こんな看板を見たことはないだろうか?
そこは一度も入ったことがない、
創作和食の店であった。
私がその店の前を通りかかると、
“心を込めて準備中”
という看板に目が留まった。
おぉ、なんと素晴らしい心構えの店だ!
熱意や健気なひた向きさが、
ヒシヒシと伝わってくるではないか!
このヘタウマな書体は、
不器用な店主が思いの丈を込めて、
自ら筆を執ったに違いない。
私は清々しい感動を覚え、
ついついその店を応援したくなり、
今度は営業中に来てみようと思ったのである。
それから間もなくその機会が訪れた。
店は開いていた。
店先には前回と違い、
“一生懸命営業中”
という、
これまた心に響く文言が書かれた看板が
掛かっていた。
一生懸命営業中か…
そりゃそうだろう。
あれだけ心を込めて準備している店だ。
営業中は一生懸命のはずである。
きっと店に入った途端、
威勢のいい掛け声が聞こえそうだ。
きっと旨いモノを食わせてくれるだろう。
でも満席かもしれないなぁ。
早速ドアを開け中に入ってみると…
あれ?
予想に反し店内はガラガラである。
あれれ?
私の存在にやっと気づいた店主らしき男は、
予想に反しテンション低めの声で、
目も合わせず“いらっしゃいませ”であった。
一瞬、隣の店に入ったのかと思ったが、
そんなはずはない。
間違いなくこの店だ。
連日、心を込めて準備したり
一生懸命営業しているから、
疲労が溜まっているのかもしれない。
そもそもここの店主は不器用なのだ。
料理一筋の職人気質なのだ。
味が勝負の店なのだ。
私はビールを飲みながら、
期待に胸を膨らませ料理を待った。
そして運ばれてきた料理を口にしたのだが…
私はそれ以来、その店には行ってない。
さてその後…
街で同じ看板を見かけるようになった私は、
これは誰でも手に入る看板であることを知り、ガッカリしたのである。
我がメンズビギ・マルイシティ横浜店にも
“一生懸命営業中 by GM”
と私が筆で書いた看板を
一時本気で置こうかと思っていた私は、
まんまと一杯食わされていたのだった。
止めといてよかった…
ところで話は変わるが、
先日、新宿の若松河田に行った帰りのこと…
時計を見ると1時を過ぎている。
腹が減ったので
この辺りで何か食べようと思ったが、
生憎この界隈は詳しくない。
どこか旨い店はないだろうか…
と周りを見渡すと、
“さかな処 ”という看板が目に入った。
昼間に市場周辺や寿司屋以外で
魚料理に特化した店なんて今どき珍しい。
もしや?と思い、
恐る恐る店の前に行ってみると、
“一生懸命営業中”の看板は無くホッとした。
とりあえずビールを頼み、
テーブルの上のメニューを見た。
焼き魚、煮魚、刺身、丼モノ、重モノなど
どれも旨そうな魚の定食だ。
しかも安い!
私は炙り鯛めし重を頼んだ。
手持ち無沙汰で店内を眺めた。
どうやらこの店は、
夫婦らしき二人で切り盛りしており、
休む間もなく手を動かしている。
周りの人が旨そうに食べている定食を
チラ見するのも飽きてきた私は、
ふと手元のメニューの裏を見た。
すると、こんなことが書かれていたのだ!
おぉ、これは!
そこには店主の決意表明らしきものが
書かれていたのだ。
その辿々しい文章と筆跡から、
店主の飾り気ない人柄と熱意が伝わってきた。
これは紛れもなく自筆だ!
後半の
『旬な魚を食べて、おいしく元気に、そして笑顔になって頂けるよう努めてまいります』
のくだりでは、
不覚にも目頭が熱くなってしまった。
厨房の奥を覗くと、
黙々と動き回る店主が手拭いを頭に巻き、
背中に小型の扇風機を付けた姿が目に入った。
これだ!
これこそ本物の
“一生懸命営業中”だ!
鯛の出汁がしっかり染み込んだ鯛めしの上に
皮を炙った刺身が敷き詰められている。
う~ん、文句なく旨い!
さらに千切り野菜のサラダに煮物の小鉢、
アオサ海苔の味噌汁にお新香が付いて、
お値段は なんと! 980円❗
もし私がミシュランの覆面調査員だったら、
この店に最高得点をつけるのだが…
今回はそれに匹敵する、
GMガイド2018 三ツ星獲得!
ということにしておこう。
お店というものはお客様に、
“ガッカリさせないでくれ”
なんて、
決して言わせてはいけないのだ。
やっぱりウチの店にも、
自作の看板を置いてみよっかな…
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「Bad Company」
“Don't Let Me Down”
(ガッカリさせないでくれ)
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗

