日本の古代探索

日本の古代探索

古事記・日本書紀・万葉集の文や詩を通して我々の先祖の生きざまを探ってゆきたいと思います。

 

 

2580・面形之 忘戸在者 小豆鳴 男士物屋 戀乍將居

 

   おもかたし わするこならば あづきなく をとこしものや こひつつをらむ

 

 訳:(私の)かおかたちを 忘れてしまう娘ならば 甲斐もないことで 

   男子たる者は 恋続けているだろうか、そんなことない

 

**「おもかた」は「おもざし」。「わするこ」は「忘れる(意識して)娘」。

  「戸」の音は「こ」。「や」は間投助詞。「ものや」の「や」は反語。

  「あづきなく」は「あぢきなし:甲斐もない・骨折り損だ・矛盾している」の連用形。

 

 *私に興味を感じない娘は、こちらの方から御免こうむりたいよ。

 

2581・言云者 三三二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二

 

   いひいへば みみにたやすし すくなくも こころのうちに わがもはなくに

 

 訳:あれこれと様々な事を云ってくれるので 聞いて わかりやすいです 大いに 

   心の内で 私は(そう)思っています

 

**「いひいふ」は「言ひ合ふ・あれこれと様々に云ふ」。「みみに」は「聞くのは」。

  「たやすし」は「容易だ・わけはない」。

  「すくなくも」は下に打ち消し・反語の表現を伴って(もはなくに)「少しばかり~思っては

  いないはない・大いに~思っている」。

 

 *あの人のことは、皆はクドいって言うけれど、私はかえって良くわかって、有難いです。

 

2584・大夫登 念有吾乎 如是許 令戀波 小可者在来

 

   ますらをと おもへるわれを かくばかり こひせしめるは くはしはありき

 

訳:男丈夫だと 思っている私を これほどに 恋しく想わせる(娘:こ)は

  美しい(娘で)あったよ

 

**「小可」は「小生、或いは、小さいこと・ささいなこと:くはし→美しい」。

 

 *男の中の男と自負している私を夢中にさせた娘は、それはもう本当に美しい娘だよ。

  男としては当然惚れるさ!

 

2585・如是為乍 吾待印 有鴨 世人皆乃 常不在國

 

   かくしつつ われまつしるし あらむかも よのひとみなの つねあらなくに

 

 訳:このようにただ居て 私が待っている(良い)兆しが あるのかなあ 

   世の中の人皆 普通はありませんよねえ

 

**何もしないで待っていても 素敵な人には逢えませんよねえ。

 

 *私だけは別だ。神様が見ていてくださるから!と思って婚期を逸する人が多いのです。

  今も昔も。

 

2595・夢谷 何鴨不所見 雖所見 吾鴨迷 戀茂爾

 

   ゆめにだに なにかもみえず みゆれども われかもまどふ こひのしげるに

 

 訳:夢だとしても 何か良くわからなく 思えるのですが はたして私かなあ 

   (この現状に)思い惑います 恋して共寝をしているというのに

 

**「だに」は仮定を表す副助詞。 「なにかも」は「なに:代名詞(疑問・不定のもの)+

  かも:詠嘆を込めた疑問の係り助詞(~かなあ)」。「しげる」は「男女が交歓する」。

 

 *戀慕っていた彼とこうしているのが何か信じられなくて!

 

 

2568・凡 吾之念者 如是許 難御門乎 退出米也母

 

   おほろかに われしおもへば かくばかり なやむみかどを まかりでめやも

 

 訳:いい加減に 私は考えていたので こんなにも 悩んでいる天皇(の御前)から 

   (私は)退出することが出来なくなってしまったなあ

 

**「おほろかに」は「いい加減に」。「難」は「なやむ」。「みかどを」は「みかど:天皇」、

  「まかる:退出する」とあるから「を」は格助詞(~から)で「天皇の御前から」。

 

 *たいしたことではない、通り一遍の報告で済むと思っていたのに!困ったなあ。

 

2572・偽毛 似付曾為 何時從鹿 不見人戀爾 人之死為

 

   いつはりも につきてぞする いつよりか みぬひとこひに ひとししにする

 

 訳:嘘でも 本当のようにしている(と) いつの間にか 偽りの恋に 

   人は夢中になります

 

**「いつはりも」は「嘘も」。「につき」は「似つく:様子がぴったり似る(連用形)」。

   「みぬひとこひ」は「見ていない人との恋・偽りの恋」。「しにする」は「死ぬことをする」  

  で「死ぬほど恋する・夢中になる」。

 

 *本当はそれほど好きではなくても、合わせて付き合っていると、夢中になってしまうもので

  す。(現在横行しているロマンス詐欺とは違います)

 

2573・情左倍 奉有君爾 何物乎鴨 不云言此跡 吾將竊食

 

   こころさへ ささぐるきみに なにもかも いはぬことごと われぬすまむを

 

解釈:心まで全て 捧げている貴方のために どんなことでも 

   おっしゃらないいろんな事を 私は盗み取って(貴方に)尽くしますよ

 

**「いはぬことごと われぬすまむを」は「(貴方が云わぬ事)思っていることを 

  そっと私の物にしますよ」で「(貴方が)おっしゃらないことでも思っていることを(感じ 

  取って)自分の身に着けて貴方に尽くしますよ」。

 

 *このような女性が好きになった男性は、幸せ者です!

