テレビを見ていると、今や、K-POPは全世界を席巻している超一大ムーブメントだという話題がてんこ盛りです。
マーケティングの仕事をしているので、確かに日本の10代女子にも、K-POPスターが絶大な影響力を持っている事実もよく知っています。
ただし、僕の周りだけだと、母親が「冬ソナ」にハマって驚いた以降、それほどの大人気を間近には感じられた経験があまりなく、「紅白歌合戦」にも、あんなに他所の国の歌手をたくさん出演させる企画意図が、イマイチよくわからなかったりします。
さりとて、商売柄、実は日韓のK-POPビジネスのメインプレーヤーの皆様とも親交があり、いろいろお話する機会も多いのですが、正直、相手によって、「K-POPは北米でも世界でも稼げるようになった。だから日本だけに頼る時代は終わった」という人も、「いやいや、なんだかんだ言って、日本で稼ぐ構造は全然変わっていない」という人もいます。共に、信頼に値する親しい知人なのですが、立場によってまちまちなのか、あるいは、それぞれポジショントークが含まれているのか…?
本当にずっと気になっていましたので、今回はIFPI(国際レコード産業連盟)の年次レポート、韓国関税庁の輸出統計、Luminate(旧MRC Data)のデータ、各社のIR資料、Oricon年間ランキングを軸に、「K-POPが各地域でどのくらいの存在感を持っているのか」 を客観的に確認してみようと思います。
グローバル音楽市場の大きさとK-POPの立ち位置
まず全体感から入ります。
2024年の世界のレコード音楽市場は296億ドル(IFPI) です。その中で北米(米国+カナダ)は約40% 、日本は世界2位の市場として全体の約8〜9% を占めています。韓国は世界7位の音楽市場 です。
この中でK-POPはどこに位置するのか。
IFPIの2024年グローバルアルバムセールスチャートではトップ20のうち、17作品 が韓国のアーティストによるものでした。2023年は19作品とほぼ独占状態です。フィジカルCD販売における存在感は、数字だけ見ると圧倒的です。
ただし、重要な前提があります。これは「アルバムを何枚〜何百枚でも買う献身的なファンがいる」というK-POP特有の購買行動が、フィジカルランキングを歪めている側面があります。グローバルなアルバムチャートにおけるK-POPの見かけ上の強さと、実際の音楽消費に占めるシェアは別の話です。
一方でLuminateの2025年年次レポート によれば、音楽輸出力ランキングでは韓国は世界4位(米国、英国、カナダに次ぐ) に位置し、英語圏以外の最大の輸出国となっています。これはK-POPが「一時的なブーム」ではなく、長期的な文化輸出産業として定着していることを示す、信頼性の高い指標です。
チャートの数字は、どこまで信用できるか
別の話に入る前に、また一つ、前置きしておく必要があります。「K-POPのチャートの数字」には、複数の経路で盛られている可能性があるという話です。
一つは、業者による不正操作です。
ブラジルのサンパウロ司法当局がIFPI(国際レコード産業連盟)等と連携して展開した「Operation Authêntica(オーセンティカ作戦)」 は、ストリーミング操作業者を次々に摘発しました。
2025年7月の「Seguidores」への有罪判決を皮切りに、「TurbineDigital」「Boom de Seguidores」とドメイン封鎖・罰金が相次いで命じられています。K-POP関連の偽装アカウント売買や再生回数稼ぎを謳う業者も、その中に含まれていました。
ボットや自動生成プログラムを用いて24時間フェイクストリーミングを発生させるこれらの業者は、ビルボードをはじめとするグローバルチャートの数字を根本から歪める存在です。
もう一つは、ファンダム側の熱狂的な活動です。
こちらは悪意というより「応援文化」 の延長ですが、結果としてチャートを押し上げる効果は同じです。
ランダムフォトカードやファンサイン会の応募権を目的に、一人のファンが同じアルバムを数十枚〜数百枚購入する「複数形態買い」 は、近年の「初動ミリオン」連発の最大の牽引役です。
