日本の古代探索

日本の古代探索

古事記・日本書紀・万葉集の文や詩を通して我々の先祖の生きざまを探ってゆきたいと思います。

2677・佐保乃内從 下風之 吹禮波 還者胡粉 歎夜衣大寸

 

   さほのうちゆ くだりしかぜし ふかるれば もどりははふに わびよそおほき

 

 訳:佐保の方から 吹き下ろす風が 吹いているので 

   帰るときには這うようで いやになる夜が多いですよ

 

**「佐保乃内」は「佐保の土地」。「胡粉」は「おしろい・はふに」。「はふに」は「這ふ+に:

  格助詞(~の状態で)」。「わび」は名詞「悲しんで気が滅入ること・悲嘆に暮れること」。

 

 *風に逆らって歩くのは大変です。

 

2678・級寸八師 不吹風故 玉匣 開左宿之 吾其悔寸(萬葉考では 級寸は 級子)

 

   しなきやし ふかぬかぜゆえ たまくしげ ひらきてさねし われそくやしき

 

 訳:(箱の中の)物を消して(無くして)しまったのかなあ 風も吹いていないので 

   玉手箱を 開いたままで共寝をしてしまった 私は全く悔しい事だ

 

**「しな」は「品物・情況」。「きやし」は「きやす:消やす:消えさす・消す」の連用形で中

  止法。「たまくしげ」は「玉手箱」。

 

 *この詩、玉手箱をお土産にもらった浦島太郎物語の風刺(パロディー)でしょうか。

  彼女と玉手箱の蓋をして共寝をしたら、翌朝、お土産が入っていたかも知れなかったよ。

 

2684・笠無登 人爾者言手 雨乍見 留之君我 容儀志所念

 

   かさなしと ひとにはいひて あめつつみ のこりしきみが すがたしもはる

 

 訳:笠が無いと 私には言って 雨を用心してと 残ってくれていた 

   貴方の 様子に(私は貴方を更に)好きにさせられます

 

**「ひと」は「相手・私」。「つつみ」は「つつむ(慎む):用心する」の連用形。

  「もはる」は「もは:(おもふ:想う)の未然形+る:受身の助動詞の終止形」。

 

 *未だ一緒に居たいと思う私の心を酌んで、雨のせいにして残って居てくれるなんて、

  なんて素敵な方でしょう

 

2695・吾妹子爾 相縁乎無 駿河有 不盡乃高嶺之 焼管香將有

 

   あぎもこに あふよしをなみ するがなる ふじのたかねし やけつかあらむ

 

 訳:彼女に 逢えるわけでもないし 駿河にある 富士の高嶺を 

   思い焦がれながら行きましょうか

 

**「やけつかあらむ」は「やけ:(やく:思い焦がれる)の連用形+つつ(つ):接続助詞(~

  しながら)+か:問いかけの係助詞+あら:(あり:時間が経過する)の未然形+む:推量

  の助動詞」。「之」は「を」。

 

 *この旅は、彼女に逢えるわけでもないから、富士山を見るのだけが楽しみだよ。

 

2699・安太人乃 八名打度 瀬速 意者雖念 直不相鴨

 

   あだびとの やなうちわたし せをはやみ こころはもへど ただあはぬかも

 

 訳:浮気者は 策を講じて 急(せ)かせるので 心は(少しは)動くけれど 

   すぐには逢わないでしょう 

 

**「あだびと」は「心の移りやすい人・不実な人・浮気者」。

  「やなうちわたし」は「魚を獲る仕掛けを設けて・策を弄して」。

  「せをはやみ」は「瀬の流れが速いので・事の運びが早い」。

  「ただ」は「すぐ」。

 

 *話が上手な人は、きっと浮気者です。その手には乗りません。慎重に考えます。

2656・天飛也 輕乃社之 齋槻 幾世及將有 隱嬬其毛

 

   あまとぶや かるのやしろし いはふつき いくよしからむ こもりつまきも

 

 訳:亡くなってしまった 軽皇子の社で 大切に(社を)守っている槻木は 何年にも渡って

   守ってきたのでしょうね 静にじっと見守っているのですね

 

**「あまとぶや」は「空を飛んで去ってしまった:もう亡くなってしまった」。

  「かる」は「輕皇子(文武天皇)」か。「いはふ」は「汚さずに大切に守る」の連体形。

  「いくよしからむ」は「いくよ:何年にもわたって+しか:(しく:覆う・守る)の未然形+

  らむ:推測の助動詞(おそらく~でろう)」で「何年にも渡って守ってきたのであろう」。 

  「こもりつまきも」は「こもり:(こもる:神社にこもって祈願する)の連用形+つまき:

  (つまし:倹約である・地味にいる)の連体形」で「神に祈願してじっとしている(槻)」。

 

 *輕の社のあの槻の木は、今までも、亦これからもずっと軽皇子を見守っているのですね。

 

2661・霊治波布 神毛吾者 打棄乞 四惠也壽之 惜無(類聚古集では 惜無は 恡無)

 

   たまちはふ かみもわれらは うちすてき しゑやいのちし をしけくもなし

 

 訳:精霊として守り助けてくれる 神(精霊)も私を うち捨ててしまわれた 

   ええい(それならもう)命なんて どうでもいいや

 

**「ちはふ」は「(私の霊が)守り助ける・幸福を与える」。

  「吾」は「われら(ら)は謙遜の接尾語」。

  「乞」の音は「き(漢音)」で、「き:過去の助動詞の終止形」。

  「しゑや」は感動、亦は嘆息の辭。

  「をしけく」は「をしけ:(をし:もったいない)の未然形+く:体言化する接尾語」。

 

 *愛していた妻を亡くしてしまったのでしょうか。

 

2670・眞素鏡 清月夜之 湯徙去者 念者不止 戀社益

 

   まそかがみ きよきつくよし ゆつりなば おもひはやまず こひこそまさめ

 

 訳:まっ白な鏡の 澄んだ月夜のように(冷たく) 去って行ってしまったら 

   慕う心はなくなるどころか 益々恋慕うことでしょう

 

**「まそかがみ きよきつくよし」は「あっさりとした・たんたんとした」様子か。

  「まそかがみ」は昼間の月の様子と思われ、普通夜輝く明るい月でなく、

  もしこのような真っ白い月であったら、味気なく、冷たい感じがすると思われます。

  「徙」は「ゆつる・うつる:他の所に移る」。

 

 *この詩、恋人があっさりと別れて行ってしまったときの女心でしょうか。

 

2672・此山之 嶺爾近跡 吾見鶴 月之空有 戀毛為鴨

 

   このやまし みねにちかしと わがみつる つきしなきなり こひもするかも

 

 訳:このヤマシは 嶺に近い所(高いところに生えているなあ)と 私は(じっと)見てしま

   っていました (いくら見ていても)飽きることがありません 好きになってしまうかも

   しれませんよ

 

**「ヤマシ」は「野草の名・やまじ(やまじのほととぎす)山地の林の縁に自生する)」。

  「見つる」の「つる」は「完了の助動詞(つ)の連体形で、連体止め」。

  「つきしなき」は「見ていてて飽きない」。「なり」は連体形に接続する助動詞(~である)。

 

 *「ヤマシ」を身分の高い、好みの男性と重ねているのでしょうか。

 

2675・君之服 三笠之山爾 居雲乃 立者継流 戀為鴨

 

   きみしきる みかさしやまに ゐるくもの たちてかさなる こひのためかも

 

 訳:貴方を隔てている 三笠の山に 居る雲が どんどん重なってきます 

   (私の)恋しい想いが重なっているせいでしょう

 

**「きみしきる」は「貴方を隔てている」。「立ち」は「立つ:(雲が現れる)」の連用形。

  「継る」は「重なる」。

 

 *私の戀慕う想いが三笠山に雲としてどんどん重なっているのです。

  貴方も三笠山の雲を見て私の気持ちを判ってください。

2640・梓弓 引見弛見 不来者不来 来者其其乎奈何 不来者来者其乎

(萬葉代匠記では 弛見は絶見)

 

