「リチャード・ジュエル」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

クリント・イーストウッド監督は過去 "贖罪" をテーマにした作品が多く、「インビクタス/負けざる者たち」以降 "許容" "人間賛歌" を題材にしている。今回はその "人間賛歌" へと導く "権力への不信" を訴えかける。

 

主人公リチャード・ジュエルは少々おつむが弱いし権力への憧れがハンパない。そんな彼がある事件を機にメディアを通じて英雄と持てはやされ、メディアスクープによって容疑者として糾弾される。冤罪の恐ろしさ。権力を過信している私達を含んだ世間にも疑問を呈する。決して対岸の火事ではない、身近な私達の生活に "見えざる暴力" が潜んでいる事を認識しなければならない。

 

私達はFBIの策略やメディアの暴力を受ける主人公リチャードに同情する。彼の弁護士ブライアント同様、無実を立証したい。横暴なる権力に抗いたい。しかし権力に弱い彼の言動に時折呆れてしまう。いつの間にか私達はリチャードを見下してしまうのだ。そこがいけないと物語は問う。社会から疎外された弱者にも人権はある、守るべきは弱者なのだと主張する。改心するのは権力側だけではない、クライマックス、隣人である私達も姿勢を正さねばならない事に気付く。沈黙よりも心の声を届かせるリチャードの凛凛しさに喝采。

 

クリント・イーストウッド監督はシンプルな描写で物語る。過激な暴力やCGといった添加物や調味料を使わない、食材の旨味を見事に引き出す包丁さばきによって観客を唸らせる。見事な職人技。物語が退屈しないのは遠景をあまり用いない撮影と編集の妙でその場の臨場感を巧みに表現している。これは実話モノを扱うようになってからのクリント・イーストウッド監督の特色。この作風が好きになるとクセになる。今年で御歳90、まだ新作つくれるのか生涯現役でいてほしい我儘な愛好家の一人である。

 

私はリチャード・ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザーを応援します。メタボ体型でカッコいいとは言い難い彼は「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」「ブラック・クランズマン」で何やらモノ食べながら喋る曲者を好演。YouTubeプレミアムのドラマシリーズ「Cobra Kai」シーズン2でもホームセンターの店員役でしっかと爪痕残している。今回主役に抜擢されたのは彼の演技が評価されている証拠、ファンとして嬉しい限り。次回作はスパイク・リー監督の新作や101匹わんちゃんの実写化「クルエラ(原題)」が待機している。有名怪優へと邁進してたもれ。

 

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ポール・ウォルター・ハウザーの怪演はこの作品の見どころ。誇大妄想キャラの真骨頂。

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