「バリー・シール アメリカをはめた男」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

表と裏。A面とB面。トム・クルーズが演じる役柄においては「ミッション・インポッシブル」に代表される "マッチョな身体で魅せるわスタントもやりまっせ" ヒーローは前者、一方「マグノリア」のように "禍々しく胡散臭さプンプン漂う" 不審人物は後者。彼が体現するキャラクターをどう捉えるか、それは誰よりもご本人が一番よく心得ており、この作品ではトム・クルーズB面を堪能できる、綺麗に並んだ白い歯を見せる彼の笑顔がすこぶる訝しいのだ。

 

そんな彼が演じる主人公バリー・シールは卓越した腕前を持つ航空パイロットであり、民間航空会社に勤める生活に何不自由ないのだが、己を騙して満足できずにいる平凡な毎日に踵を返してリスクを背負うCIAの偵察活動を請け負う。ここで観客は共感する、"家族や将来" などと自分に言い訳をして日常を送る私たちにとって彼は魅力ある男なのだ。次第にパナマの独裁者や麻薬カルテルと手を組む彼はコカインや拳銃を密輸する運び屋となって巨額の富を得る。悪事に手を染める彼に罪悪感は毛頭ない。ひたすらにスリルを空に求めて滑走する。これが彼の求める人生なのだが、そんな彼にも法の裁きが待っており、さらにホワイトハウスの取引も忍び寄ってくる。彼の顛末は社会奉仕を強いられる生活なのだが、決して彼は怒るという行動を起こさない。どんな窮地に追いやられても彼は常に笑顔を表に出していく。そう、彼は人を恨むことはない、それは己が選択した道なのだからと悔やむこともない。ここがミソ、彼の笑顔を深読みさせる演出となる。

 

そしてクライマックスとなるバリー・シールの逃亡生活にグッとくる。カルテルよりの刺客に狙われる彼が奉仕活動へと向かう為に自分の車へ乗り込む場面、そこで決死なる決断を繰り返す彼はあまりに無様で人間臭い行動だが、そこでも笑みを出している。それは死を決意する諦めなのか、まだ生き延びたいという神への祈りなのか、実に奥深い。

 

欲言うならば、主人公が会社を立ち上げて家族と暮らす街 "メナ" の人々との交流をもっと描いていけば彼の人間像にさらなる深みをもたらしたであろう。寂れた田舎町に現れる主人公の功績はマネーロンダリングによる銀行の乱立や彼の名を冠した球場の設立であり、それに対する住民の "歓迎と敵対" の分裂がドラマとして面白くなるであろうし、主軸となる麻薬カルテルとの駆け引きで物語の大半を占めてしまうのはいささか勿体無い。公衆電話での交渉シーンで彼の仕事っぷりは十二分に伝わって来る。

 

物語の途中で現れるバリーの妻の弟は、明らかにトラブルメーカーなのだと観客は認識する。ストーリーの転換を迎えるに違いない "弟の出現に対して不審感を抱く保安官の活躍" に自ずと期待してしまう。だってあの保安官役のジェシー・プレモンス、TVシリーズ「ファーゴ」セカンドシーズンで主要キャラだし、「ブラック・スキャンダル」でも冒頭シーンで印象に残る役柄やってたから、この後主人公の暗躍に対して何か行動を起こすはず…と推察してしまうやん。結果、それきりなのが残念。だったらあの役、彼でなくてもええやんって愚痴りたくなる。

 

ともあれ、トム・クルーズの活躍は衰えることなく、来年以降は「ミッション・インポッシブル」や「トップガン」の続編が待機する。トム・クルーズA面として老体に鞭打つ作品がいつまで続くのか、現在55歳。齢60を超えるジャッキーが健在であるが故、英雄引退宣言するには時期尚早であろう彼の笑顔の裏に何を感じるか、B面ファンとしてしみじみ思う。

 

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