杉さんから送ってもらっていたのに、まだ紹介していない写真がありました。トビズムカデの、これはまだ成長途中の個体かな。校舎の軒下で見つけたそうです。トビズムカデはオオムカデ目と呼ばれる大型のムカデの仲間で、体長は10cmを超えてきます。
トビズムカデの名前は頭部が鳶色(暗い赤褐色)をしていることに由来します。漢字で書くと分かりやすくて鳶頭(とびず)ということですね。
ムカデの類の化石は4億2000万年前の古生代シルル紀の地層から化石が見つかっています。我々脊椎動物が魚から両生類になって上陸に成功したのはシルル紀の次のデボン紀だから、ムカデは脊椎動物よりも一歩進んだ生き物だった頃もあるのです。
上陸したての我々の祖先は、すでに陸上進出していたムカデの類に狩られていたことでしょう。その頃の恐怖の記憶がDNAに刻まれているのか、見ていると恐ろしく、どうにも好きになれません。
下の写真は、前に勤めていた学校で、桜の枝から私の頭の上にジャンプしてきたトビズムカデです。20cmくらいありそうな立派な個体でした。
ムカデでは特に分かりやすいのですが、同じような構造が繰り返して身体がつくられているとき、その構造を体節と呼びます。
大学生の頃、動物学の先生から節足動物について学んだとき、我々脊椎動物の背骨が体節構造を取っているのはムカデやエビ、昆虫などを含む節足動物と共通の祖先を持っている証拠だよと教わりました。
今では高校生物の授業で学ぶことですが、ムカデとヒトは由来が共通した遺伝子群を持っています。言われてみたら、人間の背骨も腹筋も節々の構造から体節構造とみなすことができます。
さて、オオムカデの類は頭部に加えて21対の体節から構成されているものが多く、各体節から左右2本の脚が生えているから、42本の脚があるものが基本となり、トビズムカデも42本の脚があります。ムカデの仲間には100対を超える体節を持つものがあるから、ムカデを漢字で百脚と書くのは道理に合います。
私にもムカデと共通な遺伝子があることを教えてくれた先生が言っていましたが、ムカデはこんなにたくさん脚があるのに自分の脚を踏まないのかどうか気になって調べた人がいたようです。
その人は、当時、研究費をはたいて微速度撮影のできる高価な撮影機器を購入し、歩くムカデの脚を撮ってスローモーションで再生することで検証したそうです。
その方の報告によれば、「踏んでた」、という結論だったそうですが、美しくサインカーブを描きながら波打つように動くムカデの脚は流麗であり、かねてから、私にはムカデだって生物進化の果てにたどり着いた洗練された動物だと思いたい気持ちがありました。
「いや、踏んでないだろう。そんな間抜けなことになってないでしょう。」、と、いうのが私の意見でした。
しかし、今、当時は高い研究費をかけないと解決できなかった疑問も、杉さんがスマートホンで撮影した写真をよく見れば検証できそうです。拡大してみましょう。
これは…、踏んでますね。先細りのとがった脚の形が救いとなって、自分の脚を踏んでも歩き続けることができるのでしょう。
だから、なんだっていうんだよ、と、いう疑問でしたが、杉さんの写真がよく撮れていたので解決し、すっきりしました。