「日の名残り」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

いいなぁ。ジェームズ・アイヴォリー監督上手いなぁ。なんて当たり前じゃん、名匠じゃん、今更何言ってんだよ、と新年早々呆れられるつぶやきを許してください。午前十時の映画祭で名作を観るきっかけとなったのが、昨年の傑作「君の名前で僕を呼んで」の脚本を書いたアイヴォリーの過去作ということであり、人が人を好きになる心の機微を描くスタイルが好きなんです。決して激情しない。物とか壊さない。人を傷つけたりしない。しかし己と相手の心を掻きむしるほど悩ましていく。これだよ、恋愛というのは。とドーンと提示してくれる。「君の名前で僕を呼んで」と同じ主題がここにある。というか「モーリス」も同じ、アイヴォリー監督は様式が一貫している。さすが。

 

家庭を築く事よりも執事という仕事を全うする主人公スティーブンス。政治的な思想を背負う時代に巻き込まれていく主人や周りの要人には奥ゆかしさを保つことを美徳として、ほんの僅かに人間味ある行動を見せる。クライマックスのケントンとの再会は名場面。人は人生に華やかさを求めがちだが、それは角度を変えると当たり前の風景であり、そんな日常を大切にすることが良き人生なのだと訴えてくる。そして "たられば" なのだ。時間は巻き戻せない、しかし人を好きになるというのはこの "たられば" と背中合わせであり、それでも前を向く事が、残酷であり至福をもたらす人生の岐路としての恋愛なのだと語りかける。素直な言葉を口にできないスティーブンス、ちょっと虚勢を張ったりして注目されたいスティーブンス、口にした小さな嘘をすぐに訂正するスティーブンス、そして好意を寄せる女性に最後まで告白できなかった彼を誰が責めることができようか。いいなぁ、好きになることの素晴らしさがここにある。やはりジェームズ・アイヴォリー監督上手いなぁ。と二回同じ事言うてもうた。

 

欲言うならば、ラストの空撮はあまり好きではない。屋敷の中に迷い込んだ鳩を外へ放ち窓を閉めるスティーブンス、その場面は屋敷で一生を終えるであろう彼の選択、閉じ込められた人生、閉じこもる自我、それを暗喩として成立させている。然るにこの時点で暗幕でいいのではなかろうか。それをもっとわかりやすく表現するための "屋敷から次第に離れていく空撮" なのだろうが、私は要らぬ、ありきたりで面白くないカットだと考える。

 

映画好きならば主演のアンソニー・ホプキンスといえばすぐさまレクター博士を連想するだろう。かくいう私も暗がりの中のアンソニー・ホプキンスを見るとちょっと怖いのだ。潜在意識恐るべし。先入観はいかん、主人公スティーブンスはそんな人じゃありません。午前十時の映画祭でこの名作はまだ上映しているので是非ともご覧あれ。やはりスクリーンで堪能してほしいと願う映画好き。やっぱり映画が好き。今年もよろしくお願いします。

 

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うあああ!午前十時の映画祭終わっとるやんけ!と機会を逃した映画好きにも是非とも観てほしいので、何らかの手段を講じてください。一から十まで言いません。

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うおおお!感動した!原作も読みたいやんけ!と勢いづいたヨメを扇動するに加えて寝静まった頃に念押しで祈祷します。これも愛情の裏返し。

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