「ラストレター」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

広瀬すずの映える存在感で "そりゃ彼女を撮りたくなる" 業界評を理解できるし、森七菜の表情も豊かで印象深く主題歌もこなす彼女の才覚はズバ抜けている。それよりこの作品で特筆すべきは神木隆之介、撮影時25歳の高校生役はさすがに見ていられないだろう、と危惧していたがスクリーンに映る彼は高校生そのもの、目の動かし方や細かい所作によって見事に演じている神木隆之介だけでも観る価値はある。

 

岩井俊二監督はイケてない男子が好きなもの、少女、図書室、浴衣、ライカカメラ、生物部、路地裏、廃校、それらを巧みにストーリーに織り込んで構成する。しかし後ろ向きな姿勢がこの物語の欠点、ノスタルジーに浸るのを責めないが、ワンスアゲインとして最後は前を向く終幕であって欲しい。ラストシーンが冒頭へと戻るのはループ世界に入り込んでいる意図なのか、前作「リップヴァンウィンクルの花嫁」で描かれた疾走感が岩井俊二監督の新たなる世界観だと評価していただけに、今作の出口見えぬ囲われた自己完結へと帰着するのは危険な遊戯だと感じる。

 

終盤の美咲が娘・鮎美(広瀬すずの二役)に宛てた手紙の中身が卒業式の答辞文書というのはこちらも当惑する。それは鮎美にとって母親の知られざる過去であり母親の死の真相の暗喩としても解読出来ぬ代物、こんな難解なアプローチではなく、美咲はなぜ死を選択せねばならなかったのか、DVによって精神を蝕んでいたのならばそこをしっかりと描くべき。子供は "卒業式の答辞" なんて親の青春の遺物を露呈されてもリアクションに困る、出来るなら見たくない禁忌の域であろう。そして卒業=死を肯定するような現実逃避を看過してはならない、思考があまりにヌルい。

 

前半メインの松たか子演じる裕里と後半メインの福山雅治演じる乙坂鏡史郎、二人ともに行動がユルい。裕里は初恋の先輩と再会する、手紙という火遊びを繰り返す、なのに日常の束縛に愚痴は言うけど解放はされたくない打算的思考、乙坂はいつまでも昔の恋人を忘れる事が出来ない不甲斐なき彷徨中年、なんとも締まらない。そこに人間の愚かさ、夢と現実の揺らぎと訣別、何かを犠牲にする糧を人間賛歌へと導くのであれば納得できる。ただノスタルジアで完結するなと言いたい。

 

イケてない男子として "神木隆之介" は存在する。ならば数十年後に "福山雅治" に変貌する訳がない、おかしいじゃないか、イケてる中年じゃないか。普通に考えてみて昔の元カノと連絡取りたいから生徒名簿引っ張り出すのはかなりイタイ。しかしこれが "福山雅治" だから許せるのだ、イケてる奴の免罪符なのだ。イケてない奴ならばセクハラ・ストーカー行為へと転換する。これは弱者の嫉妬ではなく、己の都合でしか物語を構築していないナルシシズムへの苦言なのだ。断っておくが福山雅治はグッジョブ、神木隆之介演じるイケてない側に寄せた演技をしている。

 

そんな評価できない脚本なのに終始映像に魅入ってしまう。「リップヴァンウィンクルの花嫁」でも担当した撮影・神部千木の功績もあるが、岩井俊二の映像美は彼の映画愛(もしくは少女偏愛)がこれでもかと込められている。役者の演技力と相乗してスクリーンにのめり込ませる演出の才能があるのに、何故 "郷愁" にこだわるのか。好みの問題と言われるとそこで終了だが、是非とも次回は勇往邁進する物語を見たい。山田◯次監督のように過去のキャリアを切り崩す事するなかれ。

 

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「リップヴァンウィンクルの花嫁」

岩井俊二監督作品のこれはオススメ。迷走する主人公(黒木華)がひたむきに疾走する姿がラスト清々しい。終盤の遺骨届けるくだりは名場面。

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