呼吸のしくみ ー回せ!ATP合成酵素 ATPを量産せよー | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 「呼吸」といえばミトコンドリア、これは真核細胞を特徴づける細胞小器官です。寄生性の好気性細菌が古細菌に入り込んで細胞内共生したものと考えられ、ATPを大量に生産し、真核生物の複雑化と多細胞化に貢献しました。

 

 以上のことは、以前、真核生物の誕生①に書きましました。今日は、「呼吸」の反応のあらましをプリントにまとめたものを紹介します。

 

 高校生の諸君には、これをよく読んだあとで教科書や問題集に戻ってもらいたいと思っています。すこし分かりやすくなっているはずです。

 

 

 まず、ミトコンドリアの形態の捉え方です。二重膜構造とり、外膜と内膜があるのが特徴です。

 

 

 真核細胞は、大きいものを取り込むとき、エンドサイトーシス(飲食作用)といって自らの細胞膜で包み込む方法をとるため、外膜は細胞本体に由来します。内膜が好気性細菌本体の細胞膜にあたります。

 

 

 ミトコンドリアのもとになった好気性細菌の特徴は、細胞膜にATP合成酵素を埋め込んでいたことです。これは、ATPを効率よく量産することができる、生物史上最高傑作といってよいタンパク質です。

 

 ミトコンドリアの祖先はもともと水素イオンの豊富な酸性の環境において、細胞内外の水素イオンの濃度差(pHの差ともいう)を利用してATP合成酵素をぐるぐる回し、ATPを合成して生活していたものと思われます。

 

 

 

 じゃんじゃん細胞内に入ってくる水素イオンは邪魔になるため、細胞膜上のプロトンポンプで細胞外に排出するほか、酸素(O)と反応させて水(HO)に変えて無害化し、処理していたのです。

 

 好気性細菌が酸素(Oを必要とする理由がここにあります。細胞内外の水素イオン濃度の勾配を保たないとATP合成酵素が停まってしまいますから。

 

 25億年前、地球大気に酸素が増えたころ、こんな形で酸素を利用できるタイプの細菌が現れていたのでしょうね。

 

 さて、古細菌に取り込まれた好気性細菌は、図らずも自分の体の周りを覆う形で膜間腔という袋を手に入れました。

 

 どうも、この膜間腔が細胞内共生がうまくいったポイントだったと思われます。外膜も内膜も生体膜ですから疎水性で水素イオンを透過しづらい性質を持っているので、膜間腔に水素イオンを満たし高濃度に保つことに好都合です。宿られた古細菌の細胞本体も高濃度の水素イオン(酸性ってことね)から守られます。

 

 

 ミトコンドリアは内膜の電子伝達系と呼ばれる水素イオンをくみ出すタンパク質(プロトンポンプ)を駆使して、膜間腔を水素イオンで満たしていきます電子伝達系は、電子(e -)が流れると水素イオンを膜間腔側にくみ出すポンプです。電気仕掛けですから、その辺にある機械のイメージでとらえてしまっていいですね。例えばお風呂の残り湯を洗濯機に入れたいときに使う、あの電化製品のポンプみたいなもの。

 

 測定では、ミトコンドリア内膜の内側と膜間腔の水素イオンの濃度差は実に1万倍(pHの差にして4)あるといいます。

 

 

 ここまでの説明でほとんど電子伝達系の説明をしました。

 

 続いてクエン酸回路です。

 

 膜間腔に水素イオンを満して濃度勾配をつくればATP合成酵素が回るとして、濃度勾配を維持するために補充すべき水素イオンと、電子伝達系というポンプを回すのための電子(e -)はどこから持ってくるかと言う問題があります。

 

 それを解決するのがクエン酸回路です。ミトコンドリアのマトリクス(好気性細菌の細胞質基質)にある酵素反応系です。

 

 

 クエン酸回路は、糖、脂質、タンパク質(アミノ酸)に由来する有機物を取り込んで分解し、水素イオン(H+)と電子(e -)を取り出すシステムなのです。炭素は二酸化炭素にして捨ててしまいます

 

 とは言っても、ミトコンドリアのマトリクスには、ATPを合成するときに中に入ってきた水素イオンを水にして除去するための酸素(O2が満ちています。もし何もしないと、せっかくクエン酸回路で水素イオンと電子を取り出しても、その場で酸素と反応して水になり、なくなってしまいます。

 

 そこで、水素イオン(H+)と電子(e -)を無事に電子伝達系まで持って運んでくれるやつが必要なんですが、ちゃんといるんですよねえ、そのためのやつが。水素(電子)受容体と呼ばれる、ヌクレオチドの仲間であります

 

 ヌクレオチドはATP、DNA、RNAという生命の本質を支える物質ですが、こんなところでも大活躍です。

 

 

 ミトコンドリアで働く水素受容体には2種類あって、NAD+とFADがあります。これまでの例にしたがってキャラクターにしてみて、自分でも、そうか、こんなやつらだったんだと、ようやくイメージを持つことができました。これで長らく正体不明だったNAD+もFADも、への河童です。

 

 

 NAD+は略称で本名はニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドと言いまして、名前の通りの姿格好をしていて、クエン酸回路で有機物から水素を取り出す仕事を脱水素酵素の補酵素として活躍した後、そのまま水素イオンと電子を持って電子伝達系まで運びに行きます。

 

 もう一つのFADはフラビン・アデニン・ジヌクレオチドと言いまして、クエン酸回路で特に、コハク酸をフマル酸に変える脱水素酵素の補酵素として働いた後、電子伝達系まで水素イオンと電子を運んでくれます。

 

 

 今見ると、ちょっとFADは絵としてダメですね。ジヌクレオチド(ヌクレオチドが2つという意味)に見えないものな。後で直しましょう。

 

 ところで、NAD+とFADのそれぞれで、水素と電子が結合する構造であるナイアシンとリボフラビンは、とても大切、というか、欠かせない物質であるにもかかわらず、我々ヒトは自分で作ることができません。そのため、食べ物から取り入れるか、腸内細菌が作ったものを拝借しています。

 

 不足すると水素受容体が作れないのでうまく呼吸ができず、ATPも作れません。

 

 様々な欠乏症の原因になる、こんな物質をビタミンというので覚えておきましょう。

 

 

  呼吸の反応をさかのぼる様に説明してきましたが、長くなったし、解糖系はミトコンドリアの外で行われる反応なので、別の機会にしたいと思います。

 

 ちなみにミトコンドリアには、解糖系の反応を行う能力がありません。これは、ミトコンドリアがもともと寄生性の細菌だと考えられている根拠です。