ただし、これは「リスナー数」ではなく「コアファンの購買力」を示しているに過ぎません。デジタル領域でも、複数デバイスで楽曲をミュート再生し続ける「ストリーミング総攻撃」 が日常化しており、VPNで所在地を偽装するケースも報告されています。
結果として、チャートや販売枚数の数字は「その音楽がどれだけ広く聴かれているか」よりも「コアファンがどれだけお金と時間を注いでいるか」に連動しています。以降で出てくる数字は、この前提を頭に置いたうえで読むことをお勧めします。
北米市場:K-POPの「存在感」の実態
「北米でK-POPは稼げている」のは本当です。ただし、北米の音楽市場全体の中での位置づけを確認してから語る必要があります。
世界のK-POP消費量(YouTubeデータ等を基準とした指標) の国別シェアを見ると、米国は世界4位で6.25% です(K-Pop Radar × KOCCA、2025年)。1〜3位は韓国、日本、インドネシア です。
米国の音楽市場 の規模は単年で約98.6億ドル(Luminate、2024年) 。ここに対してK-POPのCD輸出額は約6400万ドル(2024年、韓国関税庁) と、それだけで見ると1%以下 の規模です。コンサート収入やストリーミングを加えても、K-POPは米国の音楽市場全体では「規模の大きなニッチ」 という位置づけです。
とはいえ、そのニッチの「濃度」は際立っています。
Stray Kids の「dominATE World Tour」 は、2024年8月〜2025年7月に54公演で約2.15億チケット、総収益約2.6億ドルを記録し、K-POPツアー史上最大規模となりました。このうち北米13公演で約7620万ドルを売り上げ、K-POPアクトとしての北米ツアー歴代最高を更新しています。j-hope は韓国ソロアーティストとして初めて北米のスタジアムで公演しました。
ただし、米国の音楽コンサート市場全体の規模 は2024年で280億ドル超(IFPI) です。K-POPのツアー収益の合計が数百億円規模であっても、巨大な米国エンタメ市場の中では限られたシェアです。「Spotifyのグローバルトップ50のうち66%は米国アーティスト」(Soundcharts、2024年末時点) という数字も、米国市場でのK-POPのストリーミングでの存在感の微妙さを示しています。
日本市場:規模と密度が両立する、構造的に異なる市場
それと引き換え、日本のほうは、K-POPが本当の意味で「市場に食い込んでいる」狩場です。
K-POP YouTubeの世界消費量に占める日本のシェアは8.54% (2024年)で、米国の6.25% を上回っています。韓国関税庁 の2024年データでは、K-POP CDの輸出先1位は日本で約8980万ドル 。米国(6030万ドル)を約1.5倍近く上回ります。
公演規模も別次元です。日産スタジアム(約7.5万人収容)での東方神起 2日間13万人動員(2026年4月)、aespa の京セラドーム+東京ドームで17万人、TWICE の国立競技場3日間24万人。これらは「韓国から近い」という地理的条件もあって、運営コストが北米と比べて格段に低い状態で実現されています。
冷静に考えて、日本国内でK-POPはどのくらい人気なのか
「日本ではK-POPが人気」というのは事実ですが、もう少し細かく見ておく必要があります。
Oriconの2024年年間アルバムランキングを見ても、1〜3位は国内アーティストが独占するも、フィジカルアルバム市場では、K-POPは一定以上の存在感を持っていることがわかります。
ただし、ここが重要な「ただし」です。
「日本の年間ストリーミングチャートのトップに、K-POPの楽曲は一曲もない」(The Idol Cast、2024年データ分析)
