電車の中で人間観察をよくする私は、
一人笑いをしている人を見ると
とても不気味に感じ、
決して目を合わせないようにしながら、
実はしっかり観察を続けているのだ。
だから自分も電車で一人っきりの時は、
できるだけ笑わないようにしている…
っていうか、
笑うことよりも
周りの人から変な人と思われる
恥ずかしさの方が勝ってしまうから、
自然と抑制力が働くのだ。
そもそも一人っきりの時に、
そこまで可笑しいことって
滅多にあるものではない…
その日は仁田と
そんな人間観察についての話を
お店でしていた。
そして仕事帰り…
横浜駅から電車に乗って座った途端、
お店の公式ブログが
更新されたお知らせがきたので、
早速チェックすることにした。
その日の記事は、
さっき別れたばかりの仁田が担当である。
確か撥水加工された
新作ジャケットの紹介だったはずだ。
相変わらず仁田と中西の記事には
誤字や脱字があったりするので、
できるだけ早い段階で私がチェックし、
間違いを見つけると
すぐに訂正するよう指示を出している。
特にファッション用語に関しては
お店の信用失墜に繋がりかねないので、
普段から厳しく指導しているのだ。
『皆さんこんばんみっ！』から始まり、
『奥さん！』という呼び掛けが続く
いつものパターンだった。
私も人のことは言えないが、
“この男は
いつまでこんなことを続けるのだろう…”
と思いながら、
ナニナニ？… フムフム…
と読み進んでいると、
商品説明の記述の部分に
何か違和感を感じたのである。
老眼鏡をかけ直し
もう一度その部分を注視してみると、
なんと！
撥水加工が、
破水加工
と書かれていたのだ❗
撥水ではなく破水だと⁉
アア、もうダメ…
発音以外はカスリもしないどころか
むしろ逆の意味にもとれる言葉に、
私の笑いは遂に決壊した。
人目も憚らず、嗚咽も交えた私の笑い声は
周りの乗客を震撼させたに違いない。
いつもとすっかり逆の立場だ…
照れ隠しに、
「あぁ、ほんとアイツってバカ！」と、
普段は嫌悪さえしている
一人言まで飛び出す始末。
破水って、あの破水だよな？…
考えれば考えるほどバカバカしく、
笑いの波は断続的に私を襲ってくる。
しかし、笑ってばかりもいられない。
こんな恥知らずな間違いを
世間の目に触れさせるわけにはいかない。
いつもは本人に訂正させるが、
事は一刻を争う。
今回に限っては、
笑いで小刻みに震える指を
なんとか駆使しながら
私が勝手に訂正し、
仁田にLINEした。
翌日、出勤してきた仁田は
私の叱責を覚悟し、
「昨日の記事、スイマセンでした。
訂正までして頂き、助かりました」
と開口一番謝った。
「ホントだよ！
おかげでオレは電車の中で孤立したんだぞ！
オマエまさか、オレをピンポイントで狙ったんじゃないだろうな？」
「いやいや、そんな計算できませんよ！
実はボク、今までずっと
“撥水”を“はすい”と読んでたんですよ。
それをそのまま変換してしまって…
チェックはしたつもりなんですけど…」
「だいたい破水加工のジャケットって、
一体どんなジャケットなんだよ！」
「そうですよねぇ。
水を弾くどころか
ジャケットから水が吹き出したら、
マジックショーですもんねぇ」
「当たり前だ！
鳩や万国旗が出てくるならまだしも、
水が吹き出したらマジックを通り越して
イリュージョン級じゃないか！
そんなもん売れるか！」
「確かに…」
「しかも世間では今
セクハラ問題にこれだけ敏感だというのに、
あんな不謹慎な言葉使ってると
女性蔑視のレッテル貼られて
アパレル業界では前代未聞の
“Me Too”運動にでも発展するぞ！
そんなことになったら、
もうオレはオマエを庇いきれないからな！
いくらオレでも、
辻本清美や蓮舫のような相手は絶対無理！」
「・・・」
「でもこの間違い、メチャクチャ可笑しいな！今思い出しても笑えるぞ！」
「これ、GM賞候補ですかね？」
「アホ！調子に乗るな！」
私は、あれから数日経った今でも
一人思い出しては笑っている…不気味に。
……………………………………………………
「Syd Barrett」
“Terrapin”
アルバム《帽子が笑う…不気味に》より
……………………………………………………
メンズビギ マルイシティ横浜店 GMより
コチラも見てネ❗
クリック