日本の古代探索 -2ページ目

日本の古代探索

古事記・日本書紀・万葉集の文や詩を通して我々の先祖の生きざまを探ってゆきたいと思います。

2599・験無 戀毛為鹿 暮去者 人之手枕而 將寐兒故

 

   しるしなき こひもなししか くれさらば ひとしてまきて いねむこゆゑに

 

 訳:報いもない(満たされない) 恋をしたのかなあ 夜になると 

   人の(私の)手を枕に 寝てしまう(ような)子(娘)なのだもの

 

**「しるし:験」は「効験・むくい」。「しか」は「し:過去の助動詞の連体形+か:疑問の助

   詞」。「ひと」は、相手に対して他の人、乃ち自分(私)。「ゆゑに」は「なのに」。

 

 *他の人と共寝をする女性を好きになるのは「片想い」で始めから「験」など期待できませ

  ん。

 *私が恋した彼女は、私の気持ちなど考えずに、さっさと独りで寝てしまうのです。

  あまい夢を想像していた私が間違っていたのかなあ

 

2605・玉桙之 道去夫利爾 不思 妹乎相見而 戀比鴨

 

   たまほこし みちゆくぶりに おもはぬに いもをあひみて こふるころかも

 

 訳:街道の 道を行ってしまう様子に 見えなかったので 彼女と顔を見合わせて 

   恋するチャンスだなあ

 

**「ぶり」は「様子」。

 

 *道で行きずりに顔を見合わせ、お互い、一目惚れかな。

 

2606・人目多 常如是耳志 者 何時 吾不戀將有(嘉暦傳承本では 候者は侯者)

 

   ひとめさは つねかくのみし さもらはば いつのまさかも われこひざらむ

 

 訳:人の目が多いと いつもそのようにばかり 気にしていたら どんなチャンスでも

   私は恋をすることが出来ないことでしょう

 

**「さは」は「多」という意味の名詞か「さはなり」と言う形容動詞の語幹。

  「さはまく:多く巻き付ける」や「さはやま:沢山・たくさん」などの例があります。

  「候」は「うかがう・さぐる」。「さもらは」は「さもらふ:様子を窺う」の未然形。

  「まさか」は「まさにこの時・目の前」。

  「ざらむ」は「ずあらむ:ず(打ち消しの助動詞の連用形)+あら:(有り)の未然形+む:

  推量の助動詞」の略で「~をしないであるでしょう」。

 

 *人目を憚ってためらってばかりいたら、戀はすぐに逃げて行ってしまい、一生恋なんて出来

  ませんよ!ここと思った時には、思い切って積極的に動きなさいね。

 

2609・白細之 袖者間結奴 吾妹子我 家當乎 不止振四二

 

   しろたへし そではまゆひぬ わぎもこが いへにむかふを とめずふりしに

 

 訳:白い寝間着の 袖がほつれてしまいました 彼女が 家に帰るのを 

   引き止めずに(袖を)振っていましたので

 

**「まゆひぬ」は「まゆひ:(まゆふ・まよふ:糸がほつれる)」の連用形+ぬ:完了の助動詞

  の終止形」。「當」は「向かう」という意味があります。

   「とめず」は「とめ(とむ:制止する)の未然形+ず:打ち消しの助動詞」。

   「ふりしに」は「ふり:(振る:左右に振る)の連用形+し:過去の助動詞(き)の連体形

  +に:指定の助動詞(なり:~である)の連用形(中止法)」。

 

 *この詩、詠み手(男)が「しろたへし 袖」がほつれたと言っています。「しろたへ」の衣

  は「寝間着」と思われますから、男が寝間着で女性の家を訪ねたりはしないと思いますか

  ら、この「吾妹子」が詠み手の家から出て行ったので、袖を振って別れを惜しんだと思われ

  ます。女性が男性の家を訪れて共寝をしていたこともあったようですね。

 

2610・夜干玉之 吾黒髪乎 引奴良思 亂而反 戀度鴨

 

   ぬばたまし わがくろかみを ひきぬらし みだしてかへす こひわたるかも

 

 訳:真っ黒な 私の黒髪が 大好きなようでした 

   (私の髪を)乱しては元に戻すのです 恋続けてしまうことでしょう

 

**「ひきぬらし」は「ひき:(引く:ひいきにする・このむ)の連用形+ぬ:完了の助動詞の

  終止形+らし:推定の助動詞」で「好みだったようです」。

 

 *私の黒髪をおもちゃにして、なんて可愛い人なの!ずーっと愛してしまいそうです。

 

 

2580・面形之 忘戸在者 小豆鳴 男士物屋 戀乍將居

 

   おもかたし わするこならば あづきなく をとこしものや こひつつをらむ

 

 訳:(私の)かおかたちを 忘れてしまう娘ならば 甲斐もないことで 

   男子たる者は 恋続けているだろうか、そんなことない

 

**「おもかた」は「おもざし」。「わするこ」は「忘れる(意識して)娘」。

  「戸」の音は「こ」。「や」は間投助詞。「ものや」の「や」は反語。

  「あづきなく」は「あぢきなし:甲斐もない・骨折り損だ・矛盾している」の連用形。

 

 *私に興味を感じない娘は、こちらの方から御免こうむりたいよ。

 

2581・言云者 三三二田八酢四 小九毛 心中二 我念羽奈九二

 

   いひいへば みみにたやすし すくなくも こころのうちに わがもはなくに

 

 訳:あれこれと様々な事を云ってくれるので 聞いて わかりやすいです 大いに 

   心の内で 私は(そう)思っています

 

**「いひいふ」は「言ひ合ふ・あれこれと様々に云ふ」。「みみに」は「聞くのは」。

  「たやすし」は「容易だ・わけはない」。

  「すくなくも」は下に打ち消し・反語の表現を伴って(もはなくに)「少しばかり~思っては

  いないはない・大いに~思っている」。

 

 *あの人のことは、皆はクドいって言うけれど、私はかえって良くわかって、有難いです。

 

2584・大夫登 念有吾乎 如是許 令戀波 小可者在来

 

   ますらをと おもへるわれを かくばかり こひせしめるは くはしはありき

 

訳:男丈夫だと 思っている私を これほどに 恋しく想わせる(娘:こ)は

  美しい(娘で)あったよ

 

**「小可」は「小生、或いは、小さいこと・ささいなこと:くはし→美しい」。

 

 *男の中の男と自負している私を夢中にさせた娘は、それはもう本当に美しい娘だよ。

  男としては当然惚れるさ!