日本の音楽市場全体の収益でいうと、ライブ・録音収入の90%超は依然として国内アーティストが生み出しています。日本は外国音楽への関与率がアジアで最も低い部類の市場であり、英語圏の音楽ですらストリーミングシェアの10%未満です。K-POP専用のYouTube視聴数は2024年に49.5億回と増えているものの、2025年の第3四半期は前年比でわずかに減少に転じており、成熟のサインが出始めています。
つまり日本市場における「K-POPのポジション」は、こう整理できます。
フィジカル(CD)市場では約30〜35%を占め、特定週には国内アーティストと互角か、それ以上になる
ストリーミング市場では事実上ほぼ存在感なし
国内の音楽収益全体(ライブ含む)では、依然として10%未満とみられる
ただし「コアファンが高額消費する」モデルとして、収益効率は際立って高い
フィジカルランキングだけを見て「日本市場はK-POPに支配されている」と読むのは、日本市場ではAKB商法 としてお馴染みの、韓国と共通するファン購買行動(複数枚買い、コレクター的購買)を一般のリスナー数と混同していることになります。K-POPの日本市場は「小さいが深い」 市場です。
K-POP CD輸出データで見る「地域の重さ」
韓国関税庁 が公表している2024年および2025年の輸出データ は、客観的な手がかりになります。
2024年実績(関税庁・Music Business Worldwide)
輸出先
金額
構成比(3カ国合計中)
日本
8,980万ドル
約43%
米国
6,030万ドル
約29%
中国
5,980万ドル
約28%
この3カ国で全輸出額の約72.8%を占めています。
2025年実績(韓国関税庁)
輸出先
金額
前年比
日本
8,062万ドル
−10.2%
中国
6,972万ドル
+16.6%
米国
6,397万ドル
2025年は中国が米国を抜き2位に浮上しました。「限韓令」 の緩和ムードと中国のファン共同購入コミュニティの再活性化が背景にあります。
日本は減少傾向ですが、断トツの1位を維持しています。
企業財務から見る「どこで稼いでいるか」
各社のIR資料から、各地域の収益への貢献度がわかります
JYP の2025年Q2決算(Billboard報道)では、売上の地域別内訳はこうなっています。
韓国:36%
日本:21%
中国:2%
その他世界(北米・欧州含む):41%
この「その他世界41%」は北米ツアーに引っ張られた数字ですが、欧州・東南アジア・オセアニアも含まれており、北米単独の比率ではありません。また、これは「売上」の話です。
HYBE の2025年通期では、売上2.65兆ウォン(過去最高)に対して営業利益が499億ウォン(前年比72.9%減、利益率1.86%)、当期純損益は2,543億ウォンの赤字でした。HYBE AMERICAの再編に伴う約2,000億ウォンの減損損失と、北米での新規アーティスト投資が主な要因です。
同じ期間に、日本に深く根ざしているJYPは営業利益率約18.8%を維持しました。
「韓国の売上」はどれだけ実態より大きく見えているか
ここで、またしても一つ、数字を読む前提として知っておきたいことがあります。
K-POP企業の「韓国国内売上」として報告される数字を見ると、逆に、実態は内需中心で、世界展開の成功には程遠過ぎるビッグマウスにも見えますが、実際には、その中には海外からの購買も相当数含まれているとみられます。
仕組みはこうです。北米や欧州のファンがWeverse Shop 等の直販サイトで注文する際、転送業者(Delivered Korea、MyKoreaBox等)の韓国国内倉庫を配送先に指定します。業者がまとめて国際発送する。チャート集計システムからすると、この注文はすべて「韓国内の住所への発送」として処理されるため、統計上は「韓国内需」 として計上されます。
HYBEは2022年の半期開示で、売上構成を「国内24.96%、オンライン(場所特定困難)41.44%、海外33%程度」と説明し、「オンライン売上の大部分は海外市場からと推定される」と自ら明言しています。
つまり、「国内」の24.96%に加えて、「オンライン」の41.44%のうち相当部分(仮に70%とすると約29%)も実質的には海外需要です。あわせると、見かけ上の「国内売上」の半分超が、転送サービスや越境購買による海外ファンの購買である可能性があります。
