「1917 命をかけた伝令」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

"全編ワンカット撮影" という宣伝コピーとこのポスター、二人の兵士が伝令を託されるという簡素な概略だけの予備知識だけで予告映像やネット情報を避けていました。期待する作品は毎回このような苦行を己に課す。この期間、映画館でも予告編がスクリーンに映し出されるとすかさず目を伏せて音声のみ。しかし

「はじまりへの旅」のジョージ・マッケイが出演してる、というこの画像が不覚にも目に飛び込んでくる。しかしこれ以外は不落の防御。それが良かった。列挙するのは野暮だが、イギリス有名or人気俳優がこれでもかと登場するので歓喜する。公式HPも見ないほうが面白さ無限大。

 

なんたってジョージ・マッケイがイイ。作戦中止の伝令を連隊に伝えるべく戦火の中を疾走する主人公を好演している。「はじまりへの旅」の長男役もイイ演技をしていた彼の活躍をもっと見たくなる。

 

物語はいたってシンプル。第一次世界大戦の最中、若き兵士二人が "作戦中止の伝令" を敵兵がいるかもしれぬ西部戦線を通って届ける任務を果たすこと、それも作戦決行の翌朝までというタイムリミットを背負いながら。このリミットという構成が全編ワンカットという表現方法と上手く料理されている。これはやったもん勝ち、まさにアイデアの勝利。しかし小手先では終わらない。どこまで続くのか分からない塹壕を闊歩したり、敵地へと踏み込んだその曲がり角の先にに何が待ち構えているのか分からない恐怖、そして屍体の上を這っていくおぞましさを兵士二人が被写体となって終始追いかけていく映像で私達も体感する。戦場という地獄絵図。これは劇場で観るべし。あまりに膨大な情報量がとめどなく迫ってくる。

 

ここからがっつりネタバレします。

 

主人公となる兵士二人、スコフィールドとブレイクの心情に触れると、ブレイクは戦線にいる兄を助けたいという決死の使命感が伝わってくるのだが、スコフィールドに関しては彼の背景が明確にされない。家族がいるのか?故郷へ戻りたくないのか?釈然としない様子なのだが、それは虚勢を張っているだけなのか。モヤっとしたままなのでラストに家族の写真が登場しても心に触れる琴線が弱い。もちろんわかる、この主題は "生き抜くこと"。戦争とは何か。"争い" からくる "勝利" や "勲章" は大切ではない、"名誉" よりも "命" がかけがえのないものだと。ならば彼の家族の話を吐露する場面がもう少しあってもいいのではないか。廃墟で身を隠す現地の女性と孤児に出会う場面はあれでいいかもしれないが、スコフィールドがあまりに寡黙なので顔の表情だけでは読み取れない過去をどこかで描いて欲しかった。

 

先日、ピーター・ジャクソン監督のドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」を鑑賞。これも第一次世界大戦を生き延びてきた元兵士達の数々の証言で構成されている。彼らは国家の為に戦地に向かったのではなく、その時代の空気が彼らの背中を押したのだ、もちろんそれを言葉にすることはない、できない。戦場に行きたくないという主張は社会から阻害されるかもという恐怖に繋がっていく。スコフィールドの心情がこれでわかる。本当は家族を愛していた離れたくなかった。彼もまた時世に飲み込まれてしまった一人の若者なのだ。

 

劇場で鑑賞していると、たまにある外国語がわかる外国人の笑うタイミングのズレ。今作も塹壕から抜け出す際に照明弾を渡す兵士(「フリーバッグ」の神父役アンドリュー・スコット)がスコフィールド達に言う台詞で大笑いしてた。何やらツボにハマるユーモアがあるんやろね。

メイキング映像も必見。これでもかと映画愛が詰まっている。観る者を圧倒させる映像を構築するには綿密な打ち合わせが必要だが、リハーサルで歩く秒数測ったり撮影プラン用のミニチュアそこまで精密に作る?と過剰な情熱がほとばしっている。そこまで彼らを突き動かす胸の内には "戦争経験者の言葉は語り継がねばならない" というメッセージが宿っている。"戦わねばならぬ" なんて権力者の妄言に過ぎない。

 

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