2599・験無 戀毛為鹿 暮去者 人之手枕而 將寐兒故
しるしなき こひもなししか くれさらば ひとしてまきて いねむこゆゑに
訳:報いもない(満たされない) 恋をしたのかなあ 夜になると
人の(私の)手を枕に 寝てしまう(ような)子(娘)なのだもの
**「しるし:験」は「効験・むくい」。「しか」は「し:過去の助動詞の連体形+か:疑問の助
詞」。「ひと」は、相手に対して他の人、乃ち自分(私)。「ゆゑに」は「なのに」。
*他の人と共寝をする女性を好きになるのは「片想い」で始めから「験」など期待できませ
ん。
*私が恋した彼女は、私の気持ちなど考えずに、さっさと独りで寝てしまうのです。
あまい夢を想像していた私が間違っていたのかなあ
2605・玉桙之 道去夫利爾 不思 妹乎相見而 戀比鴨
たまほこし みちゆくぶりに おもはぬに いもをあひみて こふるころかも
訳:街道の 道を行ってしまう様子に 見えなかったので 彼女と顔を見合わせて
恋するチャンスだなあ
**「ぶり」は「様子」。
*道で行きずりに顔を見合わせ、お互い、一目惚れかな。
2606・人目多 常如是耳志 候者 何時 吾不戀將有(嘉暦傳承本では 候者は侯者)
ひとめさは つねかくのみし さもらはば いつのまさかも われこひざらむ
訳:人の目が多いと いつもそのようにばかり 気にしていたら どんなチャンスでも
私は恋をすることが出来ないことでしょう
**「さは」は「多」という意味の名詞か「さはなり」と言う形容動詞の語幹。
「さはまく:多く巻き付ける」や「さはやま:沢山・たくさん」などの例があります。
「候」は「うかがう・さぐる」。「さもらは」は「さもらふ:様子を窺う」の未然形。
「まさか」は「まさにこの時・目の前」。
「ざらむ」は「ずあらむ:ず(打ち消しの助動詞の連用形)+あら:(有り)の未然形+む:
推量の助動詞」の略で「~をしないであるでしょう」。
*人目を憚ってためらってばかりいたら、戀はすぐに逃げて行ってしまい、一生恋なんて出来
ませんよ!ここと思った時には、思い切って積極的に動きなさいね。
2609・白細之 袖者間結奴 吾妹子我 家當乎 不止振四二
しろたへし そではまゆひぬ わぎもこが いへにむかふを とめずふりしに
訳:白い寝間着の 袖がほつれてしまいました 彼女が 家に帰るのを
引き止めずに(袖を)振っていましたので
**「まゆひぬ」は「まゆひ:(まゆふ・まよふ:糸がほつれる)」の連用形+ぬ:完了の助動詞
の終止形」。「當」は「向かう」という意味があります。
「とめず」は「とめ(とむ:制止する)の未然形+ず:打ち消しの助動詞」。
「ふりしに」は「ふり:(振る:左右に振る)の連用形+し:過去の助動詞(き)の連体形
+に:指定の助動詞(なり:~である)の連用形(中止法)」。
*この詩、詠み手(男)が「しろたへし 袖」がほつれたと言っています。「しろたへ」の衣
は「寝間着」と思われますから、男が寝間着で女性の家を訪ねたりはしないと思いますか
ら、この「吾妹子」が詠み手の家から出て行ったので、袖を振って別れを惜しんだと思われ
ます。女性が男性の家を訪れて共寝をしていたこともあったようですね。
2610・夜干玉之 吾黒髪乎 引奴良思 亂而反 戀度鴨
ぬばたまし わがくろかみを ひきぬらし みだしてかへす こひわたるかも
訳:真っ黒な 私の黒髪が 大好きなようでした
(私の髪を)乱しては元に戻すのです 恋続けてしまうことでしょう
**「ひきぬらし」は「ひき:(引く:ひいきにする・このむ)の連用形+ぬ:完了の助動詞の
終止形+らし:推定の助動詞」で「好みだったようです」。
*私の黒髪をおもちゃにして、なんて可愛い人なの!ずーっと愛してしまいそうです。