高校生物学習教材 ウイルスと細菌の位置づけ | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 休校が明けたら、きっと、生徒からウイルスとは何なのか質問を受ける予感がしています。

 

 高校生物ではまだ、ウイルスは大きく取り上げられていません。それはたぶん、ウイルスは物質としての側面が大きく、生物として扱ってよいか、学者の間でも意見が分かれているためです。

 

 遺伝物質とタンパク質の殻だけからなるウイルス。彼らはどう理解されようとしているのでしょう。

 

 ウイルスの素性については様々な仮説が提唱されていますが、その中の一つに、「ウイルスは、かつて大型の細胞に寄生する小型の細胞だった」、とする考え方(縮退説)があります。

 

 生物とウイルスの中間に位置するようなもの、たとえば「メガウイルス」なんてものが発見されたことがこの考えを支持しています。

 

 この仮説はストーリーが単純なので、高校生にウイルスの特徴を理解してもらうにはちょうど良さそうだと思ってプリントにまとめたものが下の図です。

 

 仮説の一つに過ぎないことを断った上で、生徒に紹介してもいいと思っています。

 

 

 そもそも私たちがウイルスを理解しづらいのには、「すべての生物は細胞からなる」、という、19世紀の昔に確立された「細胞説」に原因があります。20世紀の生物学を牽引した素晴らしい考えですけど、生物=細胞という定義ですので、生物なら細胞じゃないといけなくなるので窮屈です。

 

 今の生物学にも「細胞説」を是とする風潮があって、全生物の共通祖先は細胞と呼べる構造をもつとされています。

 

 つまり、①外界とは生体膜で仕切られて区画化され、②内部にはヌクレオチドを単位にした遺伝物質を含んでいて、③自己複製が可能で増殖し、④代謝(様々な物質の合成や分解)が可能であること。これらの特徴は、そのまま、「生物の定義」にもなります。

 

 先ほど述べた通りウイルスは細胞じゃありませんから、生物の定義からはみ出してしまいます。

 

 

 話をまとめにいきます。

 

 大昔に細菌(バクテリア)が多様な地球の環境に適応して多種多様に分化していき、、中には小型化、単純化して、寄生性を強くする方向に進んだものたちがいたのです。

 

 

 頑張って進化して複雑なしくみを獲得した頑張り屋がいる一方で、そうした生物にあやかって生活するやつらが現れるのは世の常なのでしょう。

 

 今でも、生きるための様々な能力が欠落していて他の生物の細胞の中でしか増殖することができない細菌がいます。世にはびこる、リケッチアとかクラミジアに代表される細菌たちがそうです。クラミジアなんて、生き物のくせにATPを合成する能力が無くて、宿主(寄生した先の生物をそういう)の細胞のATPを拝借して生きています。

  

 

 小型の細菌が他の生物の細胞の中に入り込んで生活することは珍しいことではなく、生物界では茶飯事です。 多くの場合、宿主細胞にとって、寄生されることは大きなストレスになります。この状態を感染と言い、宿主細胞は死んでしまったり自己制御不能になったりします。

 

 寄生性の細菌が宿主に対する依存の度合いを強め、細胞ですらなくなってしまったという縮退説では、ウイルスを、徹底した小型化と単純化、寄生性への特化の果てに、遺伝物質のみになった寄生性細菌の成れの果てと見做すわけです。完全寄生型の生物という見解になりますね。

 

 けれども、細胞説に頼り過ぎた今の生物学だと、寄生性の細菌は細胞でできているから生物だけど、ウイルスは生物じゃない、に、なってしまうんですよねー。今の高校の教科書でもそうなんですよ。

 

 そろそろウイルスをモノ扱いするのはやめて、生物の仲間に入れてあげてもいいんじゃないかという気がしてきます。19世紀に確立した細胞説にいつまでも縛られているのは、学問としていかがなものでしょうか。

 

 縮退説が正しいかどうかは分かりませんけど、ウイルスを生物と位置付けてあげることで、もっと自由に生物学を楽しむことができそうです。