やっぱり映画が好き -2ページ目

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

パレスチナのガザで実際に起きた出来事。銃撃で立ち往生する乗用車、乗っているのは6歳の少女ヒンド・ラジャブとその親類たち。そして救助に駆けつけた救急隊員2名、全員の命が犠牲になった。いずれも非道を繰り返すイスラエル軍の仕業である。この作品はパレスチナの人道支援組織 "パレスチナ赤新月社" に通報されたヒンド・ラジャブの音声を使ったドラマである。

 

パレスチナ人を迫害するイスラエル軍、ジェノサイドを否定する傍ら弱者の命を軽視する現状に私たちはどう対処できるのか。権力者の驕りを悲運だと諦めるのではなく、変えようと呼びかける小さな声を紡いでいく。今作の主題はそれをストレートに表現する。

 

イスラエル軍の大義名分はもはや見えてこない。明らかに戦争犯罪であり、その侵攻を非難すれば、反ユダヤ主義といったイデオロギーを打ち出して焦点をぼやかしてしまう。対話にならない交渉は、結論を見出すどころかこの紛争を永劫に続けていこうという地獄絵図を興じている。このような民族や宗教間の紛争、そして政治の不合理は無知や無関心という逃げ口上では解決しない。私たちが対峙する課題となる。

 

あんたがそんな御託を並べても成果はないじゃないか、と揶揄する人に申し上げる。こうして言葉を記すことが、抗う意志となって誰かに伝わる。その誰かがまた違う誰かに伝わる。次第に意志は時流となって社会を動かす力になる。デモ活動しかり、権力者は有権者が抗う声を恐れている。そしてヒンド・ラジャブの声はその力を秘めている。

 

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シングルマザーのシューフェンはふたりの娘を連れて台湾・台北の街に帰郷する。夜市で麺屋台を開業するかたわら "ある事情" を抱えて金策に走る。シューフェンの両親に世話になるも、次女のイージンが左利きと知った祖父から "左手を使うな、左手は悪魔の手だ" と注意される。戸惑うイージンは "ある行動" を引き起こしてしまう。

 

台湾・台北の夜市を駆け回るイージンが眩しく麗しい。その姿は次第に街の人びとに認知されて受け入れられていることに気づく。しかし親近者との間には壁がある。その壁を打ち砕きたい、終盤、長女・イーアンは断行する。それが世間で受け入れがたいイバラの道であっても…ここで私たちは気づく。イーアンもそういう意味で "左利き" の少女なのだ。生き方がうまくなくてもいいじゃないか。

 

今作のテーマは、私たちに社会の変化、伝統的家族観の打開を促していて、還暦パーティーで集う血縁者よりも夜市で働く仲間が本当の家族であると訴えてくる。ラスト場面、ダンスに興じるイージンの姿を見守るイーアン、そして厨房でステップを踏むシューフェンの後ろ姿が、ほんの少しだけ互いに認め合っていることに気づく。ほんの少し。それが社会に大切だと感じる。全く変わろうとしない昔気質は伝統の本質への理解不足である。

 

ツォウ・シーチン監督は、ショーン・ベイカー作品のプロデューサーとして活躍、今作が単独監督デビューとなる。夜市を彩るプラスチックの極彩色は、ショーン・ベイカーの過去作「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」にも通じる映像美となって見入ってしまう。そしてショーン・ベイカーが編集を担当している。彼の職人気質はここで遺憾無く発揮、おそらく利き手は自在なのだろう。

 

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第二次世界大戦のナチス占領下のベルギー。アントワープの街で青年ヴィルは警官に採用されるがナチス憲兵のサポートを余儀なくされる。ある晩ヴィルと相棒ロードはユダヤ人の強制連行を手伝うことになり、その理不尽な仕打ちを目の当たりにしたヴィルは突発的に憲兵を殺めてしまう。ヴィルはロードと共に、憲兵をマンホールの中に隠してしまうのだが…2023年製作。Netflixにて配信中。

 

戦争とは何か。民族や宗教、イデオロギーによる分断が加速すると排除や拘束、さらに殺戮が蔓延する。達成感や承認欲求は倫理を歪ませてしまい、正義が暴力とすり替わり人権を抑圧する。その愚行は国是と偽って声を荒げる人、マジョリティが主導する。今作はその惨状を醸成する権力を批判するとともに弱者やマイノリティの心の弱さにも焦点を当てていく。そう、あの時代が悪い、お上の言う通りにしただけ、と糾弾するだけでなく、その空気に流された自身の反省がなければ私たちは進歩しない。

 

8月はメディア報道で様々な戦争の考察を見聞きする。これを辛いから、暗いから、と言って避けてはいけない。世界中で災害も多発する中、困っている人びとの声を聞く姿勢は大切にしたい。この国の首相は "反省" という言葉を忌み嫌う "大変残念" な人なので、民の力が今まで以上に問われている。無関心でいると「ヴィル」に登場する市井の人びとのように時勢に呑まれ人権軽視に無頓着になる。ここから戦争犯罪へと繋がっていく。

 

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