「ハッピー・オールド・イヤー」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

北欧スウェーデンから東南アジアのタイに帰国した女性ジーンはミニマムなライフスタイルを目指して実家のリフォームを画策する。その家屋は現在はいない父親が経営していた音楽教室を兼ねていて楽器などモノが氾濫している。ジーンは兄や友人の協力を得て断捨離を決行するも方々から借りパクしていたモノが大量に出てきて対処に翻弄される。さらに一番大きく場所を占拠するピアノを母親は手放さないと抗議して親子関係は膠着する。果たしてジーンが目指すライフスタイルは成就するのか…2019年製作のタイ映画。Netflix、U-NEXT にて配信中。

 

断捨離がテーマとなっているので、こりゃ意識高い系の表層的なライフスタイルの羅列かと思いきや、その負の面となる主人公ジーンの家族や元カレの行き違いを主軸とする構成が巧い。部屋にあふれたモノを捨てる。しかし記憶や情は捨てることができるのか。捨てたい記憶、捨てられない記憶、クライマックスに起きる "捨てる行為" が物語の転換として、さらに "捨てられる行為" が物語の帰着へと迎える。この2段重ねが見事である。

 

人の心はミニマムにたどり着けない。ある意味それは全ての煩悩を捨て去った悟りの境地のようであり、そんな聖人君子になれるはずはなく、俗世間にどっぷり浸かり複雑な感情という手間がかかる不可解で不可欠な "働き" と付き合っている。時により喜び、忌み嫌い、悲しむ、人は多面性を帯びていて、善悪や相性で分断やジャッジは出来ない。気に入らなくても付き合っていく処遇は職場や学校内、さらに親類縁者にも当てはまる。モノは捨てても心は…記憶や情は捨てなくてもいいじゃないか。捨てない、抱えていく決意によって人は成長する。清濁あわせ呑む。空間をストイックにしても心は雑多で万物を受け入れる寛容な姿勢が素晴らしい。ラスト、ジーンの表情にその意が読み取れる。

 

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