職員室に戻って席に座り、背中に何かついているなあ、と、思って手を後ろに回してみると、立派なトビズムカデ(Scolopendra subspinipes)がついていた。噛まれなくて良かった。
おもちゃだと思って近づいてきた同僚職員が、リアルだと気づいて騒ぎ出す。ムカデのたぐいには毒があるから、ヒトは本能的にムカデに恐怖を感じるんだろうな。
自分も好きではないけれど、いっぺんジックリ見てみたいなと思っていたので、これはチャンスとカメラを取り出し撮影を始めた。同じ多足のゲジとかと違って、身体が黒く硬質で男らしさすら感じる外見である。どんな顔してるんだろう。
ムカデの脚の動きは、サインカーブのようで美しく、滑らかである。
こんなに脚があったら自分の脚を踏まないかどうか心配になり、微速度撮影を試みた人によると、やっぱり踏んでたとか。
トビズムカデは暴れたりもせず、落ち着いている。逃げる風でもない。生態系の中で上位にいる強い生物なのだろう。未知の状況に置かれたとき、むやみやたらな行動がプラスにならないことを知っているのだ。こんなにおとなしい生き物なんだ~。
顔を見ると、思っていたより可愛い。撮りたかったんだけど、コップに入れてしまったのでうまくいかない。周囲の目もあり(私も錆びたな)、長く職員室に置いておくわけにもいかなくなった。ここにいたら、いずれ殺されてしまう。
私は外へ出て、生徒に触れる危険のないところまで行くと、「お逃げ」、と行ってそっと彼を地面に這わせた。
相手が嫌われ者の虫だとしても、殺生は嫌いだ。私は、校舎に迷い込んだ虫は、それがハエでも逃がしてあげることがほとんどだ。彼らも生態系の一員だからね。きっと巡り巡って社会の役に立っている。
こんな私にも許せない生き物と言えば、そう、蚊とゴキブリ。あいつらだけは。