それは2日前の
晩ご飯を食べ終える寸前のことだった。
クリック
ん ⁉️
喉に違和感が走った。
あ! しまった!
どうやら金目鯛の骨が刺さったようだ。
私は魚の食べ方が上手い…
というか、
魚の身だけでなく小骨や皮まで
最後まで残さず食べるのである。
すると、
皿の上はまるで、
猫が魚を食べた跡を描写した漫画のように
見事に頭と背骨だけが残っている。
この姿はとても美しくセクシーだ。
私にとってこれは、
“皿の上のアート”とも言える。
しかも、焼き魚を食べる度に
『もっとキレイに骨を残したい…』
という向上心が生まれるから不思議だ。
自分でもよく分からないのだが、
私は皿の上の焼き魚を見ると闘志が湧く。
相手の魚もなかなか大した度胸で
腹を括って観念したのか微動だにしない。
まるで、
『煮るなり焼くなりどうにでもしろ!』
と開き直った清さが見てとれる…
すでに焼かれているのにもかかわらず…。
お皿はキャンバスである。
その上に載った魚を、
筆ではなく丁寧に箸を使い、
最後に残った骨が作品となる…
これこそ“引き算の美”ではないか!
常に前作を超える作品を目指し、
己の前に立ちはだかる壁を
乗り越えようとする姿勢は、
まさにアーティストであり
アスリートにでもなった気分である。
しかも食事を楽しみながら…
しかし…
喉に骨が刺さるとそれどころではない。
経験された方はお分かりだろうが、
楽しいはずの食事が、
一気に緊張感のある時間に一変する。
私が今まで経験した中で最悪だったのは、
ずいぶん昔に伊豆へ旅行した時だった。
奮発して泊まった高級旅館の貴賓室…
伊豆といえば新鮮な海の幸である。
普段はなかなか食べることのない
贅を尽くした料理の数々…
悲劇が私に襲いかかったのは、
カサゴの姿揚げを食べてる時だった。
魚に詳しい方ならご存知だろうが、
カサゴの骨はとても硬くて鋭い。
そんな骨が私の喉を突き刺したのである。
違和感を通り越し、もはや痛い。
すっかり食べる気力が萎えた私は、
次の料理を運んできた仲居さんに
そのことを言うと、
「あらま、大変!
ちょっと待ってて下さいな!」
と言うやいなや
部屋を慌てて飛び出して行った。
このご年配の仲居さんには
すでに心づけを渡してあるから
とても親切だ。
『担当のお客様にもしものことがあったら…』
仲居さんも気が気ではなかったに違いない。
10分後に戻ってきた仲居さんは、
『料理長に聞いてみたんですが、
“ご飯を噛まずに呑み込んでみて下さい”
とのことです…』
と言って、
小さなお櫃を差し出した。
こんなに豪勢な料理が
目の前に並んでいるというのに、
ご飯だけを丸呑みしなければならない自分が
とても不憫に感じた。
しかし…
何度も丸呑みしたが、一向に骨は取れない。
「どうですか?」
「いや、ダメです…」
心配そうに見守る仲居さん…
親切な仲居さんの為にも何とかしたい。
仲居さんは再び部屋を出て行った。
きっと新たな情報収集に行ったのだろう。
数分後、仲居さんが戻ってきた。
何事もなかったように
次の料理を運んで…。
えっ👀⁉️
仲居さんを責めるわけにはいかない。
それが仕事なのだから…。
結局…
私は高い宿泊費の大部分を占める料理を
かなり残すことになった。
お腹が空いてるにもかかわらず…
その後…
私は暗澹たる気分を払拭する為にも、
その旅館自慢の温泉に入ることにした。
もしかしたら、
温泉の成分が効くかもしれない…
という根拠のない期待感もあったからだ。
『この温泉の泉質は弱アルカリ性の単純泉で、神経痛・リュウマチ・冷え症・肌荒れ・胃腸炎・自律神経・喉に刺さった魚の骨…』
なんて効能は一度も聞いたことがないが…。
しかし…
実際には骨は取れなかったものの
湯気をたくさん吸って喉がほぐれたせいか、
何となく入浴前よりも具合がいい。
少し気分が晴れた私は部屋に戻り
ビールをグビグビ飲み始めた。
すると…
あ、取れた…
あっけない幕切れだった…。
さて、金目鯛の骨はどうしたものか…
~続く~
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「Radiohead」
“Bones”(骨)
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗️

