「コット、はじまりの夏」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

アイルランドの田舎町、姉妹が大勢いる貧しい家族の中で9歳の少女コットだけ夏休みの期間親戚夫婦のもとで暮らすことになる。酪農を営んでいる親戚夫婦と最初は打ち解けないコットは、伯母が優しく接してくれる日々を経て次第に牛の世話をする伯父の手伝いをするようになるも、隣人の軽はずみな言動で夫婦の秘密を知ってしまう。

 

オーソドックスな少女の成長物語に映画的手法を詰め込んだ上質な作品。田舎で暮らす親戚夫婦のルーティン生活にカメラアングルを変えてとらえる情景を通してコットから見る世界の変化を描いている。さらに映像に無駄な説明が無く、見せないことで登場人物のリアクションや行動を表現している。わかりやすさは、時にその世界観を損ねてしまい凡庸なアンサーだけが取り残される。いわゆる固定観念だけが横行する物語は、単なる消費物として心に響くことはない。そうではない今作は周囲にいる人びとの心情がヒシと伝わってくる。

・水汲みバケツが台所に無いことに気づく伯母アイリン

・勝手に姿を消したコットを叱咤する伯父ショーン

いずれも夫婦の秘密と密接に繋がっていて、そこに過去の悔恨や悲しみが刻み込まれている。決して安易な回想シーンで説明しない。そこが巧いのだ。

 

伯父と伯母は自身の過去をつまびらかにしない。そこにはコットがまだ知り得ない大人の事情への畏怖もあり、子供ながらに大人に対する優しさを感じ取る人情がある。コットがどう対処していいのか分からないのは当然であり、言葉の選択もままならないもどかしさもある。そしてコットは最良の選択を渇望する。"より良い生活とは何か" を肌で感じ取り、大人の都合で手放したくない本能であろう。大人は風習や常識に落ち着こうとするが、子供は意志の疎通を最善とする。理屈じゃなく真心、そこに生きる価値がある。

 

奇をてらうのもいいが、正統派もまだまだ奥が深い。今作が長編デビューのコルム・パレード監督の動向に注目する。

 

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