただの「子供が好きな食べ物」の話じゃないんですよね。
マクドナルドが、以前やっていたことを覚えている人は多いと思います。「ハンバーガー65円」。デフレの申し子みたいな価格戦略で、とにかく安さで人を呼ぶ時代がありました。でも今の店内を見ると、その面影はほとんどありません。
ポケモン、ちいかわ、ガンダム、『SPY×FAMILY』、『僕のヒーローアカデミア』。ハッピーセットのおもちゃは、そのときどきの子供文化の最前線を走っているIPばかりです。
価格で勝負するのをやめて、体験で勝負するようになった。
そういう言い方もできますが、もうひとつ、「今すぐ売れる商品」ではなく「将来ずっと選ばれる人間」を育てることに投資するようになった、とも思います。
日本マクドナルドの創業者の藤田田という人が、こんなことを言っていました。「人間は12歳までに食べてきたものを、一生食べ続ける」。
最初に聞いたとき、少し大げさに聞こえました。でも、考えれば考えるほど、これはかなり本質をついた観察だと思うようになりました。
幼少期の「楽しかった記憶」は、大人になってもなかなか消えない。マクドナルドのあの赤と黄色のロゴを見ると、なんとなく気分が上がる、という人は少なくないはずです。それは味だけじゃなくて、子供の頃に感じたわくわくとセットで記憶されているからだと思うんです。
そしてその子供が親になると、今度は自分の子供を連れてくる。おもちゃをねだる我が子を見ながら、「自分もこうだったな」と思いながら財布を開く。
顧客が顧客を産み、世代をまたいでループしていく。マーケティング費用をかけずに、ファンが再生産され続ける仕組みです。
この話を、自分の得意分野、日本のエンターテインメント業界に重ねると、少し複雑な気持ちになります。
日本は本来、子供向けコンテンツの作り方を世界で一番よく知っている国のひとつだと思っています。
マリオ、ポケモン、ハローキティ…。
これらは今でも親子2世代、場合によっては3世代にわたって世界中で愛されています。
最初に「子供部屋」で生まれたものが、兆円規模のビジネスに育った例がいくつもあります。
ところが今、国内では少し違う流れが起きています。少子化を理由に、「子供向けコンテンツは市場が小さい」と判断した企業が、購買力のある大人向けへとリソースを移していっています。
テレビのゴールデンタイムからアニメや子供番組が消えていったのも、もう随分前のことです。0歳から4歳くらいの低年齢層に向けた、生活習慣や情緒の土台を作るような国産コンテンツが、今ほとんどありません。
アンパンマンがひとりで何十年も踏ん張っている状況で、次の世代のスタンダードが育っていない。
その空白に、海外のコンテンツが入ってきています。
韓国発の『Baby Shark』、イギリスのMoonbug Entertainmentが手がける『Cocomelon』。これらはYouTubeやNetflixを通じて、言語の壁をほぼ感じさせないまま、日本の子供たちの日常に入り込んでいます。
制作側は発達心理学とデータサイエンスを組み合わせて、「何歳の子が何分見続けるか」を徹底的に検証しながらコンテンツを量産しています。最初から世界展開を前提にしているので、日本市場はそのルートのひとつにすぎない。
今の日本の子供たちが、最初に強い愛着を感じる体験が、海外のプラットフォームと海外のキャラクターになりつつあります。
それはつまり、日本企業は将来の顧客としてのLTV(顧客生涯価値)の源泉を、気づかないまま手放し始めているということでもあります。
パウパトロール人気も日本でもすっかり定着しましたね。
(公式サイト https://pawpatrol.jp/ )
ただ、悲観だけで終わる話でもないと思っています。
日本には今もクリエイティブの蓄積があります。キャラクタービジネスのノウハウも、情緒に訴えるストーリーテリングの技術も、世界水準で通用するものがある。
少子化は国内市場の縮小を意味しますが、世界に目を向ければ子供の数は増えています。最初からグローバルを前提にしたフォーマットで、幼児向けコンテンツを作り直す余地はまだあるはずです。
マクドナルドが教えてくれているのは、「今すぐ買える人」だけを見ていると、数十年後の顧客基盤が細っていく、ということです。
感受性の強い幼い時期に、楽しくて、安心できて、また会いたくなるような体験を提供する。それが将来にわたって選ばれ続けることへの、一番長い近道なのかもしれません。
少子化という言葉に引っ張られて、子供向けを後回しにしていないか。エンタメに限らず、いろんな業界でそれぞれに考えてみる価値のある問いだと思っています。