 

2585・如是為乍 吾待印 有鴨 世人皆乃 常不在國

 

   かくしつつ われまつしるし あらむかも よのひとみなの つねあらなくに

 

 訳:このようにただ居て 私が待っている(良い)兆しが あるのかなあ 

   世の中の人皆 普通はありませんよねえ

 

**何もしないで待っていても 素敵な人には逢えませんよねえ。

 

 *私だけは別だ。神様が見ていてくださるから!と思って婚期を逸する人が多いのです。

  今も昔も。

 

2595・夢谷 何鴨不所見 雖所見 吾鴨迷 戀茂爾

 

   ゆめにだに なにかもみえず みゆれども われかもまどふ こひのしげるに

 

 訳:夢だとしても 何か良くわからなく 思えるのですが はたして私かなあ 

   (この現状に)思い惑います 恋して共寝をしているというのに

 

**「だに」は仮定を表す副助詞。 「なにかも」は「なに:代名詞(疑問・不定のもの)+

  かも:詠嘆を込めた疑問の係り助詞(~かなあ)」。「しげる」は「男女が交歓する」。

 

 *戀慕っていた彼とこうしているのが何か信じられなくて!

 

 

2568・凡 吾之念者 如是許 難御門乎 退出米也母

 

   おほろかに われしおもへば かくばかり なやむみかどを まかりでめやも

 

 訳:いい加減に 私は考えていたので こんなにも 悩んでいる天皇(の御前)から 

   (私は)退出することが出来なくなってしまったなあ

 

**「おほろかに」は「いい加減に」。「難」は「なやむ」。「みかどを」は「みかど:天皇」、

  「まかる:退出する」とあるから「を」は格助詞(~から)で「天皇の御前から」。

 

 *たいしたことではない、通り一遍の報告で済むと思っていたのに!困ったなあ。

 

2572・偽毛 似付曾為 何時從鹿 不見人戀爾 人之死為

 

   いつはりも につきてぞする いつよりか みぬひとこひに ひとししにする

 

 訳:嘘でも 本当のようにしている(と) いつの間にか 偽りの恋に 

   人は夢中になります

 

**「いつはりも」は「嘘も」。「につき」は「似つく:様子がぴったり似る(連用形)」。

   「みぬひとこひ」は「見ていない人との恋・偽りの恋」。「しにする」は「死ぬことをする」  

  で「死ぬほど恋する・夢中になる」。

 

 *本当はそれほど好きではなくても、合わせて付き合っていると、夢中になってしまうもので

  す。(現在横行しているロマンス詐欺とは違います)

 

2573・情左倍 奉有君爾 何物乎鴨 不云言此跡 吾將竊食

 

   こころさへ ささぐるきみに なにもかも いはぬことごと われぬすまむを

 

解釈:心まで全て 捧げている貴方のために どんなことでも 

   おっしゃらないいろんな事を 私は盗み取って(貴方に)尽くしますよ

 

**「いはぬことごと われぬすまむを」は「(貴方が云わぬ事)思っていることを 

  そっと私の物にしますよ」で「(貴方が)おっしゃらないことでも思っていることを(感じ 

  取って)自分の身に着けて貴方に尽くしますよ」。

 

 *このような女性が好きになった男性は、幸せ者です!

 

2574・面忘 太爾毛得為也登 手握而 雖打不寒 戀云奴

   (嘉暦傳承本では 戀云奴は 戀之奴)

 

   おもわすれ だにもえしやと たにぎりて うてどもぬるし こひといふやつ

 

解釈:顔を見忘れて居ること さえもいいじゃないかと(云うので) 手(拳)を握って 

   叩いてもそっとです 恋していると言う事でしょう

 

**「だにもえしや」は「だにも:さえも+えし:よし+や:詠嘆の終助詞」。

  「寒」に「凍る」という意味はなさそうです。

  「不寒」は「寒くない・きびしくない:ぬるし:恐ろしくない・そっと」で

  「こりず:凍りず」の読みは無理。

 

 *「君、誰だっけ! あっ そうか ごめんごめん」とでも言われたのでしょうか。

 

2575・希將見 君乎見常衣 左手之 執弓方之 眉根掻禮 

 

   のぞみみむ きみをみるとそ ひだりてし とりゆみかたし まゆねかかるれ

 

解釈:遠くから あの方を見ていると 左手で弓を持っています (もう)片方(右手)で

   眉を掻いていらっしゃるので

 

**「のぞみみむ」は「(何か目標を狙って)遠くを見ようとしている」。

  「君」は「あなた・愛しい方」。「かたし」は「片方」。

  「かかるれ」は「かか:(掻く)の未然形+るれ:尊敬の助動詞(る)の已然形(条件句~の 

  で)」。

 

 *右手で弓を持たないで、左手で弓を持っていらっしゃいましたが、右手はふさがっていたの

  ですね、眉を掻くために