これを輸出統計で粗くクロスチェックすると、韓国関税庁が把握するCD輸出額(2025年約3億174万ドル)は「通関を伴う正規の輸出」だけの数字です。
転送サービス経由の購買はこの輸出統計に入りません。つまり、関税庁の輸出数字はK-POPのグローバル需要を著しく低く見積もっており、「韓国内需」の数字はその分だけ過大に見えているわけです。
補正の試算(推定): 仮に「韓国内需」として計上されている数字のうち30〜40%が転送サービス経由の海外購買だとすると、真の韓国国内需要は報告値の60〜70%程度に縮小します。
なぜ北米は「稼いでいる」のに利益が残りにくいか
米国のコンサートチケット単価はダイナミックプライシングの影響でプレミアム席が700〜1000ドルに達します。日本のVIP席(約45,000円・約292ドル)と比べると3倍以上 の単価差があります。
ただし、その売上を得るためのコストがめちゃ掛かるのです。
太平洋を越えた機材輸送費、数十〜百人規模スタッフの国際航空券、高騰している米国就労ビザ(P-1ビザ等)の取得費用、インフレが進む現地でのホテル・食費、強力な労働組合を背景にした現地スタッフの高い人件費。韓国からMDを輸入する場合の関税と輸送費。これらが積み重なります。
中小規模のグループにとっては、北米ツアーは採算を度外視した「グローバルプロモーション」 として実施されるケースも少なくありません。
では、なぜ各社がこれほどのコストをかけて北米に注力するか。ビルボードランクインや米国スタジアム公演の実績が、アーティストのIP価値とグローバルブランド力を高め、それがスポンサーシップ単価やライセンス収益に波及するからです。北米は「ブランド構築の場」 であり、その価値を日本やアジアで利益として回収するという両輪になっています。
中国という「次の変数」
2024年の中国向けK-POPアルバム輸出は前年比76.4%増 と急伸し、2025年には米国を抜いて2位になりました。
消費市場としてのポテンシャルは大きく、輸送コストが低いアジア圏内という地理的メリットもある。もし、公演が本格的に自由化されれば、日本と並ぶ、いや、それ以上の「利益回収の場」になる可能性があります。
整理すると、こういうことになります
データを並べると、いくつかのことが見えてきます。
北米はK-POPにとって「大きなチケット収入が得られる市場」ですが、米国の音楽市場全体(約98.6億ドル)における存在感は「規模の大きなニッチ」の域を出ていません。世界のK-POP消費量に占める米国のシェアは6.25%で、日本(8.54%)を下回っています。CDの輸出額でも米国は日本の約7割の水準です。
日本は「K-POPの実際の浸透率が最も高い海外市場」ですが、日本市場全体で見れば、ストリーミング市場でのシェアはほぼゼロに近く、ライブ・録音収入全体でも90%超は国内アーティストが占めます。K-POPが強いのは「フィジカルと大型公演」という限られたセグメントです。熱量は高く収益効率も良いが、「日本市場で支配的なポジション」などは、全くの言い過ぎです。
「韓国の売上が大きく見える」のは、転送サービス経由の海外購買が韓国内需として計上されているためもあり、HYBE自身のデータを読めば、見かけ上の国内売上のそれなりの部分が実質的には海外ファンの購買です。
「北米で稼いでいる」のは数字の上では本当ですが、「だから、日本は重要でなくなった」には全然ならない。それどころか、HYBEの2025年決算(売上最高・利益73%減・純赤字2,543億ウォン)は、北米投資のコストが利益をどう圧迫するかを如実に表しています。
「K-POPのグローバル展開」を語るとき、「存在感の絶対額」と「市場に占める浸透率」と「コスト控除後の利益率」と「データの集計上のバイアス」は、それぞれ別の指標 です。この4つを混ぜないで、独立して見ることが、この産業を読む上での最初の前提だと思います。
それでは、また!