   あづさゆみ ひきみゆるへみ こなばこず こばききをなか こなばこはきを

 

 

 訳:梓弓を 引いたり緩めたりして(威したりなだめたりして) 

   来ないのなら来ない(で良い) 来るのなら聞き分けの良い女(こ)だなあ 

   来なければ剛情だよなあ

 

**「ひきみゆるへみ」は「引いて見て緩めて見て」。「其」の音は「き」です。

   「きき」は「(聞く:相手の言葉を聞き入れる)の連用形の名詞」。

   「ゆるへ」は「ゆるふ:緩くする(後世では、ゆるぶ)」の連用形。

   「をなか」は「をな:女・おなご」+「か:終助詞~だなあ」。

   「こはきを」は「こはき:(こはし:剛情だ)の連体形+を:詠嘆の終助詞~よ」で「剛情

   だよなあ」。

 

 *この詩、男が女性を誘っているのでしょうか。

  それにしても現代では考えられないほどの傲慢な言い分ですね。

 

2647・東細布 從空延越 遠見社 目言踈良目 絶跡問也(類聚古集では 問也は間也)

 

   あづまひれ そらゆはへこし とほみこそ めことしくらめ たえすととふや

 

 訳:私の妻の領巾(ひれ・スカーフ)が 空から延びて降って来ました

   遠くから見張っていて 恐らく度々見て云っているのだろう 

   別れましょうかと訊いているのだろうか

 

**「東」は「あづま:吾妻」。「はへこし」は「はへ:延びる+こ:来(未然形)+し(過去の

  助動詞、連体形)」で「延びてきた」。「とほみ」は「遠くから見張る」。

  「めこと」は「見て云うこと」。「踈」は「しく(頻く:度重なる)」。

  「らめ」は推量の助動詞。「たえす」は「途中で切れる」。

 

 *小心者が不貞をしていて、妻におびえている様子です。

 

2650・十寸板持 盖流板目乃 不令相者 如何為跡可 吾宿始兼

 

   しゃくをもち おへるいための あはせなば いかにせむとか わがねそめかね

 

 訳:笏を持つ身になって 背負っている重責に 対応できなかったら 

   どうしたら良いのか 私は寝付くことが出来ません

 

**「十寸板」は「尺板:せきばん・笏:しゃく(文官が役職に就き、束帯に合わせて

   手に持つ」。「盖・蓋」は「おほふ:負ふ」。

  「いため」は「いたむ:苦しい思いをさせる」の連用形の名詞で「重責」。

  「あはせなば」は「あはせ:(あはす:適合させる)の未然形+な:打ち消しの助動詞の

  未然形+ば:接続助詞」で「適合出来なかったら」。

 

 *若者が昇官して、緊張しています。うぶな心根がとても伝わってきますね。

 

2652・妹之髪 上小竹葉野之 放駒 蕩去家良思 不合思者

 

   いもしかみ うへささはぬし はなれこま しまらにけらし あはずともへば

 

 訳:妻の髪は (頭の)上が小竹葉野で 離れ駒のように暴れています 

   だらしない様に見えます (人に)会わないと思っているので

 

**「蕩」は「だらしない」。「しまらに」は「しまる:固く結ぶ・きちんとする」の未然形+

  に:否定の助動詞(ず)の連用形。「けらし」はこの場合断定するのをぼかした表現。

 

 *妻は、誰にも会わないと思って、いつも髪の毛が笹の葉のように乱れたままで、とてもだら

  しないです。

  私としては、もう少し身だしなみを良くして欲しいなあ。妻には直に言えないけれど。

 

2653・馬音之 跡杼登毛為者 松陰爾 出曾見鶴 若君香跡  

 

   うまのねし あとびともせば まつかげに いでてそみつる もしやきみかと

 

 訳:馬の鳴く声がして(棺が出発して) 送り火を灯したら 松の陰に 

   出てきたのが見えました もしや貴方ではないかと(思う人が)

 

**「あとび」は「送り火」。

 

 *今も昔も、このような話をする人がいますね。

  この詩の詠手は、純粋に彼に会いたい気持ちから、そう思ったのでしょう。