パンダのお世話17 -最終話 パンダの生まれ変わりと出会うー | はし3の独り言

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腕時計に自転車、高校理科の話題が多いブログです。日常で印象に残った出来事も取り上げます。時間があって、気が向いた時しか更新できていませんが、ご愛顧よろしくお願いします。

 台風19号のせいで全損となった愛車パンダ。

 

 別れの時、彼は私に必ず生まれ変わると言い残しました。きっと、どこかで新しい車になって、私が迎えに来るのを待っているはずです。

 

 

 

 地に伏せた両手で一握の砂を握りしめたその日から、パンダを探す旅が始まりました。

 

 大きな川を二つ越え、しばらく行った先の草薙の地に、パンダがよく目撃されるというフィアットの里があります。

 

 私は旅の支度を整えると、その里を目指して出発しました。そこでパンダの生まれ変わりと出会える…。そんな予感がありました。

 

 里が近づくにつれて、どこからか、かすかに私を呼ぶパンダの声が聞こえたような気がしました。

 

 私の胸は、どきどきと期待に高鳴りました。必ずいる。もうすぐ会える予感がしました。

 

 フィアットの里に到着した私はさっそくパンダを探します。

 

 どこだ、パンダ。返事をしてくれ。必死になって呼びかけましたがパンダから返事はありませんでした。

 

 途方に暮れて泉のほとりでたたずんでいると、水面からお洒落な紳士が現れ、私にこう告げてきました。

 

 「パンダをお探しの方ですね。どうぞ、こちらにお越しください。あなたのパンダは新車に生まれ変わり、あなたが迎えに来るのをずっと待っているのです。」、と。

 

 おお、よかった。やはり、ここにきて間違いはなかったのだ。

 

 「掟によりパンダはあなたに見つけてもらうまで、声を出すことが禁じられています。あなたがパンダに再会できるかどうかはあなた自身の選択にゆだねられているのです。」

 

 紳士が言い終わるが早いか、私の目の前に、泉から二台の車が現れました。

 

 「もし間違ったときには、パンダと再会する願いは永遠に叶わぬものとなるでしょう。悔いのない選択をなさいませ。あなたのパンダはどちらですか?」

 

 一台は、アバルト595でした。熱い走りが特徴のバリバリマシンです。もうこの際だっ。いっちゃおうかなー、と、私を悩ませるくらいのに十分なスペックを持っていました。

 

 もう一台は、アバルト124スパイダーでした。かつてロードスターNAとNCに乗っていた私の目には宝石のような存在です。何よりデザインが秀逸です。現行NDのフロントグリルが趣味に合わない私にピッタリ。これに乗ったら絶対に楽しい。もう後部座席なんていらなーいっ…と思わせてくれるほどのオーラを発していました。

 

 しかし、もういい年をしたおっさん教師になっているのに、毎朝、登校中の生徒に視線にさらされながら爆音を響かせて校門を通る勇気は持てません。それに、そもそも、私はスピード出す方じゃないしな。 アバルトには惹かれるが、現実的にちょっと厳しい。

 

 私は、「困りました。どちらもパンダの生まれ変わりではありません。」、と、紳士に告げました。

 

 それまで感情を出さなかった紳士の表情から笑みがこぼれ、「おめでとう。よく見抜きましたね。少しあなたを試してみたのです。」、と言うと、やっと泉からパンダが現れました。

 

 パンダだ、と、思ったんですが、それは、パンダ4×4スッコーサでした。オレンジ色の車体がまぶしい。若い人が乗るときっと似合う。

 

 そう、もう五十路を辿る私には、このカラーリングは少々辛いものがありました。

 

 パンダ4×4は期間限定で色が違うものを全国100台ずつとか売り出していて、丁度、今はオレンジ色のものしか売られていないのです。あの真っ黒けっけのパンダとはシルエットやスペックは同じでも、まるで違う車なのでした。

 

 私は、紳士に、「もう、私を試すのはやめてください。私は、私のパンダの生まれ変わりに合いたいのです。」、と、伝えました。

 

 すると紳士は、「なんとうことだ。ここまで誘惑に棹差さない人間が存在するとは・・・」、と、悔しそうに言うと、どろんと煙の中に消えました。

 

 煙が晴れると、私の目の前に一台の車が現れました。

 

 

 それはフィアット500(チンクエチェント)タキシードでした。フィアット社120周年記念の特別限定車で、イタリアと日本の美意識が調和したデザインが美しい。500の1.2ラウンジをデコりにデコった、フィアット社入魂の一台です。

 

 

 一切の加筆を受け付けない完成された車体のシルエットもさることながら、この黒を基調にしたインテリアが私のハートを鷲づかみ(ぐはー)。

 

 私はそっと車に近づくと、「私のパンダだよね。」、と、語りかけました。

 

 すると、「きっと見つけてくれると信じていたよ・・・」、と、懐かしい声が聞こえてきました。

 

 こうしてあの悪魔のようなの嵐の日から一カ月、私たちはようやく再会を果たしたのです。

 

 

ーパンダのお世話 完ー