コロナのことを考えてしまうので、
こういうときは
好きなコトに意識を向けよう!
ということで思いついたのが
今回のテーマ
『ラングラーとロック』
である。
あ、ラングラーといっても
Jeepの方ではなくJeansの方だ。
アメリカンカジュアルの代名詞として、今や世界中で愛されるデニムウェア。その本場アメリカではリーバイス(Levi's)、リー(Lee)と並び、御三家デニムブランドの一つがラングラー(Wrangler)である。
しかし、ひと昔前の日本におけるラングラーは、リーバイスやリーに比べどこか二流のイメージがつきまとっていなかっただろうか。かくいう私も学生時代まではリーバイスの501一辺倒で、ラングラーの選択肢は一切なかった。
ジェームス・ディーンやマリリン・モンローなどの有名人を起用した広告や巧みなイメージ戦略で、時代を追うごとに少しずつワークウェアからファッションブランドへとシフトしていったリーバイスやリーに対し、ラングラーはやや遅れをとった感がある。
しかし、ラングラーこそ初のデザイナーを起用した本格的なデニムブランドであったことを、後に私は知ったのである。
ラングラーの母体は1904年にノースカロライナ州で創業された作業着メーカー“ブルーベル社”である。そして1947年、当時ハリウッドで西部劇の衣装を手がけていたテーラー“ロデオ・ベン”をデザイナーに起用し、初めてのカウボーイブランド「Wrangler」をスタートする。それまで作業着でしかなかったデニムにテーラードカッティングやファッション性をもたらしたラングラー。そのファーストモデル“11MW”は、ロデオ・ベンによってを“ジーンズ”と名付けられ、ここに世界初の“Jeans”が完成したのである。
もうお気づきかと思うが、多くの代表的なデニムブランドがワークカルチャーを背景にしているのに対し、ラングラーは設立当初から現在に至るまでウェスタンカルチャーに特化しているのだ。「ラングラーと」は、「牧童」を意味する。
馬の鞍を傷つけないよう丸リベットを使用したり、鞍に座ったときに美しく見えるよう股上の深さを設定したり、ウェスタン独特の大きなバックルを装着しやすいよう前面のベルトループの幅を広くしたりと、乗馬の際の使い勝手が優先された機能美がそこにはある。
「ロデオ」というスポーツをご存知だろうか?ロデオは1800年代、カウボーイたちが日々の仕事に不可欠の馬や牛を乗りこなす技術を競技として競い始めたことから始まった。現在全米ではプロスポーツの観客動員数第4位という、モータースポーツをしのぐ高い人気を誇るスポーツである。激しく飛び跳ねる馬や牛を乗りこなすロデオ競技は「最も危険なスポーツ」といわれ、命をかけて仕事を成し遂げるカウボーイ・スピリットの象徴として観る者を魅了する。そんなロデオ・カウボーイの98%がラングラーを愛用しているのだ。しかし、私がファッション業界に入った頃、一家言持つファッション通は、数こそ少ないがこぞってラングラーを愛用していたものだ。彼らに共通していたのは、古着好きであること、60'sから70'sのロック好きであることだ。あ、それと酒好き…。要するに自分の世界観に強いこだわりがある、愛すべきヒネクレ者たちである。
2003年、当時のメンズビギチーフディレクター坂田真彦氏は、満を持してラングラーとの共同レーベルを立ち上げた。その名は「BEN THE RODEO TAROR」。古着に造詣の深い坂田氏は、一本のジーンズが誕生するまでの歴史に感動し、リスペクトを込めてロデオ・ベンとのコラボレートにチャレンジした。カウボーイウエアのオリジナリティを大切にしながら、今の時代に通用するスタンダードを生み出したのである。
これを機に、私はラングラーの魅力に取り憑かれることになる。乗馬には全く縁のない私だからこそ、他のデニムブランドにはないラングラー独自のデザインやこだわりが新鮮で面白かったのだ。「ベン ザ ロデオ テーラー」は、ジーンズはもちろん、デニムジャケットやレザー、ウエスタンシャツまで多岐にわたるアイテムを展開し、うるさ型のデニム通をも唸らせた。
