アイツまたかよ❗
お店の公式ブログを始めて一年ほど経つが、
中西と仁田が担当した記事は
相変わらず誤字が多い。
前にも書いたが、
特に大事な商品説明の箇所は
信用問題に関わるのでヒヤヒヤものである。
彼らの新着記事がアップされる度に
私はできるだけ早目にチェックし、
間違いの訂正を促している。
これは先日の中西への訂正要請だ。
この程度なら何となく意味が通じるので
まだ許せる。
しかし…
3日前の仁田の間違いは度を越しており、
サッパリ意味が分からない。
『誰もが浸し身やすいボーダー柄ニット…』
最初は自分の読解力不足を疑ったが、
前後の文脈から“浸し見”は“親しみ”であることが分かる。
まさか、ボーダー柄の服を着た自分の身を
水に浸すヤツなんかいるはずがない。
そんなことを誰もがやっていたとしたら、
とっくの昔に“日本三大奇祭”として、
メディアに取り上げられてるはずだ。
平気で書いていた前科がある。
よほど水に浸し身…
いや、親しみをもってるに違いない。
ところで…
この日の私は、
普段は滅多に休まない土曜日だったが、
身内の法事があったので仕事を休んでいた。
今月に入ってからウチの店は、
どうも売上が芳しくなく、
その辺も気がかりだったので、
訂正要請のついでに状況を聞いたのだが、
残念ながら厳しかったようである。
売上げが悪い時というのは
様々な外的要因が考えられるが、
まずは自分達の足元を見つめ直すことが
先決なのだ。
『これはもう、SST しかないな…
しかもただの SST ではなく、
SSSSSSSSST ぐらいやらないと…』
早速私は、LINEを返した。
販売の現場で一番しんどいのは、
売上がとれないことだ。
低迷が続くとスタッフの笑みが消え、
重苦しい空気が店内を包み込む。
これが自然とお客様に伝染し、
負のスパイラルに陥っていくのである。
逆に好調な時というのは自然に笑みが溢れ、
活気に満ちた店内には
次から次へとお客様がやってくる。
ということは…
“卵が先か、鶏が先か”と同じで、
先に笑っていればいいのである。
SST とは、
“スーパー・スマイル・タイム”の略なのだ。(命名者は仁田である)
何事も“かたち”から入ればいいのだ。
そのうち自然に身に付いてくる。
SSTの効果は絶大だ。
今までにも多くの窮地を救ってきた。
売上の雲行きが怪しくなってくると、
誰彼ともなくSSTを発令する。
中西や仁田が発令すれば、
この私も従わなければならないルールなのだ。
今回の場合は、私GM自らの発令である。
しかも通常のSSTを遥かに上回る、
かつて誰も経験したことがない
SSSSSSSSTなのだ!
なんたって、
“スーパー・スペシャル・ストロング・スプラッシュ・スライダー・スクラッチ・ストリーム・スマッシュ・スマイル・タイム”だ。
(あ、一つ多かったかな?)
何だかよく意味が分からないが、
とにかくスゴいのである。
翌朝、早速私は
中西と仁田に訓示を垂れた。
「いいか!今日はSSTではなく、
前人未到のSSSSSSSSTで行くからな!
いつものSSTのノリではダメだ!
とにかく笑え!笑い続けるんだ!
一日中笑うんだぞ!
笑っていなかったら、
棒で“ケツしばき”だからな!」
「それ、“笑ってはいけない”の
逆じゃないですか」
「そうだ。だから甘くみてはいけない。
一日中笑い続けるというのは、
お前らが考えてる以上に
決して生易しいことではないぞ!
でもな、もしオレが笑ってない時があれば、
お前らも容赦なく叩いていいからな!」
「え!? ホントですか?」
「当たり前だ!
オレもそれぐらいの気持ちで挑む!
その代わり後で倍返しだけどな!」
こうして“SSSSSSSST”の一日は、
幕が切って落とされたのである。
こういうケースでは仁田は要領がいい。
この男は元々、芝居がかった演技が得意だ。
時々、笑ったまま動かない
蝋人形のようにさえ見えるが…
しかし、中西の場合は違う。
この男には調節機能というものがない。
無理に笑うと変質者に見える時がある。
「お前、不気味だぞ!
それじゃ逆効果じゃないか!
もっと普通に笑えないのか!」
客待ち姿勢でただ笑うというのも
結構大変なのである。
「あ!今お前、笑ってなかっただろ!
ケツしばきだぞ!」
抜き打ち検査もある。
『意味もなく笑い続けるのは、
自分との闘いでもある。
これをやり遂げた暁には、
それまで見たこともない風景が
目の前に広がるのだ。
みんな、自分を信じろ!』
私は心の中でそう囁きながら
自分でも笑い続けた。
効果は早速表れ始めた。
午前中にはすでに昨日の倍の売上を記録した。滅多にないハイペースである。
しかし…
通常のSSTならせいぜい一時間程度だ。
さすがに午後に入ると、
笑い慣れしている我々でさえ疲れてきた。
同時に売上げも停滞し始めた。
ここからは未知の世界である。
苦しいのは分かる。
しかし、ここが踏ん張りどころだ。
私は再び奮起を促した。
「オレなんか休憩時間も笑ってるんだぞ!」
「え!? ホントですか?」
「ウソに決まってるだろ!」
時々、お互いの目が合う。
相手の苦渋に満ちた笑顔を見てると、
自然と笑いが込み上げてくるようになった。
どうやら山を越えたようである。
その後、再び売上げは伸び始めていった。
「笑う門には福来たる…
いや、笑う門には服着たる だな!」
こんなことを言いながら、
我々は最後に笑い合ったのである。
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最後に笑う曲…
「King Crimson」
“Easy Money”
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メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗


