それにしても、
私は魚の骨がよく喉に刺さる。
これは恐らく、
他人よりも喉が狭いからだと
昔から勝手に思っている。
それは小学生の頃…
給食の牛乳をイッキ飲みすることが
一部の男子で流行ったことがある。
それは牛乳瓶の飲み口全体を
唇でガバッと覆い、
上を向いて一気に喉に流し込むという
今考えれば愚の骨頂のような遊びだ。
我々のあいだでは、
通称 “ガバチョ飲み” と呼ばれていた。
これが出来る男子は、
勉強も運動もできず顔がブサイクでも、
給食時間のちょっとしたヒーローだった。
もちろん目立ちたがり屋の私も
幾度となくチャレンジし
家でも密かに特訓を重ねたが、
最後までガバチョ飲みをマスターできず、
苦渋を舐めた想い出がある。
また、昔の飲み会で流行ったイッキ飲み…
私はこれが大嫌いだった。
それは神聖なるお酒への冒涜だからだ!
とカッコよく言いたいところだが、
ホントにできなかったからだ。
お酒が苦手なのではない。
むしろ当時の私は数万人に一人の確率と
いわれたかどうか知らないが、
先天的 “ザル” ではないかと
本気で思っていたほどだ。
しかし…
初めて一緒に呑む先輩や上司の中には、
イッキ飲みを強要する人もいる。
そんな時私は、
『イッキ飲みなんて言わず、
どっちが先に潰れるか
時間無制限で勝負しませんか?エヘヘ…』
と相手の目を真っ直ぐ見据えて言うと、
たいていの人は気味悪がって
引き下がったのである。
さて、金目鯛の骨が刺さった私は、
一瞬、緊張が走ったが、
自分の潜在能力に過信もしていた。
あの硬く鋭いカサゴの骨が刺さるという
最大のピンチを自力で切り抜けた男だからだ。
金目鯛の骨はカサゴほど硬くはない。
しかも、あの時ほど痛みは感じない。
この程度ならお茶を飲むなり、
何かを丸呑みすれば抜けるだろうと
たかを括っていた。
しかし、それが間違いだと気づくのに
そう時間はかからなかった。
何をどうやっても抜けないのだ。
さすがに焦り始めた私は、
なぜ抜けないのかよーく考えてみた。
もしかしたら骨の軟らかさが
却って仇になっているのでは?
という一つの仮説に辿り着いた。
しなやかな骨は何を丸呑みしても
バネのように元に戻るという原理である。
この仮説を導き出す過程は
とてもスリリングであり、
自分が天才にでもなった錯覚を覚え、
一瞬、喉に刺さった骨のことさえ
忘れさせてくれるに十分だった。
だからといって、
まだ骨が抜けたわけではない。
さあ、どうしたものか…
と思案し始めた私は、
他に良いアイデアが見つからない時の
とっておきのオリジナル解決法に
懸けてみることにした。
それは、
寝れば治るかもしれない…
というものだ。
科学的な根拠は一切ない…。
ただし、“果報は寝て待て” という
先人の教えもあるではないか。
その夜は喉の違和感で何度も目覚めた。
その度に恐る恐る唾を飲み込むと、
まだ抜けていない。
長い夜が明け、
遂に朝を迎えた私は、
祈るような気持ちで唾を飲み込んでみた。
抜けていない…。
嗚呼、どうしよう …。
こんな状態で、
笑顔の接客なんかできない…。
喉に魚の骨が刺さった程度で、
仕事を休むわけにもいかない。
鏡の前に座って自分の顔を覗くと
疲労の色が滲んでいる。
もう、こんなのイヤだ!
私は急に自暴自棄になり、
思わず右手の人指し指と親指を輪っかにして
大きく開けた口の中にサッ!と突っ込んだ。
オエッ!
もうヤケクソである。
UFOキャッチャーじゃあるまいし、
こんな原始的な方法で骨が抜けるとは
とても思えなかったが、
口の中に右手をサッ!と突っ込んでは
すぐに引っ込めるという
摩可不思議な行動を私は何度か繰り返した。
鏡に映る自分の右手が
まるで餅つきの合いの手に見えてくる。
サッ!、オエッ!、サッ!、オエッ!…
そして、何度目かのオエッ!の直後…
あ、抜けた…
スゴいでしょ?
これ、ホントの話…
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「Steve Hillage」
“Fish~ 魚が出て来る日”
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メンズビギ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗️