さて、ここからはラングラーとロックの関係である。個性的なラングラーを上手く着こなすには、それに負けない個性が着る側に求められるのではないだろうか。その点、ロックミュージシャンは相性がいい。
そしてこれまでの歴史の中で、最高にカッコよくラングラーを着こなしたのは「ジョン・レノン」をおいて他にないと断言する。
ジョンにはラングラーを着たフォトが数多く残されているが、中でも鳥肌もんのカッコよさを見せつけたのは、1968年にローリング・ストーンズが制作したテレビ用映像作品「ロックンロール・サーカス」においてである。
ロックンロールとサーカスの融合をコンセプトにしたこの作品は、スタジオ内にサーカスのテント小屋をイメージしたセットが組まれ、出演者全員がピエロやサーカス団員に扮し、各大物ゲストアーティストがショーの一環のように演奏していく構成になっているが、様々な要因によりその後30年近くにわたり封印されてきた伝説的な作品である。
ちなみにメンズビギでは2004年A/W、この作品をシーズンテーマに据え、当時の衣装を現在の感覚にアレンジし甦らせたことがある。
演奏前のバンド紹介でミック・ジャガーとやり取りするジョンの姿に、私は衝撃を受ける。それはヤキソバ?を食べ終わった皿を両手に抱えていたから…ではなく、そのデニムジャケットの着こなし方である。
ジョンが愛用していたのは、ラングラーのファーストモデルジャケットである111MJ。フロントに入った2本ずつのプリーツや丸カンヌキ、両肩後ろのアクションプリーツ、背中両裾のシンチベルト、そしてブランドアイコンとなる胸ポケットに入ったWのステッチなど、クラシックかつオリジナリティ溢れるディテール満載だ。
そんな存在感のあるジャケットを第1ボタンだけ留め、いともさりげなく着こなしている。まるで暴れ馬を簡単に手懐けるカウボーイのように…。
そしてダーティ・マックでの演奏シーン…
エリック・クラプトン(左)とキース・リチャーズ(右)の二人が、当時のサイケデリックなファッションで決めているのに対し、ジョンはTシャツとスニーカーにデニム・オン・デニムという対極の脱力ファッションだ。一歩間違えれば究極の野暮なコーディネートを、ワントーンでシンプルかつ上品に仕上げ、むしろ誰も寄せつけないレベルのお洒落に引き上げている。
今風にいえば、見事な“抜け感”と“こなれ感”を表現しており、50年以上経った今の視点からみても輝きを失なっておらず、サイズ感やジーンズの丈感もこれ以上ないバランスである。
これらは本人が意識してのものかどうかは謎だが、私は自然にやっているだけだと思う。人間には99%の人にとって難しいことを、いとも簡単にやってのける人が稀にいるのだ。ジョン・レノンという人は、そういう選ばれた人間のように思える。こうしたジョンのファッションは、彼の音楽同様いつの時代でも普遍的であり、一つの指標となるものだと思う。
さて、ロックミュージシャンのラングラー好きは他にもいる。一昨年大ヒットした映画「ボヘミアン・ラプソデイ」。ハイライトシーンのライヴエイドでのステージで、暴れ馬のように激しいパフォーマンスを繰り広げるフレディ・マーキュリーが穿いていたジーンズは、紛れもなくラングラーだ。
さらに、オアシスのリアム・ギャラガーは、直立不動の姿勢でラングラーを着てもカッコいいことを証明した。
ラングラーの服は不思議だ。誰にでも着ることはできるが、着てサマになる人とそうでない人にハッキリ分かれるからだ。それはその人自身の人物像とその背景にあるカルチャーが影響しているように思う。
じゃじゃ馬を上手く乗りこなすには、乗る側にもそれなりの強い意志と資格が必要だ。今の時代の風潮と逆行するかもしれないが、そういうモノが少しぐらいはあってもいいのではないか。
ラングラーとロック…
一見全く違うカルチャーだが、どこか根底で繋がっているような気がする。
……………………………………………………………………………
「The Dirty Mac」
“Yer Blues”
……………………………………………………………………………