今朝、入院中の愛車フィアットパンダが夢枕に立ち、唐突に別れを告げてきました。
一日も早いパンダの復帰を心待ちにしていた私は驚き、いったい何があったのか聞いてみました。
パンダは悲しげにうつむいたまま、浸水による電気系統のダメージが回復不能だということと、エンジンやシャシーにも影響が及んでいることを話してくれました。
「もう、この身体では、君を運んであげられないのだよ。」
パンダはそう言うと、ゆっくり背を向け、暗闇の中に消えていきます。
こんなことがあってたまるものか、と、私は、消えゆくパンダを必死に追いかけました。
パンダと出会って一年あまり、先日、最初の点検を済ませ、記念にシートカバーを買ってあげたばかりでした。私はパンダのことをとても気に入っていて愛着も持っていたし、これから10年は乗り続けるつもりでいたのです。蜜月と言っていい時間を共に過ごしてきたのに、こんな終わりが待っているなんて。
「追いかけてきては、ダメだ。」
と、パンダは私を制します。
「これ以上、近づいたら、君まで・・・。」
パンダの声も必死になってきました。
私はなおもパンダを追い続け、手を伸ばせばパンダに届くところまで近づきましたが、あとちょっとのところで足がもつれ、前のめりに転んでしましました。
ああ、パンダ、行くな。戻ってきておくれ・・・と、いう私の叫びがむなしく暗闇に消えていきました。
もう、姿が見えなくなってしまったパンダの声だけが、暗闇から聞こえてきます。
「そんなに悲しまないでくれ。私は必ず生まれ変わって、再び君の・・・。」
とうとうパンダの声も闇に飲み込まれるように消えてしまいました。
暗闇に取り残された私は、起き上がる気力もなく、ただ、パンダの消えていった先を見つめ続けていました。
そして、パンダの残した最後の言葉を思い返して、今は信じて待とうと決めました。パンダは必ず生まれ変わって、私の前に再び現れると。