日本の古代探索

日本の古代探索

古事記・日本書紀・万葉集の文や詩を通して我々の先祖の生きざまを探ってゆきたいと思います。

 

 

2535・凡乃 行者不念 言故 人爾事痛 所云物乎

 

   おほよその みちはおもはぬ ことゆえに ひとにこちたく いはれるものを

 

 訳:普通 常識では思わない (私の)発言なのだから 他のひとからうるさく 

   言われるのだなあ

 

**「行」は「みち:道義」。「こちたく」は「言痛し」の略で「こちたし:うるさい・甚だ多

  い」の連用形。「ものを」は「~のに・~ので・~のだなあ」。

 

 *あんなことを言って、私は常識が無い人だと思われたのだなあ。

 

2543・吾戀之 事毛語 名草目六 君之使乎 待八金手六

 

   わがこひし こともかたりて なぐさめむ きみしつかひを まつやかなでむ

 

 訳:私が好きな 琴でも語って (自分の気持ちを)慰めます 貴方の使いを 

   待つのでしょうか いいえ(琴を)奏でています

 

**「かたり」は「かたる:琴に合わせて節をつけて語る」の連用形。

  「なぐさむ(下二段)」は「気持ちを和らげる・まぎらわす」。

  「まつやかなでむ」は「待つ+や:係助詞(反語)+かなで:(かなづ:弾く)の未然形+

  む:推量・意志の助動詞の連体形」。

 

 *いつまで待っても、貴方の使いがいらっしゃらないから、もう私は待ちません。

  私は好きな琴を弾くことにします。強い女性は昔も居たのですねえ

 

2549・妹戀 吾哭涕 敷妙 木枕通 袖副所沾

(或本の歌に云う 枕通而 巻者寒母 亦嘉暦傳承本では 木枕通は 木枕通而)

 

   いもにこひ わがなくなみだ しきたえの こまくらとほし そでそひひたゆ

 

 訳:妻が恋しくて 私が泣く涙が 寝床の 木の枕をつたって 

   袖に着いて濡れてしまいます

 

**「しきたへ」は」「寝床」。

  「副」を従来「添(そ)へ」の転とされ「さへ:その上~まで」と読まれています。

  「そひ」は「そふ:付き加わる・着く」の連用形。「ひたゆ」は「ひた:(ひつ:漬つ:濡れ

  る)の未然形+る:自然発生の助動詞、終止形」。

 

 *独り寝をしていて、亡くなった妻を思いだして涙がこぼれてきたのでしょう。

 

2557・垂乳根之 母白者 公毛余毛 相鳥羽梨丹 年可經

 

   たらちねの ははのまをすは きみもよも あひどりはりに としのへむべし

 

 訳:育ててくれた 母が申すには 貴方も私も 手を取り合って(世の荒波に)対抗して 

   年を過ごして行かなければなりませんと

 

**「まをす」は「まうす:の上代語:云う・願う」。「よ」は「私」。

  「あひど(と)り」は「物事を共に行うこと」。

  「はり」は「はる:負けまいと対抗する」の連用形。

 

 *貴方たち兄弟は、もう立派な大人ですから、これからは兄弟仲良く助け合って、

  世間を渡っていかなければいけませんよ

 

2558・愛等 思篇来師 莫忘登 結之紐乃 解樂念者

 

   いとほしと おもへりてこし なわすれと むすびしひもの とけらくもへば

 

 訳:可愛い娘だと言う 顔(想い)を続けて来ました 忘れないよと(言って)

   (二人で) 結んでおいた紐が 解けてしまうと思ったので

 

**「愛」は「いとほし:かわいらしい」。「おもへり」は「顔色・顔つきをしている」の連用

  形。「なわすれ」は「忘れない」。

 

 *いつもあの娘のことを愛していると言っていないと、あの娘の気持ちが他に動いてしまうよ

  うな気がして心配。(あの娘はもてるからなあ)

  外国の男性は、常に奥さんに「愛しているよ」と言うようですが、これも心配だからでしょ

  うか。日本人も昔は一緒だったのですねえ。

2523・散頬相 色者不出 小文 心中 吾念名君

 

   ちりつらふ いろにはいでず すくなくも こころのうちに わがもふなきみ

 

 訳:(貴方が)心が乱れるほど誘惑し続けても 顔には出しません

   (私の顔色は変わりません) 絶対に 心の中で決めて 私が貴方を

   思い慕ってはいけないのです

 

**「ちりつらふ」は「ちり:(散る:心が乱れる)の連用形+つら:(釣る:誘惑する)の

  未然形+ふ:反復の助動詞」で「心が乱れるほど誘惑し続けて」。

  「すくなくも」は必ず、下に打ち消し・反語の表現を伴って「少しばかり~ではない・

  大いに~だ」。

  「わがもふなきみ」は「わが:私が+もふ:(おもふ:想い慕う)の終止形+な:禁止の終助

  詞+きみ:貴方(倒置文)」で「貴方をお想い慕ってはいけないのです」。

 

 *私の親しい友達の彼ですもの、私が貴方を恋することは出来ません。

 

2525・懃 片念為歟 比者之 吾情利乃 生戸裳名寸

 

   ねもころに かたおもひすか このころし わがおもへりの はゆるへもなき

 

 訳:心深く 片想いをしているのでしょうか 近頃は 私の想いの 

   進展する兆しもありません

 

**「おもへり」は「おもへ:(想う:戀慕う)の已然形+り:継続の助動詞の連用形(名詞

  形)」で「想っていること・想い」。

  「生」は「はゆる:(はゆ:いっそう盛んになる・更に進展する)の連体形」。

  「はゆるへ」は「進展する方向:きざし」。

 

 *こんなに想っているのに、何時になっても、彼は振り向いてくれません。

  やっぱり片想いなんだ。

 

2528・左不宿夜者 千夜毛有十万 我背子之 思可悔 心者不持

 

   さねぬよは ちよもありとよ わがせこし おもひくゆべき こころはもたじ

 

 訳:共寝をしない夜は 沢山(千夜も)ありますよ 彼は

   (私を)想って悔しく思うような 心は持っていないでしょうね

 

**「十万」の「万:よろづ」は「よ」と読む。「とよ」は「~だったか・~ですよ」。

  「悔ゆ(ヤ上二)」は「後悔する・悔しく思う」。

 

 *私は逢えない夜は、いつも(逢えなくて)悔しいのに、あの人はきっと平気なんだわ!

 

2530・璞之 寸戸我竹垣 編目從毛 妹志所見者 吾戀目八方

 

   あらたまし きへがたけがき あみめゆも いもしみゆるは われこひめやも

 

 訳:年が変わり 古い竹の垣根の 編目からも 彼女を見慣れるということは 

   私は恋しているのだなあ いやそんなことはない

 

**「あらたまし きへ(来経・きふ:年月が経過する)の連体形」は「年が改まって

  古い」。「みゆる」は「みゆ:見慣れる」の連体形。「めやも」は反語。

 

*長いこと通っていて、竹垣の編目の間から彼女をいつも見ている内に、彼女に、

 まさか、恋してしまったのだろうか

 

2533・面忘 何有人之 為物焉 言者為金津 継手志念者(嘉暦傳承本では 焉は鳥)

 

   おもわすれ いかなるひとし するものか ことはしかねつ つぎてしもへば

 

 訳:顔を見忘れてしまって どのような人と 思ったら良いのだろうか 

   会話をすることが出来ませんでした ずっと考えていたので

 

**「おもわすれ」は「顔は見知っているけれどどこの誰だか思い出せない」。

  従来「言」を2129の詩で元暦校本が「吾恋」を「言恋」としていたからと言って「寛永版本 

  の2533の詩」の「言」を「吾」に換えるのは如何でしょうか。

  この詩の「言」は「挨拶・会話」です。

  「するものか」は「思ったら良いのか(反語:迷っている)」。

  「てし」は「~しておいた・~ておいた」。

  「つぎてしもへば」は「続いて考えていたので」。

 

 *これは良くあることですね。一生懸命思い出そうとすればするほど判らなくて焦ってしまう

  ものです。

  にっこり笑って別れて、しばらくして「あ!そうだ」、もう遅いのです。

2516・敷細布 枕人 事問哉 其枕 苔生負為

 

   しきたへの まくらのひとの こととふや そのまくらこそ こけむしおはせ

 

