「新聞記者」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

この物語には幾つかの実話を想起させるような内容がある。聞き慣れない役職、内閣情報調査室が登場する。限りなく実話モノというジャンルに迫る社会派サスペンスを製作したスタッフ・キャストの熱意がひしと伝わってくる。

 

しかし傑作と呼ばれる作品に不可欠なユーモアがない。笑いは日常の中に密着している。どれだけ不遇逆境においても滑稽な言動は垣間見える。リアリズムに迫るならばこの作品の演出は不自然、脚本としても "挿話の繰り返し" が多見される。主人公の新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)の過去、内閣情報調査室・杉原(松坂桃李)の妻の出産間近な日常、内調スタッフのSNS発信、望月衣塑子や前川喜平の討論番組、いずれも一回の描写で事足りる。要は "繰り返し" しなくても理解できるからもっといろんなネタ放り込んでくれ、と物語構成の弱さに物申す。

 

欲言うならば、記者・吉岡は単独で取材を敢行してもいいので最終局面に至る際に周りの同僚を巻き込むチームプレイを見せて欲しかった。陰に潜む官邸からの圧力が浮き彫りになる過程で何らかのユーモアさらにカタルシスを盛り込むことができたのではないか。そして権力側として政治家は一人も登場しない。内調の上司・多田(田中哲司)だけが敵対するキャラとして描かれる。彼もまた "トカゲの尻尾" だというオチもないので深遠なる恐怖へと辿り着けない。フィクションならば観客を楽しませるべき、真相に迫る記者達とそれを阻む内閣情報調査室との組織攻防、この構図に内包される問題提起が人々に伝播するかたちには成熟していない。そういう意味で故伊丹十三監督作品には後世に残る社会派傑作がある。やはり政治家を揶揄するのは痛快なのだ。マスメディアは決して規制・忖度をするべからず。

 

主演二人の演技はグッジョブ。私はシム・ウンギョンがお気に入り。主演ではないが「新感染 ファイナル・エクスプレス」の中で最初の感染者として登場する。

この感染(ゾンビ化)した動きが秀逸、恐怖そのものを体現している。これ大事、この描写がその後のストーリーに多大な貢献をもたらしている。決して子供は真似しないでね。ひょっとすると親が病院に通報…いや世間から虐待と誤解されるから監禁…それもハラスメントなのでやっぱり通報。世知辛いね。社会派サスペンスのネタ一つ整いました。

 

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