 

2574・面忘 太爾毛得為也登 手握而 雖打不寒 戀云奴

   (嘉暦傳承本では 戀云奴は 戀之奴)

 

   おもわすれ だにもえしやと たにぎりて うてどもぬるし こひといふやつ

 

解釈:顔を見忘れて居ること さえもいいじゃないかと(云うので) 手(拳)を握って 

   叩いてもそっとです 恋していると言う事でしょう

 

**「だにもえしや」は「だにも:さえも+えし:よし+や:詠嘆の終助詞」。

  「寒」に「凍る」という意味はなさそうです。

  「不寒」は「寒くない・きびしくない:ぬるし:恐ろしくない・そっと」で

  「こりず:凍りず」の読みは無理。

 

 *「君、誰だっけ! あっ そうか ごめんごめん」とでも言われたのでしょうか。

 

2575・希將見 君乎見常衣 左手之 執弓方之 眉根掻禮 

 

   のぞみみむ きみをみるとそ ひだりてし とりゆみかたし まゆねかかるれ

 

解釈:遠くから あの方を見ていると 左手で弓を持っています (もう)片方(右手)で

   眉を掻いていらっしゃるので

 

**「のぞみみむ」は「(何か目標を狙って)遠くを見ようとしている」。

  「君」は「あなた・愛しい方」。「かたし」は「片方」。

  「かかるれ」は「かか:(掻く)の未然形+るれ:尊敬の助動詞(る)の已然形(条件句~の 

  で)」。

 

 *右手で弓を持たないで、左手で弓を持っていらっしゃいましたが、右手はふさがっていたの

  ですね、眉を掻くために

2560・人毛無 古鄕爾 有人乎 愍久也君之 戀爾令死

 

   ひともなき むかしのさとに あるひとを めぐくやきみし こひにしなせり

 

 訳:好きな人(彼女)ももういない 昔の古郷に 居た彼女を 

   愛しんでいるのですか 貴方は 恋を作り上げているのです

 

**「愍:めぐく」は「めぐし:いつくしむ・あわれむ・切なく可愛いい」の連用形。

  「こひにしなせる」は「恋+に:格助詞(~のように)+しなせ:(しなす:仕立てる)の命 

  令形+り:継続・完了の助動詞」。

 

 *貴方は、ただただ、恋をしている気持ちになりたいだけですね。

 

2562・里人之 言縁妻乎 荒垣之 外也吾將見 悪有名國

 

   さとひとし ことよすつまを あらかきし そとやわがみむ あくがれなくに

 

 訳:里人が 頼み事をしている妻を 荒垣の 外の方に私は見てしまいます

   別に気になるわけではないのに

 

**「ことよす」は「頼み事をする」。「そとや」の「や」は語調を整える間投助詞。

   「あくがれ」は「あくがる:気になって落ち着きを失う」の連用形。

 

 *気にすることはないのだけれど、妻がよその男と話をしていると、

  ついついじっと見てしまいます。

 

2563・他眼守 君之隨爾 余共爾 夙興乍 裳裾所沾

 

   ひとめもり きみしまにまに わがむたに あさけなしつつ もすそぬらさる

 

 訳:他人の目を伺いながら 貴方に言われるままに 私は一緒に 朝早くから事をして 

   衣の裾を濡らされました

 

**「夙」は「朝早くから事をする」、「興」は「力を合わせて盛んにする」、で「夙興」は

   「朝早くから抱き合う」で「あさけなしつつ」。

   「所」は受身を表し「ぬらさる」は「ぬらさ:(濡らす)の未然形+る:受身の助動詞」。

 

 *他人に気づかれないように注意しながら(声を潜めて)、朝早く起きて抱き合ったと言う事  

  でしょう。

 

2565・花細 葦垣越爾 直一目 相視之兒故 千遍嘆津

 

   はなぐはし あしかきこしに ただひとめ あひみしこゆゑ ちたびなげきつ

 

 釈:花のように美しい(女性です) 葦の垣根越しに 一目惚れした娘ですから 

   何回も口説きました

 

**「はなぐはし」は「花のように美しい」。「なげきつ」は「なげき:(なげく:嘆願する)

  の連用形+つ:完了の助動詞」。

 

 *口説き落とした、今の彼女のことでしょうか。それとも、口説いてもだめだった、残念な話

  なのでしょうか

 

2567・相見而者 戀名草六跡 人者雖云 見後爾曾毛 戀益家類

 

   あひみてば こひなぐさむと ひとはいへど みしのちにそも こひまさりける

 

 訳:共寝をしたならば 恋い慕う気持ちは晴れると 皆は言うけれど 

   共寝をしたその後だって (私は)恋慕う気持ちが増していたなあ

 

**「あひみてば」は「あひみ:(あひみる:共寝をする)の連用形+て:完了の助動詞(つ)

  の未然形」で「共寝をしたならば」。「なぐさむ」は「心が晴れる」。「そも」は連語・係助詞 

  で詠嘆を込めた強調。

 

 *前段はプレイボーイの言い草、後段の詠手は真面目な普通の人。

  或いは、それぐらい素敵な娘だよ、と自慢しているのでしょうか。