 訳:寝床の 枕(を使う)人は いらっしゃるかなあ その枕には 

   苔が生えておしまいになっていますよ

 

**「こととふ」は「訪れる」。「こそ」は係り助詞で「こそ~だろうが(そんなことにはならな

  い)」。「おはせ」は「おはす:居る、の尊敬語、の已然形。前の(こそ)を受けて」。

 

 *貴方がずっと来ないから、貴方が使う枕に苔が生えてしまいますよ

 

正述心緒(ただに想ひを述べる)

 

2517・足千根乃 母爾障良婆 無用 伊麻思毛吾毛 事應成

 

   たらちねの ははにさはらば なきようの いましもわれも ことをなすべし

 

 訳:育ててくれた 母に迷惑が掛かるのならば (家で)役に立たない お前も俺も 

   (公の)仕事をしなければなるまい

 

**「たらちねの」は「手塩に掛けて育ててくれた」。「さはらば」は「さはら:(さはる:じゃ 

  まになる)の未然形+ば:接続助詞」。「よう:用:有用・役に立つこと」。

  「無用」は「用が無い:役に立たない」。「いまし」は「お前」。

  「こと・事」は「(公の)仕事」。「應」は「まさに~すべし」。

 

 *二男と三男の会話のようです。いつまでぶらぶらしているのかい?て母親にいわれたのでし

  ょうねえ。田の仕事は両親と長男がやっているのでしょう。

 

2519・奥山之 眞木乃板戸乎 押開 思惠也出来根 後者何將為

 

   おくやまし まきのいたどを おしひらき しゑやいでこね のちはなにせむ

 

 訳:気が咎めるけれど ま新しい木の板戸を 押開いて さあ 出ておいで 

   (でも、出てきたら)後はどうしよう

 

**「おくやまし」は「心の底では悩ましい(やまし:気が咎める・不滿だ)」。

  「いゑや」はかけ声で「ままよ・ええい・さあ」。

 

 *偶然会った女性に気が引かれ、前後の見境無く、思わず扉を開けて声を掛けてしまったよう

  な状況でしょうか。いきなり、プロポーズする肝があるかなあ。

 

2521・垣幡 丹頬經君叨 率爾 思出乍 嘆鶴鴨

 

   かきつばた にほへるきみと あどもひに おもひいでつつ なげきつるかも

 

 訳:カキツバタのように 凜々しい貴方と 一緒に 思い出しながら 嘆きましたねえ

 

**「率爾」について「ゆくりなく:だしぬけに」・「いささめに:いいかげんに」と読まれ解釈

  されています。特に「ゆくりなく」は名義抄(類聚名義抄)に「率爾:ゆくりなく」とある 

  から、とされていますが、名義抄は経典の読みを中心にしているきらいがあり、又、12世紀

  に書かれた物です。字句として「率:あどもふ」は「連れ立つ・隊列を組む」などの意か

  ら、「呼びかけ」の語として使われた場合もありそうです。「突然呼びかけられる」という意

  味から「不意に:ゆくりなく」の解釈が生まれた可能性もあり、「率爾」を画一的に「ゆく

  りなく」と読むのは危険です。

  この詩の場合「あどもひに」は「共に・一緒に」です。

 

 *初めて逢った頃を思いだし、再び遇ったときに、一緒になれなかった昔の境遇を嘆いたのを 

  二人で思いだしています。その後から、今は一緒に居るのです。

 

2522・恨登 思狭名盤 在之者 外耳見之 心者雖念

 

   うらめしと おもふさなだい ありしもの そとのみみえし こころはもへど

 

 訳:心の底で不滿に 思っているのは 高名な人です 外見ばかり見られて 

   心では(いろいろ)思っているのに

 

**「うらめしと」は「悲しいと・心の底で不滿だと」。

  「盤」は「臺:だい」で「なだい」は「名臺:高名な(人)」。「さ」は接頭語。

  「ありしもの」は「そうである人」。

  「みえし」は「みえ:(みゆ:見られる)の連用形+し:強意の副助詞」。

 

 *有名な人は、外見や噂からばかり判断されて、自分の本当の姿が判ってもらえない悩みを抱

  えているのです。今も昔も同じだと云うことですね